[コラム]特許分類と「技術開発がさかんな地域」の関係
こんにちは! 特許調査の仕事をしてます、酒井と申します。今日は「特許分類と、技術開発の地域性との関連」について書きます。
冬場の嫌われ者といえば「インフルエンザウイルス」
昨シーズンはインフルエンザの流行も抑制されたと報じられていましたが、この冬はどうなるのでしょう。私も先日、インフルエンザの予防注射に行ってきました。
そういえば、インフルエンザの流行が下火だったおかげで、
タミフルやリレンザ、それに専用の「吸入器」(下図参照)も
しばらく見てないな、と思い出しました。
(もちろん、お世話にならないのが一番なんですけどね。)
ということでこの記事では
「吸入器」を題材に「特許分類と技術開発の地域性」について
書いてみたいと思います。
技術開発が活発→特許が多く出願される→分類が細分化される?
特許分類については、このような話があります。
・技術開発が活発な国・地域があったとして
・その地域では、他の地域よりも多くの自国出願が継続的に行われる
・結果的に、公報発行件数や、過去分公報の蓄積が増えるので
・IPC(国際特許分類)1項目に分類された公報件数が多くなり
・特許分類(ここではCPCやFI記号)を細分化するニーズが高まる。
たとえば「北欧、カナダの紙・パルプ」とか「スイスの時計」「日本の自動車」などは、「ある国で継続的に技術開発、特許出願が行われてきた例」と言えそうです。
日本のFI記号では、独自に細分化された項目がいろいろあります。
典型的な例が「緑茶」です。
日本で分類が細分化されている例「緑茶」
FI記号(日本)または CPC(米国・欧州)で特許分類が細分化されている状態は、特許庁の「分類対照ツール」で確認できます。
下図は「A23F 3/00 茶;茶の代用品」の周辺を表示した例です。
左から IPC/FI記号/CPC の順です。
FI記号だけ、たくさん分類項目がある = 細分化された状態 です。
(図はクリックで大きくなります)
「日本だけで」細分化された状態を確認して頂いたところで
この記事の本題、「(薬の)吸入器」の分類を見てみます。
吸入器の特許分類(IPCとFI記号、CPC)
A61M 15/~ 「吸入器」の分類表です。
並び順は上記と同じく 左からIPC/FI記号/CPCです。
CPCだけ、かなり分類項目が充実しているのが一目でわかります。
「技術開発が活発、かつ継続的で、過去の公報数が多くなっている地域において、特許分類を細分化したいニーズが出てくる」という説が正しいとすると、吸入器の技術開発は欧米で活発・・・? ということになります。
本当にそうなのでしょうか?
これ、現在はEspacenetで簡易的に確認することができます。
Espacenetで検索
※上記例では簡略化して A61M15 と検索していますが、
実際の検索では、ちょっと複雑な分類選択をしています。
こんな感じです。
ちょっと複雑な検索をしている理由は、
A61M15 だと「タバコ」が入るから、です。
今回は上記分類をよけて、「医薬品用の吸入器」っぽい分類で検索をしてみました。
検索ができたら「フィルター機能」(簡易統計機能)を使います。
「技術開発のさかんな地域」はどこか?を確認したいので
・発明者の居住国 または
・企業(出願人)の所在地 の集計が使えます。
発明者の居住国統計 (Espacenet)
Espacenetの画面上で「フィルター」をONにして
Inventors - country (発明者居住国)を見ます。
トップ3は米国、イギリス、ドイツです。
出願人の所在地統計(Espacenet)
出願人の所在地統計でも傾向は同じです。
国 × 企業 を確認する (Espacenet)
発明者、出願人ともに米国が1位で
「発明・出願の多い国では分類を細分化したくなる説」が
裏付けられた感がありますが、
米国で「吸入器」の特許出願を多く行っている企業はどこなのでしょう?
「やっぱり製薬会社?」という気もしますし、
「容器メーカーでは?」とも考えられますよね。
ちなみに、2021年度版の「製薬会社売上高世界ランキング」はこちらです。
米国の製薬会社、と考えると、メルク、アッヴィ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどが候補になります。
では・・・
Espacenet「出願人所在地」から。
US(アメリカ)をクリックし、色が変わった状態でApplyします。
すると、検索条件に「アメリカの出願人」でフィルタがかかるので・・・
この状態で「出願人ランキング」を見れば、
米国で誰が出願しているか?がわかります。
米国トップ3はスリーエム、グラクソ、ARADIGM。
私、ARADIGMは初めて知りました。ドラッグデリバリーシステムを研究している会社のようです。
ということで、
技術開発が活発→特許が多く出願される→分類が細分化される
という傾向、確かにありそうな気がします。
特許分類表で、FI記号だけ、またはCPCだけが細分化されたエリアに出会ったら、お遊びで検索してみると意外な発見が得られるかもしれませんね。
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