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Modular Note #1

モジュラーシンセの使い方については、今まで主にX(Twitter)で動画を上げたついでに書いてきましたが、自分自身の備忘録としてはあまり効果的ではないことや、少しでも他のユーザーの方の参考になれたらと思い、今回はじめてnoteにまとめて記事にしたいと思っています。


<はじめに>

どこから始めれば良いか迷うところですが、まずは直近の動画を元にシステムの概要について何回かに分けて書いていこうと思います。
初回ということもあり、それにまつわる経緯も書いた方が良いかと思うので、非常に長々としたまわりくどいものになるかと思いますが、何かしらの参考になれば幸いです。


・システムについて

システムは以下の通りです。基本的にライブを想定したものになり、PCやグルボなどは使用せず、モジュラーのみで行っています。パフォーマンス性はもちろんですが、なるべく可搬性や会場でのセッティングのし易さを考慮した設計を心がけています。
ライブセットは絶対にこれ以上は拡張しないと決めているので、もし演奏ジャンルが違ったとしてもこのサイズに収まるようにモジュールを選んでいます。
1年ほど前に初めてライブをした時は、準備の余裕もなく制作に用いていた大掛かりなセットをそのまま会場に持ち込んだことがありますが、運搬やセッティングも大変だし、大切なモジュールの故障や盗難のリスクが増してしまうとも考え、システム全体の縮小化を図り今に至ります。
その中で、苦手意識のあったサンプラーモジュールを導入することが、一番手っ取り早く効果的だと考え、Rossum Electro-MusicのAssimil8orを購入しました。
演奏のクオリティを保ちつつ、現実的なサイズ感にシステムを縮小できたかなと思っていて、今のところはとても満足しています。

<Main Case>
<Sub Case>

使用ケースは、メインの方がIntellijelの7U Performanceケース(104HP)で、サブは4Uパレットケース(104HP)です。ケースについては別途記事にしたいところですが、Intellijelのケースはデザイン性、機能性、どれをとっても申し分のないクオリティでとても満足しています。
(*4Uのパレットケースは電源ケーブルが付けづらいなどの問題はありますが・・・)
システムを組む際に度々問題になる電源容量の面でも、不安定になったことは一度もありません。2020年の夏に買ってからもう4年経ちますが、特にトラブルもなく、数あるユーロラックケースの中でも信頼できるケースのひとつだと思います。


<Clock/Gate Source>

それでは本題のシステムを構成するモジュールについてですが、まずはシーケンサーについて書いていこうと思います。
モジュラーのシーケンサーは個性的なものが多く、数あるモジュールの種類の中でも自分の音楽性に合ったものを選ぶのが一番難しいと感じています。
僕は色々と悩んだ末、TipTop AudioのTrigger Riotというトリガー/ゲートシーケンサーモジュールを購入しました。これは発売から10年ほど経っていると思いますが、周りに使用している人も少ないし、デモ動画を見ても即購入に至るほど強い興味を感じることはなかったのですが、なぜかずっと気にはなってはいて、原宿にあるシンセの聖地Five-Gでスタッフの方にレクチャーしてもらったところ、「これは凄い!」となり購入するに至ったのでした。ここのスタッフの方たちは本当に知識が豊富だし、親身になって説明して頂けるしで感謝しかありませんが、たまに回路図の話から宇宙の話まで飛んだりするので、レクチャーを受ける際はそれなりの覚悟が必要です。

モジュラーをはじめた当初、シーケンサーはモジュラーではなく、PolyendのPoly2(現在ディスコン)というMIDI to CVモジュールを介して、ElektronのOctatrackか、Analog Fourを使用していました。
Elektronのシーケンサーはとても優秀ですが、特にA4は元々モジュラーとの連携を念頭に設計されているので親和性が高く、使用頻度は落ちましたが今でも大事に持っています。
ということでしばらくはElektron+モジュラーという構成でしたが、とあるイベントでKarchさん(https://x.com/karch615)がモジュラーオンリー(しかもほぼMantis1台だけだったような)で即興演奏されているのを観て、とても衝撃を受けたのを今でも覚えています。それがきっかけで、自分も同じようにモジュラーだけでやってみたいと思い立ち、まずはElektronが担っていた機能をモジュラーに移行すべく、シーケンサーモジュールを探す旅が始まったのでした。


*下の動画は、以前Karchさんが僕の家に遊びに来てもらった時にRECしたもの。
いや〜ほんとカッコ良い!近いうちにKarchさんへのインタビュー記事も書きたいな(1年前からそういう構想はあるのだけど、なかなか実現に移せていない)。


シーケンサーを選ぶ条件として、極めて踊りにくいダンスミュージックを作っているという悩ましい前提から、まずは、①多チャンネルであること、②パターンをセーブできて展開によって瞬時に切り替えれることを満たしている必要があり、せっかく全てモジュラーでやるのだから、③即興性に優れていることを求めていました。
他の候補としてはMake NoiseのRene2やWinter ModularのEloquencerなどがありましたが、前者は①が弱く、後者は③が弱いという印象を受け、結局①〜③の要素がバランスよく備わっていると思われたTipTop AudioのTrigger Riot(以下TR)を選びました。

