【洛陽】 かつての都は、のんびりまったり
…洛陽の街を歩きながら、
(日本の奈良に似ているかもしれない……)
ふと、そんな感想をいだいた。
洛陽は、中国史の中で幾度もその名が出てくるほど、歴史がつまった土地だ。
いくつもの王朝がここを首都としたほどの土地なのに、現代ではすっかりひなびている。
それが洛陽という街だった。
人の気風ものんびりしていて、そこがまた奈良県人のイメージに合う気がする。
少なくとも、わたしには奈良県出身の友達が2人いたが、どちらもおっとりしていて、人が好い性格だった。
わたしにとってのサンプルが2人しかいないので、これで決めつけるのは乱暴かもしれないけれど。
首都だった歴史を持つ矜持を秘めているからこそ、あくせくせずマイペースで余裕を見せている。
そんな都市が、洛陽だった。
なお、同じく中国の歴史で長らく首都をになってきた都として、西の方500Kmの隣には長安(現在の西安)があるが、こちらは京都のイメージに近かった。
今も都会として機能していて、人の往来も多く、歴史に対するプライドも高い。
◯
中国のストリートビューで確認してみたら、
「うわあ……まるで変わってないや」
変化の激しい中国の中にあって、今もなお、洛陽が持つ田舎の地方都市らしい雰囲気は、そのままだった。
白くひびわれたアスファルト道路。
ところどころ欠けたタイルの歩道。
うすぼんやりと煤けた建物たち。
それでいて、ほどよい賑やかさを保ち、なおかつ、どことなく垢抜けない様子も、昔のまんま。
道ゆく人たちの気風がどうなのかは、画像では伝わってこないが、たぶん今なお、おっとりしているんじゃないだろうか、という気がする。
わたしが初夏の10日間ほどをすごした駅前のホテルも、笑えるくらいほぼ変わっていない。
……と思ったら、ロビーの内装は綺麗に整えられ、それどころかピカピカに光っていた。
ただし、隣接する売店は、あまり変わり映えがしない。
洛陽に到着した時、北京で買った合皮のリュックの革紐がきれたので、その売店で接着剤を買おうとしたら、店員のおばちゃんがにこにこと、
「貸してみ」
おそるおそるリュックを渡すと、太い針で縫い初めてくれたっけ。
合皮ながらも、分厚い革紐なので、なかなか針が通らず、途中で2本くらい折っていた。
それでも丁寧に仕上げてくれて、
「さ、これでまた背中にしょえるよ」
そのおばさんだけではなく、同じフロアの店員さんの皆がにこにこと、何度もお礼を言うわたしの様子を見守っていた。
中国人は気が強く、我も強いイメージをいだく人が多いかもしれないけれど、人情の厚さも桁外れなのだ。
最初は5日間ほどの滞在を予定していたけれど、洛陽全体にただようマイペースな雰囲気が心地よくて、
「さらに宿泊日数を追加したい。安くできる?」
ロビーで交渉し、なんと半額……とまではいかないまでも、6割くらいの値段に抑えることに成功したっけ。
◯
10日間も滞在したものの、とりたてて特別なことをした訳ではない。
龍門石窟などの観光地へ行くくらいのことはしたけど、後はぽや〜んと過ごし、洛陽の街のあちらこちらを散策することに費やしていた。
中国の大河ドラマが放送されていたら、そのテーマ曲の歌詞をノートに写してみたり。
書籍の市場で、中国語版のドラえもんを見つけたので、何冊か買って、どう翻訳されてるか興味ぶかく読んでみたり。
近くの野菜市場(この場所は、ストリートビューではもう見当たらなかった)にて、超絶に安いきゅうりやトマトを買って、それを夕食として、かぶりついてみたり。
きゅうりは棘が硬く、見るからに強そうで、栄養がたっぷりつまっていそうだったし、トマトは太陽の光をぎゅっと濃縮したかのような赤みだった。
そうそう、露店にて10Kgもの巨大スイカを買ったりもした。
さすがに重すぎの大きすぎで、3日間はもちそうだったけれど、ホテルに冷蔵庫がある訳でもなく、切り口からどんどん腐っていって、悲しい気持ちになったっけ……。
腐りきるのが早いか、わたしが食べ切るのが早いかの競争で、結果……わたしは敗北した。
全体的に、食べ物が安定して美味しく安かったのも、洛陽の特徴だ。
散歩の途中で、ふと鼻先をスパイシーな香りがくすぐっていったと思ったら、イカ焼きの屋台があったり。
同じく屋台にて〔豆腐脳〕なんていう、ちょっとインパクトのある名前の食べ物に出会って食してみたら、とてつもなく美味で、連日これを食べるために、あえて遠回りして、その道を通ってみたり。
これは中国でも比較的メジャーな点心の一種らしい。
日本へ戻った後、どうにか再現できないかなと考えて、こんな感じにしてみた。
1:豆腐を砕いて、器へそそぐ。
2:半日ほど放置して、器の中で再び固まってくれるのを待つ。いっそ、固まらなくてもいいや、というつもりで。
3:タレを作っておく。
味覇(うぇいばぁ)や醤油で適当に調合し、八角を入れて風味を加え、片栗粉でとろみをだしておくのだ。
4:豆腐を電子レンジで温める。
5:刻んだザーサイを乗せ、タレを流し入れ、胡麻油を垂らす。
こんだけ。
帰国後、実家で一度つくってみた。
そこそこ再現できたと思うけれど、この豆腐脳、地域によってもさまざまばバリエーションがあるようだ。
もうひとつ、洛陽で出会った味がある。
それは〔西安涼皮〕と称する屋台の冷麺で、米粉かなにかを、きしめんのように平たく麺にしたものへ、刻みきゅうりなどを添え、ラー油がぴりりと利いた醤油系のタレで食す一品。
洛陽の次には、西安へ向かう予定だったので、
「この西安涼皮、めっちゃ美味しかったから、本場ではたっぷり食べよう」
そう思ったものの、当の西安では、一度たりとも見かけなかったのであった。
つづく。
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