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今回は、堺市北区のさかい新事業創造センターで事業を展開する、Palette Japan 代表の太田智子さんにお話を伺いました。

Palette Japanでは、つまみ細工の海外ネット販売を中心に、4つの事業を展開しています。
28年間貿易関連の仕事をしていた太田さんがなぜつまみ細工の仕事をはじめたのか、そしてつまみ細工への想いを伺いました。


「つまみ細工」の存在感に惹かれ、趣味を仕事に

私は学生時代から海外に興味があったため、卒業後は機械メーカーや繊維商社で貿易に係る仕事に従事していました。約28年間働いていたんですが、繊維生地を見る機会がすごく多いんですね。商社が扱っていたのはシンプルなものだったのですが、生地に非常に興味をもっていました。

そんなある日、たまたま手芸店に行くことになったんです。その手芸店こそが、『Pallet Japan』のはじまりかもしれません。手芸店では、さまざまな生地があったのですが、その中で目についたのが「ちりめん生地」。
無地でしたがすごく存在感があって、美しかったんですよね。「このちりめん生地を使って何かできないかな?」とリサーチをして出てきたのが、私が製作している「つまみ細工」でした。

手芸はとても苦手なのですが(笑)、やってみるとハマっちゃって、趣味としてつまみ細工をつくっていました。


趣味を仕事にしたきっかけは2つあります。

まず1つ目に、海外のお客様が興味をもってくださったからです。
趣味で製作していた頃、ネットショップで販売し始めていたんです。すると、つまみ細工をご存じの方もそうでない方もすごく興味をもってくださって。貿易の仕事をしていて輸出入の知識や英語力はあったので、「ネットショップからつまみ細工を拡大できるんじゃないか?」と考えて仕事にしました。

もう1つの理由は子どもがいることですね。
当時は子どもがすごく小さくて、いつ体調を崩してしまうかわからない状況なんですよね。でも貿易の仕事は属人化している部分があるので、子どもがいると長く勤められないだろうと思っていました。
ネットショップを本当に仕事にできるのか、正直不安で約10年間考えていました。でも、海外からの反応がよかったこと・子どもが大きくなったことをきっかけに、『Pallet Japan』を個人事業主として開業しました。




きれいなつまみ細工



工芸を世界へ届けたい。その想いで4つの事業を展開

現在は4つの事業を展開しています。

まず1つ目の事業は、先ほどお話したネットショップです。

海外の方向けにつまみ細工をはじめとした工芸品や着物を販売しています。全サイトオーダー数が6,000を超え、1,500件の高評価をいただいています。欧米を中心にリピーターも多く、嬉しい気持ちでいっぱいです。

ネットショップを始めた当初は、当たり前ですがネット上に評価が表示されていませんよね。私たちが海外サイトでショッピングする時、評価がないと不安になりませんか?それと同じで、海外の方が私のサイトから購入するのも不安だったと思うんですよ。
その中で、丁寧に丁寧に商品をお届けしていると、少しずつ購入数が増え、評価が100件を超えました。その時に軌道に乗れた気がします。今では「これがまさに探していたものだ!」「すごく気に入りました!」など評価していただいています。
直接手紙やメールをくださる方もいるんですよ。お客様からの声が届くと、非常にやりがいを感じますね。日本の文化にすごく興味をお持ち方や、「こういうものを探してるんだけど…」という方からのメールにもお答えしていますよ。日本の伝統工芸品が届いているのが本当に嬉しいです。


2つ目の事業は、海外向けネット販売のスタートアップ講座講師です。私のこれまで試行錯誤した経験で得た知識などを誰かに教えたいなと思い、スタートしました。

私はつまみ細工だけを海外の方に届けたいんじゃなくて、色々な日本の工芸品を海外に広げていきたいんです。
でも、ネットショップはもちろん、海外に向けて販売するのは敷居が高いと感じる方が多いんですよね。だから私の講座を通して、少しずつ挑戦してほしいなと思っています。
スタートしてまだ1年で、難しさを感じている生徒さんが多いですね。私も軌道に乗るまで時間がかかったので、「辛抱強く続けたら大丈夫です!」と支援しています。
少しずつ「売れました!」という報告をもらえるようになって、私の活動って無駄じゃないんだなと感じています。販売できた生徒さんはもちろん嬉しいと思うのですが、商品を受け取った海外の方もすごく嬉しいと思うんですよ。

そして、海外の方が「こんなのを手に入れたよ」と家族や友人に伝えてくれているかもしれないと考えると私も嬉しくなります。嬉しさの連鎖があることに、非常にやりがいを感じていますし、今後も力を入れて取り組んでいきたいですね。