・Trigger Riot

TRの機能については、まずはじめにFive Gの説明を一部引用させて頂きます。

Trigger Riot はクロックディバイダーベースの革新的な8チャンネル・トリガーシーケンサーです。一般的なトリガーシーケンサーが16個のステップボタンを使用して任意のタイミングでトリガーを設定するのに対し、Trigger Riotはクロックディバイダーがマトリクス・ミキサー上に並んだ設計となっており、主に「クロックディバイドレート」でトリガーを設定します。
本体に16個並んだエンコーダーを使用して横4チャンネル、縦4チャンネル、合計8チャンネルのシーケンスを同時に出力します。1チャンネルにつきその列に並んだ4つのエンコーダーで設定したディバイドレートによるトリガー信号がミックスされ、各トリガーアウトプットから出力されます。ディバイドレートの他にもModeを切り替える事で7種類のパラメーターを設定し細かなニュアンスを設定可能です。Trigger Riotには2つの動作モードがあり、Matrixモードは1つのエンコーダーを回すと縦のチャンネルと横のチャンネル両方に作用します。Independentモードは縦のチャンネルと横のチャンネルそれぞれを独立して設定可能です。

Five G <https://fiveg.net/?pid=156661473>より

TRが他のシーケンサーと決定的に違うのは、トリガー信号の幅(Pulse Width)を個別に変更し、それらを合成して、新たなゲートシーケンスを生成すること、これに尽きると思います(10年前の機種なので他のメーカーから上位互換機種が出ているかもしれませんが)。
下の図はマニュアルからの転載ですが、これを見ればそれがイメージし易いと思います。
その他にトリガーの確率や速度、タイミングの変更など、いくつかのパラメーターの設定を組み合わせると、他のリズムマシンやモジュラーのシーケンサーでは作るのが難しい、複雑なゲートシーケンスをこれ1台で作ることができます。
複雑と言っても全くデタラメなものではなく、ギリギリ何とか踊れるような興味深いリズムを作り出すことができるのが、TRを使う唯一の価値と言って良いと思います。
しかもそのパターンを保存できて、曲の展開によってすぐさま変更できたり、シーケンス中にディバイドレートを変えて違うリズムにすることも可能です。

ただ、自分が思い描くリズムを作るのにはそれなりに時間がかかるので、正直なところ、ダンスミュージックの定型的なリズムを作るのにはあまり向いていないと感じています。パターンの保存も最大で16個と、他の機種と比べるとかなり劣るので、それならスタンドアロンのリズムマシンや前述のモジュラーの2機種、同じTiptopから出ているCircadian Rhythmsの方が圧倒的に効率が良いかなと思います。
そういったものではなくて、より実験的なアプローチをしたいという方にはとてもお勧めできるシーケンサーです。
ちなみにCircadian Rhythmsは僕が好きなモジュラーアーティストのひとり、ipnotecaさん(https://x.com/ipnoteca)が使われていて、ずっと気になっているシーケンサーのひとつで、いつか使ってみたいなと思っています。
現在、Tiptop AudioはBuchlaのリイシューで注目されることが多いと思いますが、昔から先鋭的なモジュールを作っていたんですね。

僕のTRの使い方はというと、まずキックのDIVIDEを決めていくところから始まります。DIVIDEは1列に4つあるノブをいきなり全部回すのではなく、まずは2〜3個回してみて良さそうなリズムになるまで調整します。
例えば、リズムマシンで一般的に用いられている1小節16ステップで、4小節64ステップのループを組む場合は、DIVIDEの値を「2,4,8,16」という偶数を中心、または16か64の約数に設定すると規則感のあるビートになるのですが、個人的にはつまらないので、「2,9,15」とそこに奇数を混ぜてみます。すると捻れてはいるけど皮一枚繋がっているような変な感じのリズムができて面白いです。
あとは、PULSE WIDTHや必要であればSPEEDの値を変更します。さらに好みのリズムになってきたところで、PROBABILITY(確率)を調整し仕上げていきます。最後にループの範囲を決定するCycle Start/Endの値を決めるのですが、今回はその辺の詳細は割愛します。
基本的に速いテンポのリズムを作っているので、キックの音源がひとつだと、かなり単調に聞こえてしまうため、キックの音源は2種類以上用意します。
ひとつはDFAM、もうひとつはAssimil8torに入れたキックのサンプル音源です。
サンプルはどこかのサンプルパックからではなくて、ドラム音源モジュールから鳴らしてそれを録音したものを使っています。今まではTipTop AudioのBD-909やALMのTyso-Daikoを使っていたのですが、最近の音源ではMake NoiseのDPOというコンプレックスオシレーターから作ったキックを使っています。音圧に関して言えば他のものを圧倒しているし、複数の出力があるので、それらを微妙に混ぜ合わせることで質感を細かく調整できたりするので、キック音源としてもかなり重宝するモジュールだと思っています。


<次回予告>

ここから先はもうひとつのシーケンサーであるIntellijelのSteppyの役割やTRで作ったシーケンスをその後どうしているのかとか、DFAMの音作りについて書いていきたいと思っているのですが、そろそろキツくなってきたのでまた次回にできたらと思います。
だいぶお話が長くなってしまいましたが、少しでも参考になることがあったら嬉しいです。何か質問などがあれば、遠慮なくコメントください。
それでは、最後までご覧頂きありがとうございました。


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