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【沖縄】その6 笑い死に寸前!『ハブショー』


「お前、毒もってんのかー? いえす・あい・はぶ!」
 ハブ博物公園のチケット売り場にて、夫(当時は彼氏)が放った、必殺の駄洒落だ。
 わたしは苦笑で済ませたが、受付のお姉さんは、なんと想定外の大笑いで、
「えええ……?」
 信じられない光景を見たような顔のわたしに、彼のドヤ顔が炸裂した。

ハブ・ミュージアムパーク

 かなりお気軽すぎの「ザ・観光」って感じで、ダサいかなー、と思いつつ〔おきなわワールド〕なんて場所へ行ってみた。
 結論から言うと、
「や、行ってよかったよね!」
 特に〔ハブ博物公園〕は、必ず行かねばならぬ重要スポットである、と思い知らされた。
 当然、ハブに関するさまざまな研究資料をつめこんだ、大真面目なコンセプトの施設ではある。国際的にも非常に有意義な研究成果を展示してある、学術的にも優れた場所なのだ。
 ……でも、ハブにそんな興味ない素人のわたしでさえ、実に『行ってよかった』と思える、抱腹絶倒の観光スポットでもあった。
 もしかして、沖縄旅行でいちばん印象深い場所かもしれない。

ハブが丸呑みする瞬間、のホルマリン漬け

 骨格標本のたぐいはもちろんのこと、ハブが小動物を捕食したその瞬間をホルマリン漬けにした展示物などもあって、実にエグい。
 そんな中で、
「う〜む、ハブ・イン・ハブかぁ……」
 彼が感心したように、顎へ手をやり、うなる。
 ハブがハブを丸呑みにしているホルマリン漬けもあって、よくぞこんな瞬間を捕獲できたもんだと感心しないではいられない。
 たぶん、相打ちになった結果なのだろうね。
 彼の、なんとも言えない的確なネーミングに、周囲のおばちゃん達が不覚にも吹き出した。

 博物館のあちらこちらに、職員さんのセンスが大爆発した展示がひしめいていて、見てまわるだけでも楽しく、どうかすると笑い死にそうにもなる。

 極め付けは〔ハブショー〕だった。
 ステージ上の職員さんが、にこにこはつらつと、口上を述べる。
「かつては、ハブとマングースの決闘ショーだったんですが、昨今のコンプライアンス的見地から『そりゃいかんよね』ということになったので、今では平和に〔海蛇とマングースの泳ぎ対決〕に変更となっています」
 ハブに限らず、あらゆる蛇の生態も網羅しているから、他の蛇が出てきてもかまわない、ってことなんだろうけれど、マングースの部分はどうも変わらないらしい。
 ステージには、それぞれが泳げるほどの水を満たした、レース向きな長細い水槽が準備されていて、スタート地点にはマングースと海蛇がスタンバイしている。
 隣の彼へ、
「ね、どっちが勝つと思う?」
「うーん、やっぱり泳ぎに関しては、海蛇の方に軍配があがるんじゃないか?」
 この日の午前中に体験したダイビングの最中に目撃した、悠然と海底を泳いでゆく海蛇の姿をおもいだす。
 ショー進行係のお姉さんが、はりきった声で、
「それでは用意、スタート!」
 瞬間。
 我々は思いもよらない、しかし予想しようと思えばできなくもなかった光景を、この目に焼き付けることとなる。

 海蛇は、悠然と泳ぐ。
 どうかすると、優雅とさえ言えるマイペースっぷりで、ゴールなど知ったこっちゃないといった風情で。

 マングースは、泳ぐ、というより、走る。
 しかも必死に、ばしゃばしゃと。
 いきなり水に落とされたのだ、そりゃびっくりもするだろうし、一秒でもはやくゴールの陸地へ逃げ延びたいだろう。

 その対比が、もうね、素晴らしすぎて、わたしゃ腹筋のせいで窒息死するかと思うほど、大笑いさせられたよ。
 悠々とした海蛇(どうせいつも水の中)と、必死すぎるマングース(泳げるけど、基本は陸生)。
 もう一生、この対決は忘れないであろう。

 ショーの後は、いよいよお待ちかね、
「アナコンダを首に巻きたい方は、こちらにお並びくださーい!」
 これは、早く並ばないといけない。
 あんなでっかい蛇を首に巻いて記念撮影なんて、そうそう滅多に体験できるものじゃないし。
 ところが……。
「え、うちらだけ?」
 アナコンダを期待する列には、わたし達しかいなかった。他の観客はぞろぞろと外へ出てゆく。1ミリの興味をかもすこともなく。
 なぜだ……。
 だって、アナコンダだよ!?
 これを首に巻いて、『ぎゃー!』って表情で記念撮影したくないの!?

 アナコンダは、ひんやり冷たくて、さらっとしていて、不潔な感じがまるでしなかった。
 首に触れる感触としては、すべすべ過ぎず、ざらざら過ぎず、マットな印象。
 この時の写真を見返すと、二人とも……実に嬉しそうな笑顔を炸裂している。

アナコンダを首に巻く!

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