【上田】別所温泉・上松や(五)美人の湯とみそスープ
さて、前回の続き的に……。
ご褒美的に美味しい夕食に間に合ったわたし。
例の前菜〔七久里籠盛〕の、地鶏真田丸の皮煎餅だの、桜豆腐特性ジュレがけだの、社長が育てた上田緑大根だのに、舌鼓を打つ。
煮物に、上田緑大根と牛タンのやわらか煮、白味噌じたて餡かけ。
この時のメインディッシュたる温物は、信州産特選アルプス牛すき鍋で、これは名物のサンふじのタレで食べる。
タレに含まれる甘味は、すべて林檎由来という一品なのだ。地産地消が徹底している。
時には締めの甘味さえも「信州りんご三種盛り」になることもある。アップルスノー、りんごコンポート、厳選りんごジャム掛け……などなど。
夜が更けて……。
厄介なもの(お仕事)を片付けた後の湯は、また格別。
硫黄のかおりが、ふうわりとただよう大浴場で身を沈める。
光にすかすと、湯の花がふわふわとたゆたっているのが見える。
それらを壊さないようにすくい上げては、じっと見つめ、おもむろに顔へかける。
露天風呂には、二つの浴槽がある。
その内の一つは定員一人の大きさの、八角形の木製で、内側にライトが仕込んであるので、湯の花の動きがよく観察できる。
一見して無色透明の湯に、これだけたくさんの湯の花が舞っている様子を見れば、嫌でも、
(効果がありそう……)
な気分になる。肌もつるつるになってくれる。
別所温泉は美人の湯でもあるのだ。
紐につながれたマグカップを取って、樋から浴槽へそそぎこむ湯を受け止め、飲む。
やさしい硫黄の香りが、鼻腔を満たす。
ここの温泉は、飲めるのだ。
循環ではなく源泉かけながしだからこそできる芸当だ。
なおこの露天風呂には古めかしい電話がしつらえてあり、ビールが注文できるという気の利かせ方をしている。
ビールが飲めたら、さぞかしこれは嬉しいサービスだったろうね。
……酒がちっとも飲めない体質の自分が、恨めしい。
夫などは、わたし以上に飲めないので、まったくもってお金がかからない夫婦だなと思う。その代わり、ご飯は通常の三倍くらいは行けるので、それでプラマイゼロ。飲めない分を食べ物で元を取るスタイルだ。
心ゆくまで、湯にひたり……。
片隅には、小さな祠が鎮座しており、そこへ向かって手を合わせ祈る河童の像がある。
しみじみとした、何とも良い像だと思う。
陶器は当然ながら土を練り込んで作る物だけど、この河童は、いかにも土から生まれた佇まいで、言語化しづらい味わいを醸している。
露天風呂を去る間際にそっと手を振って河童へ挨拶をするのが、この湯へ入ったときのわたしの習慣なのだ。
実際の湯の様子は、上松やさんの公式サイトで見ることができる。→「旅宿上松や 公式サイト」
河童の像も、右端にちらっと写っているし。
○
湯から上がったら、すぐ目の前の湯上処「悠」で休憩。
そこで待っていてくれるのは、前にもちらっと紹介した、いくらでも飲み放題の「みそスープ」。
「料理思考室」で毎日時間をかけて丁寧に作られている。
にごりのない上品な黄金色のみそスープを、猫舌のわたしがふぅふぅ冷ましながら飲む。
コロナ禍の時にはさすがにこのスープは提供を停止していたけれど、わたしが我慢しきれず(ワクチンも二回接種したし!)と訪れた2021年10月には、復活してくれたばかりの絶妙なタイミングだった。
あの後すぐにオミクロン株の騒ぎになったし、ほんと、いいタイミングで行けたよね……しみじみ思う。
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