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【飯岡】打ち上げ花火(1)絶品な海の幸と豚肉、いちご

 夏。
 だいたいこの時期、花火がテレビにでると、BGMはdaokoと米津玄師の『打上花火』である確率が高い。
 6年前のアニメ映画の曲。
 わたし、これが大好きで、夏になるたびに円盤を再生してるし、そもそも、その原作ドラマのファンなのだ。

 大学時代、岩井俊二監督にはまって、可能な限り過去作をほりおこしてったもんだった。
〔打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか〕もその一つで、たぶん、岩井作品の中で一番好き。
 30年も前の作品なので、映像が古くて粗いけど、それも一種ノスタルジックな味わいをかもしてると思う。

 ヒロインのなずなは、親の一方的な事情で転校を余儀なくされた小学六年生。
 そんななずなは家出を強行して、主人公の典道を振り回しに振り回しまくる。
 下手すればサイコパスレベルとさえ言えるほどの、わがままな振り回しっぷり。

 でもね……なんか、なずなに共感するんよ。
 自分ではどうしようもない運命でも、結果が変わらなくても、気の済むまで抵抗してみた、夏の一幕。
 連れ回される典道は「訳わけんねー」とおもいつつも、付き合ってくれる。

 でも〔打ち上げ花火〕を好きになった一番の理由はもっと単純で、夜の学校プールへ忍び込み、二人で服のまま入り、きゃっきゃと騒ぐシーン。
「気持ちよさそう……」
 本当にやったら炎上ものだとは思うけれど、このシチュエーションは激しく憧れた。
 背徳的で、どきどきするシーン。
 それを呼び水として、何度も見返して、この作品にこめられたいろんな魅力に気付いてったっけ。

 この〔打ち上げ花火〕は、根底にとても文学的な空気感がただよってる。それは、アニメ版も同じで。
 いや、岩井俊二作品はどれも、そこはかとなく文学的な香りがすると、わたしは思う。
 何度も観かえすと、行間にこめられた「心のうごき」があちらこちらに散りばめられていることに、気づける。

          ◯

 そのロケ地となったのが、千葉県旭市の飯岡。
 聖地巡礼として、何度も訪れた。
 どうせなら、毎年7月末の土曜日に開催する花火大会〔いいおかYOU・遊フェスティバル〕の日がよい。
 ……が、遠方からの宿泊を前提とするなら、かなり早い段階で予定をおさえておく必要がある。
 特に、会場どまん前の〔いいおか潮騒ホテル〕は、もたもたしているとすぐふさがる。
 4月時点での予約でも、無理だった気がする。

 なので、わたしの場合はいつも日帰りの強行軍。

 昼間のうちから海水浴場の萩園海岸はにぎわいを見せ、いろんな屋台が立つ。
 海水浴客むけのレストハウスあたりにはステージが立ち、さまざまな催し物が入れ替わり立ち替わり披露される。
 この祭りのシーンも〔打ち上げ花火〕のラストシーンを想起させる、重要なロケ地だ。

いいおかYOU・遊フェスティバル 屋台
いいおかYOU・遊フェスティバル 屋台

 花火の日に宿泊するのはかなり厳しいとしても、他の季節に一度だけ、いいおか潮騒ホテルを利用したことがある。
 もちろん花火なんかないけど。
 泊まってみたら、その夕食は、かなりあなどれない内容だった。
 気軽にバイキング形式でさまざまな料理を取れるようになっている一方で、メインとなる料理はすでに席にセッティングしてある。
 特に、お刺身が素晴らしかった。
「これ、まるで魚の筋肉を食べているような……」
 こりこりと弾力のある刺身なんて、そう滅多に食べられるもんじゃない。
 それほど新鮮で、身が引き締まっていた。

千葉 九十九里浜の刺身

 飯岡は漁港だから、魚介類が美味しいのは当然としても、地味にあなどれなかったのは豚肉だった。
 品質のよい豚肉は、焼くと独特の甘みがでるものだけど、ここの豚肉は特に、それが強くて、噛むほどにじんわりと口中へ旨味がひろがる。
 聞けば、
「千葉県産は、ブランド豚にも引けを取らない自信はあるんですよ。しかし悲しいことに……ブランド力がないんですよね」
 ホテルの人が、そう話してくれた。
 ついでながら、それはいちごにも同じことが言えるようで、飯岡のいちご園でたらふく頬張った時は、
「こんな美味しいいちご……初めて食べた」
 甘味と酸味のバランスが絶妙。
 わたしの地元には、全国区で有名なブランドいちごがあるけれど、すまん、それすら霞んだ。
 地元愛がないとそしられてもしかたがないけれど、美味に関しては正直な感想しか言えんので許してほしい。
 飯岡のいちごも豚肉も、最高!

いいおか潮騒ホテルの夕食


いいおか潮騒ホテルの夕食

          ◯

 この、いいおか潮騒ホテルには、温泉がある。
 うきうきと入浴すべく、大浴場のとびらを開け放つと……。
「なにこれ黒い!!」
 いや、本当に真っ黒だった。
 墨でも流し込んだか、あるいは熱いコーラか。
 この辺一帯の湯は、みんなこんな感じらしい。

 あまりのインパクトに、わたしはロビーへそそくさと急ぎ、写真におさめる許可をもらった。
 幸い、時期外れもいいとこの10月で、他にお客さんがほぼいない独占状態。
 好きなだけカメラを向けることができた。

九十九里浜近辺の温泉は、真っ黒

 ああ……一度、ちゃんと数ヶ月前(できれば、年明け早々にでも)予約をとって、今度こそ、いいおかYOU・遊フェスティバルの日に宿泊したいものだ。
 たぶん、料金はめっちゃかさむだろうけど。

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