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不育症に対する国の支援制度 ~ 官房副長官として進めてきたプロセス ~

昨年9月の自民党の総裁選の時のことです。当時の菅義偉総裁候補が公約の一つに「不妊治療の保険適用」を掲げました。大きな反響も呼びました。
そしてそれに付随して、「不妊症にそこまで力を入れるなら、不育症にも目配りしてくれないか」「不育症にかかる費用が高額で大変」との声も寄せられました。

■ 不育症とは
「妊娠は成立するものの、2回以上の流産、死産、あるいは早期新生児死亡の既往がある場合」を言います。そういう状態を指す言葉であり、ある特定の疾患を指すものではありません。いろいろな原因が理由で結果として受精したのちに子宮内で健全に子どもが育つことができず、死に至ってしまう状態を指します。
子どもを授かりづらいという点では不妊症と同じですが、一度は妊娠をして生命を身籠りながら流産してしまうという点では、精神的にはより辛いとも言われています。
詳細なデータがまだ揃えられていないなかではありますが、不育症で悩む方の人数は不妊症で悩む方の人数の3割程度と言われています。

■ 不育症対策プロジェクトの発足
総裁選後、菅義偉総理大臣が誕生し、私が内閣官房副長官に就任しましたので、不育症に着手するために総理と官房長官に相談しました。総理からは「少子化対策、子育て対策で必要なものは何でもやる。不育症も含め、こうしたことをどんどん進めてくれ」と指示を受けました。
早速、内閣官房副長官補と相談し、複数の役所に関係する内容でもあるので、私が座長となりプロジェクトチーム(以下、P.T.)を立ち上げることになりました。そしてこのP.T.で計7人の関係者、専門家からヒアリングを行いました。
不育症の治療が「大変」と言われる主な理由は2つに集約されると考えられます。

■ 高額な不育症治療
当初、厚労省は「不妊症と異なり、いくつかの治療法は既に保険適用になっているので、治療費が高額になるはずはない」との主張でした。しかし、実際にヒアリングを行ってみると、NPOの方からはやはり高額で大変なので補助が欲しいという声をいただきました。
そこで、最初に、なぜこうした食い違いが生じるのかをはっきりさせるために、関係者を対象にヒアリングを組みました。確かに数種類の方法は既に保険適用になっていました。しかし、有効性が確実に証明されていないということで、保険適用外の方法もありました。
その上で、既に不育症への補助を先行していた自治体からも実情を聞き、婦人科のクリニックの医師からもお話を伺いました。そこで見えてきたものは、本来保険が適用できる治療法であっても、治療の現場で保険の申請をしていない、つまり、全額患者に請求しているケースが大変多いことがわかりました。
我々のヒアリングに協力していただいたクリニックでは、まったく保険申請せず、全額を患者負担としていました。これではいくら保険適用していると言っても、患者の負担は高額に留まってしまいます。
P.T.の結果として、今回、国による不育症への補助制度を新設することにしましたが、その条件として既に保険適用されている治療法については医療機関が保険を適用することを条件として付けさせていただきました。

■ 片手間の治療
またもう一つは、不育症に対応しているクリニックが少ないという点です。今まで、不妊症の片手間といった扱いをされているところが多く、詳しい知識と技術を持った方がまだまだ少ないのではと感じています。
一方、複数の適切な治療や処置をすると、結果として不育症と思われていた85%の方が出産に至るという話をヒアリングの中で聞きました。極めて高い数字だと思います。
不妊症の一部という扱いではなく、正面から不育症と向き合ってくれる方々が増えていく環境づくり、特に多くの人に知っていただくということは重要だと思いました。

■ 「心のケア」の重要性
そして私自身、改めて重要性を再認識したのが、相談できることの大切さ、寄り添ってもらえることの大切さです。
流産が続いた時のショックや落ち込みは私の想像以上のようです。ご自身を責めてしまう方も多いと聞きましたし、もう一度妊娠を目指したいと思えるようになるまで大変だとも伺いました。
先ほどの適切な対応の中には、この「心のケア」も入ります。しかし、今まであまり注目されていなかったこともあり、その点からも人材の不足が指摘されました。専門性を持つ方が増えることが必要です。

■ 大切なのは実現すること
これらの観点から検討を進め、令和2年11月30日にプロジェクトチームの報告を取りまとめました。
実施できるものは令和3年4月から行いたいと考え、令和3年度の予算に合わせるべく急いで作業も行い、①経済的支援 ②相談体制の拡充 ③国民への周知・広報を三本柱として組み立てました。令和3年度予算が成立すれば、4月から実際に使えることになります。
今回、不育症で悩む方々へのサポートをこういう経緯で政策という形にすることができました。これからもできる限り実現させていきたいと思います。

※冒頭写真は11月30日にPTの座長として不育症PTで取りまとめた報告を発表した際のものです。 

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