立ちはだかる「22倍の壁」 ~ 独り暮らしの高齢者の入居をサポートするために ~
小紙でも何度か触れてきましたが、昨年より「身寄りのない独居者」をめぐる課題について取り組みを進めてきており、現在は自民党社会保障制度調査会の中に置かれた「幸齢社会実現PT」の座長としても仕事をさせていただいています。
この課題は、厚生労働省が最も関係するのですが、それだけでなく法務省、経産省、総務省、消費者庁など幅広い省庁にもかかわることです。
今回のテーマである「独り暮らしの高齢者が部屋を借りられない問題」に関しては、国土交通省所管の課題となります。
■ 物件数の22倍もの希望者
実際に横浜市でも問題視しており、不動産業の団体さんに協力をお願いし、市内の独り暮らしの高齢者向け賃貸物件を集めました。しかし希望者が物件数の22倍もいて、逆に、問題の深刻さを目の当たりにしました。
高齢者は居室内での孤独死の可能性が高く、また認知症などの進行があれば近隣に迷惑をかけることもあります。そうした場合、通常は大家さん、そして次に不動産屋さんが対応を求められるため、7割以上の貸主がそのリスクを避けたいと考えていると言われています。
■ 独居高齢者を受け入れられない事情
実際にあった話として、独居の90歳代の高齢者が深夜に紙おむつをトイレに詰まらせてしまい、大声で助けを呼び続け、その結果大家さんが呼ばれ、大家さんが業者さんと連絡を取り、トイレを直しに来て一件落着という事例をお聞きしました。大家さんは翌日、次の賃貸の更改はしないので転居先を探すよう伝えてほしいと、その高齢者のケアマネージャーさんにお願いしたそうです。
しかし、現行の法律では入居者の権利が強く、本人が納得しない限り転居をさせることは難しいです。そのため、部屋が空いていても独居の高齢者を入居させないことも多く、物件不足の状況となっています。
一方、この事例の場合、ケアマネージャーさんにとっても業務外のため、報酬が出ない「シャドーワーク」になります。身寄りのない独居者の課題に取り組むようになって多くの医療・福祉の方々とお話をするようになりましたが、こうした場合、立場的に弱いケアマネージャーさんにしわ寄せがくる構図になっていると改めて感じます。
■ リスクを肩代わりできるのか?
そんな折、国交省の担当局長から「住宅確保要配慮者(高齢者、障がい者、ひとり親世帯、低所得者など)に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」を説明していただきました(先の通常国会で成立)。
この法律は、①大家と要配慮者のいずれもが安心して利用できる市場環境の整備②居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進③住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化、を目的とするものです。
平たく言うと、大家さん、不動産屋さんが負うリスクを居住支援法人が肩代わりをするもので、高齢者にもっと部屋を貸してもらえるようにしようということです。先述したとおり、「横浜市は22倍」なので、この法律に期待を寄せました。
居住支援法人とは、H.29年の住宅セーフティネット法の改正により、要配慮者の入居支援、入居中の見守りや相談等を行う法人のことで、全国で700超の法人が指定されています。神奈川県では30数か所、その中で横浜市内に12か所あります。
確かに大家さんの負担とリスクを肩代わりすれば、供給される部屋数は増えると予想されますが、肩代わりする方が今度は大変になります。また、居住支援法人が現存しているため、現行の制度では新たな補助などを国交省も想定していません。最も大変な入居後のサポートに行政からの支援がなくて、この制度は現実的に動くのか?と疑問が消えませんでした。そこで、現場を見ることにしました。
■ 厳しい「居住支援法人」の運営
横浜市内の法人に連絡を入れましたが、「今はサービスを提供していない」「入居中のサポートはしていない」ということで断られました。行政に問い合わせると、入居中の支援をメインに活動している法人は横浜市内には存在しないことがわかり、座間市、鎌倉市の2法人に伺いました。
それぞれご苦労され、活動を継続していましたが、基本的に両法人とも生活困窮者の生活再建全体を支援している団体とのことで、居住支援は支援の中の一つにすぎず、高齢者の住宅探しのお手伝いだけを目的としているわけではありませんでした。
大家さんのリスクを肩代わりするというより、リスクを背負ってくれる大家さんと協力してやっているので、「入居中の見守りや相談という費用がかさむ大変なところを肩代わりするなんてムリです!」ときっぱり言われました。
補助金に関しては、同席してくれた国交省の担当課長が、厚労省も含めていろいろあると説明してくれましたので、取りまとめた報告をいただくことになっています。とはいえ、このままでは高齢者が借りられる部屋が増える状況にするのは困難だと確信しました。今後、居住サポート住宅と名付けられた要配慮者向けの部屋数の動向をチェックしていきたいと思います。
■ 見寄りのない独居者の課題解決
また、今回の法改正で、入居者死亡時の残置物処理を円滑に行うため、居住支援法人の業務に残置物処理を追加したことは評価します。ただ、これは相続財産でもあり、法定相続人の権利にもかかわるはずなので、入居者と居住支援法人がどういう契約をすべきかを含め整理し、実効性のある制度にしていきたいと考えます。
また、家賃の保証サービスを行う保証会社などもあり、こういうところも組み込んでいきますが、この保証業者もサービス、価格が様々なので、次はこのあたりの現場の声を聞いてきます。
幅の広いこの課題が少しでも改善し、前へ進むよう全力を投入してまいります。
※写真は、居住支援法人でのヒアリングのものです。
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