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【シルクロード8】トルファン三 おっぱい火焔山

 前回かたったとおり、やんちゃな郭くんと同じツアーに参加したその日。
 まる一日かけて、吐魯番(トルファン)周辺の観光スポットをめぐりまくった訳だけど、それらを挙げると、
・蘇公塔(250前のイスラム教の塔)
・火焔山
・阿欺塔那古墳(アスターナ古墳群:時折、未整理の古墳もあって、うっかり勝手にはいるとガチのミイラとご対面)
・高昌故城
・艾丁湖(アイディン湖:海抜マイナス150メートルくらいの、塩分濃度がめちゃ高い、ほぼ泥な湖)
 ──ここから郭くんの暴走バスが展開!──
・葡萄溝(ここで郭くん主催の暴走疾走&農場主のお説教)
・坎児井(カレーズ:地下を流れる水利施設)
・交河故城
 というラインナップになる。それらの多くが、中学生以来の憧れにまつわる場所で、全部に言及するときりがないので、特に好きな場所に絞ってみると……。

●火焔山

 西遊記で、三蔵一行が燃え盛る山を背景に牛魔王と熾烈な戦いを繰り広げる舞台……のモデルになったと言われる山だ。
 実際、赤みをおびた山肌に、縦のすじが無数に刻まれたその威容は、劫火がめらめら燃え盛っているようにも見えるし、これが暑さでかげろうが立ち昇っていると、ますます火炎そのものな風景になる。
 ……わたしが撮った写真では、なんか白っぽく霞んで写っちゃったので、単なる縦皺の山にしかみえないけれど。

 陳舜臣の〔新西遊記〕がわたしの心の書というのは、前に述べたけど、その著作の中で陳舜臣はこんなことを言っている。
 表側の、火焔もえさかる威容から一点、車でその裏側へまわってみると、その姿はむしろ、
(わあ、おっぱいみたいだ)
 それを読んだ当初の、中学生のわたしは、「えええ〜?」と思ったのだけど、それならそれで実物をいつかこの目で、
(見てみたい……!)
 と思ったものだった。
 この日が、まさにそれが叶う瞬間になった。

 わたしを乗せた(郭くんがイケイケで運転する)ミニバスは、火焔山の表側から、山あいの細い道をたどって、やがて期待どおりに裏側へ。
 最後部の座席に陣取っていたわたしは、抜け目なく、ずっと背後の景色を注視していた。
(これ……が「おっぱい」なのかな。そう見ようと思えば、見えないこともないけど)
 肩すかしをくらった気分だった。
 それは普通に丸い山だったから。
 あるいは、陳舜臣ほどの大家といえども、心のどこかに中学生か高校生男子の気持ちを持ち続けていたのかもしれない。
 火焔山の裏側から目を離し、前へ向き直ったわたしは、ちょっとおかしくて、くすりと笑う。
(男子って、しょーがないなー)

おっぱい火焔山

次回は、唐にほろぼされた高昌国の残り香を探求。

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