また、商社を通さずに輸出入がしたい企業に向けた商社貿易経験を活かしたアドバイザーや、つまみ細工講師としても活動しています。『工芸を世界へ届けたい』という想いで、4つの事業を展開しています。


仕事をしていて、やはり大変なことはあります。はじめはネットショップの使い方や販売方法に関する知識がありませんでしたし、小さい子どもの育児をしながらだったので、本当に大変でした。

少しずつ知識をつけて進めていても、やっぱり育児をしながらだとスケジュール管理が大変なんですよね。でも、子どもがいるからこそ頑張れるというか。子どもがいたからこそ、ここまで来られたのもあると思います。また、つまみ細工講座で使用する動画は自分で撮影して編集しているんです。

どの角度で撮影すればいいのか、どのように編集すればいいのか…。難しいですね。大変なことはありますが、1人でも多くの方につまみ細工の美しさや作り方を学んでもらったり、1人でも多くの方につまみ細工を届けたりして、つまみ細工を手にしたお客様に喜んでもらえるといいなという一心で取り組んでいます。


日本の方々が日本の宝物に気づけばきっと日本のものづくりは拡がっていく
今後も伝統工芸品をどんどん世界に拡げていきたいです。

伝統工芸品を世界に拡大するための課題は、職人さんが減り、製作する方が減っていること。その道一筋でつくられている方は高齢であったり、伝統工芸品の製作だけで生活することは大変だったりするんですよね。
その課題を解決する糸口の一つとして、つまみ細工に関する講座やイベントを開催しています。伝統工芸品って日本の宝物だと思うんです。他にも、海外の方が来日されたら、「お城など有名なものを見せたい」と考えがちじゃないですか。
でも違うんです。もちろんお城など建物に興味を持たれているのも確かですが、『日本人の日常』に非常に関心を持たれています。たとえば、チンチン電車って私たちにとって特別ではないですよね。
でも、海外の方に写真を見せるとびっくりされるんです。日本人からすると当たり前だけど、それが日本の宝物であることに気づいていない。だからこそ、イベントを行って日本人にも宝物の存在に気付いてほしいです。

『伝統工芸品』と『日常』、その宝物を大切にする方が増えれば、自然と海外にも拡まっていくと思います。



また、課題を解決するもう1つの糸口として、『注染てぬぐい』を使ってつまみ細工をつくるようにしています。

注染とは、言葉の通り染料を注いでてぬぐいを染める技法のことです。注染てぬぐいを使うことを決めたきっかけは、堺市産業振興センターさんからお声がけしていただき、注染てぬぐい工場を見学したことです。
私たちが使うタオルは工場で大量生産されているものですよね。注染てぬぐいは職人さんが本当に手間暇かけてつくっているんです。

でも、手間暇かけた注染てぬぐいの中でも、少し擦れているものは廃棄されます。「こんなに綺麗な染色なのに」という気持ちから、注染てぬぐいをつまみ細工にしています。海外の方が注染てぬぐいのつまみ細工に興味を持ってくださったら、きっと注染てぬぐいにも興味を持ってくれる。そうやって、日本の伝統工芸品をどんどん拡げていきたいですね。

堺市からものづくりを拡めていきたい

つまみ細工を世界に拡げていくことはもちろん、堺市とのかかわりも増やしていければなと思います。

これまでは、ビジネスを支援しているさかい新事業創造センターに入らせていただいたり、2022年8月には堺市ふるさと納税の返礼品として採用していただいたりして堺市とかかわってきました。
今後は堺市内の工場で廃棄される注染てぬぐいを使い、短時間で作れるつまみ細工キットを作成していく予定です。キットは売店や旅館などに置かせていただき、つまみ細工を身近に感じてほしいと考えています。「ちょっと時間があるから作ってみようかな」と、つまみ細工に興味がある方もそうでない方も、気軽に手に取ってほしいですね。
大阪信用金庫主催の「第4回創業ビジコンビジネスプランコンテスト2022」では優秀賞をいただいたので、力を入れていきたいです。


また、もともと貿易都市である堺市にもっと多くの方が訪れてくれるよう、伝統工芸品関連のイベントも開催できればなと。
海外の方に「日本はプロモーションが下手すぎる!」とよく言われるんですけど(笑)、少しずつ海外の方に届けられる機会をつくって、私はつまみ細工を中心に拡めていきたいです。

私たちが海外の雑貨や文化に興味を持つように、海外の方も日本の工芸品に興味をもつ。
当たり前かもしれませんが、気づいていない部分でした。日本の宝物である伝統工芸品を海外に拡大し、今後も多くの人に伝わり続けるのだろうなと感じました。

さまざまな取り組みを開始するPalette Japanに、今後も目が離せません。


Palette Japan
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