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特許調査の基礎 (Nigel Cleak)から:発明の名称「だけ」で検索しない理由

こんにちは! 特許調査をしています、酒井というものです。

「自分が学んだ特許調査」のあれこれから
「発明の名称 ”だけ” では検索しない理由」と
「だけど、発明の名称を”他の項目”と組み合わせると、こんな使い方ができるよ!」という話を書きます。

「発明の名称だけで検索しない」の部分は、ナイジェル・クラーク先生の講演録「The basics of patent searching」からです。

講演録はこちら(テキスト)

ナイジェル・クラーク先生:登場人物紹介

講演録中盤 6. Why shouldn’t I search in patent titles only? からの引用です。毎度のざっくり和訳で失礼いたします!

多くの場合、「発明の名称」は曖昧

6. なぜ特許のタイトルだけで検索してはいけないのか?
タイトルは、キーワードを使って検索するのに最適な場所とは限りません。

多くの場合、タイトルは曖昧であったり、情報に乏しかったりします。
2つの極端な例を挙げます。
EPOのデータベースには「冷蔵庫」(1つの単語のみ) が 19,000件近く収録されています。(元の表現:“Refrigerator” (one word only))

19,000件・・・ほんとかな・・・?

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いやいやいやいや!
発明の名称 = Refrigerator で、10万件近くヒットしますけど?

しかしよく見るとナイジェル先生
「“Refrigerator” (one word only)」って言ってるので・・・
こういうことかな?

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冷蔵庫とよく一緒にいる単語を NOT で除去していくと
70000件までは減りました。
(1単語のみ、の検索方法がわからなくて・・・このように。汗)

ということで、完全再現はできなかったけれど、
発明の名称=冷蔵庫、が相当たくさん収録されているのはわかりました。
「発明の名称だけ」では、調べたい出願内容を特定するのは難しそうですね。

とても具体的な「発明の名称」

一方、非常に専門的、かつ具体的な発明の名称としては
3-(5-nitro-2-furyl)-1H-pyrazolo [3,4] PYRIMIDINS-4(5H)-ONES(US3755324)が挙げられます。

これですね!

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とても具体的で、これなら「探している技術内容」をバッチリ探せそうです。が、このような発明の名称は「例外的」ってことですね。。

ナイジェル先生のお気に入り

私が気に入っている発明の名称は、
“Generally spherical object with floppy filaments to promote sure capture" (確実な捕捉を促す柔軟なフィラメントを有する一般的に球状の物体)
(US4756529)である。これ以外、どうやってクッシュボール(Koosh Ball)を表現するのだろう?

クッシュボール、と聞いて、
みなさんは即座に「あぁ、あれ!」って思い浮かびましたか?
私は・・・思い浮かびませんでした。

ちなみにナイジェル先生のお気に入り、US4756529には
対応の日本出願がありました!!が。
発明の名称は面白くもなんともない「遊戯具」(・・・ちょっと残念)。

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US4756529、Espacenetではこちら

そして図面はこれ

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カラーなら「あれかーー!」って思い出せる方、たぶん多いはず。(画像は米国Amazonの商品ページから)

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「発明の名称」だけでは誤解を生むことも

「発明の名称」は、誤解を招く可能性もあります。
「電子機器」(Electronic apparatus)(US2005045309)は、
電子機器に関する特許出願ではなく、電子機器の冷却回路の特許出願です。

この例は・・・日本企業の出願です。

ということで、日本出願の発明の名称を見ますと「電子機器装置」
電子機器(を冷却する回路)装置、って感じなのだと思います。
しかし、米国出願は Electronic apparatus なので、
イギリス人のナイジェル先生、混乱する・・・と。
内⇔外 と 翻訳 まわりで、ちょいちょい発生していますよね これ。

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ナイジェル先生の結論「少なくとも調査対象は要約で」

キーワードで検索する場合は、少なくとも要約を含め検索範囲を広げた方が良いでしょう。特許出願には、簡潔で明快で記述性の高い要約が求められます。そのため、要約が含まれていれば、検索できる確率は格段に上がります。
なお、発明の名称や要約には、法的効力がありません。そのため、検討不足な表現、誤解しかねない表現があっても、修正されない点に注意が必要です。

もちろん、公報全文を検索すれば、関連文書を見落とすリスクは減ります。一方で、より多くの公報がヒットし、無関係な文書(いわゆるノイズ)が多くなるというトレードオフがあります。

上記の「ナイジェル先生の結論」には、あまり異論は出ないんじゃないかな?と思います。 発明の名称「だけ」で検索すると、
 ・「冷蔵庫」のように、漠然と大量にヒットしたり
 ・「クッシュボール」のように、適切ではあるけど検索しにくそうな例や
 ・「電子機器」のように、内容とズレがあるもの
などが多々あるので「名称だけ」で調べるのはお勧めしないよ!ってことですね。

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酒井からの補足

私も基本的には「ナイジェル先生に全面賛成」です。
「名称だけ」で検索するのって、賭けみたいなものだと思います。
調べたい内容と「発明の名称」がすごくマッチングしていればいいけど、いろいろな分野の公報全般を眺めると、マッチングしているケースって限定されると思います。

そうなのですが

「名称だけ」検索がお勧めできないだけであって、個人的には
 ・特許分類  and 名称  とか
 ・要約/請求項/全文 and 名称 なども
たまに使います。

いずれも、特許調査の初期
いわゆる「予備検索」(試し検索)の時に、
スピードアップする目的で使う事が多いんですが・・・

具体例を挙げてみます

「発明の名称」使用例:商品カテゴリーを限定する

例:「ヨーグルトは腸内細菌叢を『良い菌』にしていく働きがあるよ」的な特許を探すとき、の予備検索例

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全文検索で「腸内細菌 腸内フローラ 腸内フロラ」
発明の名称に「ヨーグルト、発酵乳・・・」と入力すると
一瞬で & 良い感じに 予備検索ができます。

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「発明の名称」使用例:ディスプレイの駆動方法だけを探す

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こちらも予備検索をスピードアップする例です。
例題 有機ELディスプレイのスイッチング素子駆動に関連する特許を探す

おそらく名称に「制御」や「駆動」の語を含む可能性が高いので・・・

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結果です。

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「発明の名称」使用例:「お薬(部外品や化粧品も?)」に絞る

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例題:美白に効果のあるアルブチン配合化粧品の予備検索
「剤ってなんなのさーー!?」と、突っ込まれそうな気がします。。
いや、そうでもないのかな??

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検索結果。(ちゃんと色白になれそうですよ?)

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というわけで (まとめ)

ナイジェル先生の言うとおり「発明の名称だけで検索」はお勧めできないのですが、「何か × 発明の名称」の組合せは、予備検索を高速化できたりします。(もちろん、調査ターゲットとの相性がありますよ!)

「この分野で、名称中のこの語句を使うと、すごく濃い集合ができる」という組合せは確かに存在するので、ストックしておかれるのもいいと思います。

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