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Guest Talk 07: 佐久間誉之 [イラストレーター]

素直に感動するほど、色は豊かになる

すべては美しさへの感動から生まれるもの。その美しさに出会い、描き伝えていく。あらゆる絵は感情の共有なのかもしれない。描く人の心に響いた色や形が組み合わさって、ひとつ一つ異なる絵になっていく。佐久間さんが描く絵には色が溢れている。さまざまな色が広がり触れ合い、このキャンバスの上だけで見ることができる風景を作り上げている。曖昧に広がる色は一期一会で、同じ色は存在しない。それは、出会った風景を優しい色で語ってもらう体験のよう。佐久間さんが描く喜びの原点から、あらためて自分に素直になることの大切さを教えてもらった、そんなインタビューです。


佐久間 誉之さんのプロフィール
Yasuyuki Sakuma
仙台市生まれ。自然豊かな東北で育ち培った感覚を活かして、自然風景や動植物、ノスタルジーな日常風景など、衣食住暮らしのさまざまなシーンを、明るく柔らかい色彩のイラストレーションで描く。多くの作品において、絵の具が乾く前に次の色を継ぎ足して“にじみ”や“ぼかし”をつくる「Wet in Wet」という技法を用いているのが特徴。イラストレーターズ通信会員。東京イラストレーターズ・ソサエティ会員。東北イラストレーターズクラブ会員。専門学校非常勤講師。


2024.2.12+2.19放送

はじめはデザイナー

酒井:今回の「新しい酒井3」ゲストはこの方です。こんにちは。

佐久間:こんにちは。

酒井:イラストレーターの佐久間誉之さんです。
今日はZOOMですが、それにしてもお話するのはお久しぶりです。
いつも形にならないことばかりで申し訳ありません・・・

佐久間:いえいえ。ご連絡うれしいです。

酒井:そんなわけで、なかなかイラストレーター佐久間さんを深掘る機会がなかったので、
今日はあらためて、佐久間さんの活動を伺っていきたいと思います!

佐久間誉之《鹿の森》 ©Yasuyuki Sakuma

佐久間:はい!

酒井:この業界ではデザイナーからイラストレーターへとキャリアチェンジした方も多いかと思いますが、佐久間さんは社会人スタートからイラストレーターだったのでしょうか?

佐久間:はじめは印刷会社のデザイナーでした。

酒井:あ、デザイナーからなんですね。

佐久間:ですね。デザインというよりは、DTP寄りの仕事でした。フィルムの出力作業とか。

酒井:おー

佐久間:DTPと印刷が隣り合っていたので、 印刷物が刷り上がる工程まで全部が見える環境でした。

酒井:前後の工程を理解していると、絵を描いたりデザインする方も仕上がりがイメージしやすいし、難所も想定できるという面で、作り手としての貴重な経験にもなっているのでは?

佐久間:それはありますね。工程が分からないで仕事をしてるのとは大きく違いますね。気を遣う部分もわかります。

日々の道具たち(Photo:Yasuyuki Sakuma)

ひまわりが人生を変えた

酒井:デザイナーを経て、その後イラストレーターにキャリアチェンジするわけですが、佐久間さんの作品といえば、色鮮やかな水彩のイメージがあります。アイデンティティーそのものですよね。このタッチは、イラストレーターとしての初期からのスタイルなのでしょうか?

佐久間:これはですねと、歴史があるんです。

酒井:なんでしょう。

佐久間誉之《桜サイクリング》 ©Yasuyuki Sakuma

佐久間:小学校1年生までに遡ります。

図工の時間に、絵の具とクレオンを使って「ひまわり」を描く授業があったんです。僕はそこで初めて絵の具とクレオンに触れたわけですが、まず先にクレヨンを塗り、その後に水彩絵の具で描いていく。そうするとクレヨンは油なので色が弾く状態になる。たくさんの色を使って鮮やかなひまわりを仕上げました。その表現がとても楽しくて気に入ったのですよね。

しかも、この絵が幸運にも学年の優秀作品として選ばれたこともあり、とても印象に残っています。学校のホールにも飾っていただき、自分の創作の源泉がここで生まれたとも言えます。

いろんな色を使って描く面白さは、ここから今までずっと繋がっています。

酒井:素敵ですね。子どもの頃に褒められた体験って、大人になっても残りますよね。僕も似たようなことがあります。あの時に褒めてもらえたから、いまここにいるって感覚です。

佐久間:どこのクラスにも絵が上手な子って、いるじゃないですか。

酒井:いますね。漫画めっちゃ上手い子とか。

佐久間:新幹線とかスペースシャトルをノートに書いてる友達がいて、当時は「うわ!すごいなぁ」って、自分では描けない上手な絵に嫉妬していました。でも、先ほどお話しした「ひまわりの絵」が僕を変えてくれました。選ばれてすごく嬉しかったんです。その喜びが今も根っこに残っています。

酒井:もちろんその時は、技法がどうだみたいなロジカルなことは一切考えていなかったと思いますが、絵を磨いていくなかで自分のスタイルとして固まってきたのですね。自分の中から生まれてきたスタイルって、いいですね。結果的にも型にはまらない感じになりますね。

佐久間:当時からいろんな色は確かに使ってました。

佐久間誉之《ミルキーウェイ》 ©Yasuyuki Sakuma

教えると気が付くでは全然違う

酒井:現在、専門学校の先生でもありますよね。教える立場とはいえ、何でもかんでも教えればOKというわけじゃない。自分で発見することが大事な部分じゃないですか。教えると気が付くでは全然違う。

佐久間:こう描くんだとか、こういう風に考えるんだよって、知識がない時点でそれを教えてしまうと、教えた人のことに染まっちゃう可能性があるんですよ。そうならないように、学生の個性に合うような形で、一人ひとり違った形で教えることを意識しています。

酒井:なるほど。

佐久間誉之《岩沼市竹駒神社の夏詣》 ©Yasuyuki Sakuma

新しい佐久間さん

酒井:この番組は「ラジオ3と酒井で新しいことを考え始める」というコンセプトから、ゲストの皆さんにも新しいことを考えてもらおうと、 無茶ぶり企画を展開しています。もちろん、佐久間さんにも宿題を出しました。

佐久間:はい。書かせていただきました。

酒井:ありがとうございます。

佐久間さんへの宿題は「壁の色」。

このお題にした理由ですが、佐久間さんの作品の魅力は「豊かさ」かと思っています。色の豊かさはもちろん、子どもが夢見るような空想世界の豊かさだったり、ダイナミックな構図だったり。佐久間さんの「色に正解を作らない」ような、その「パレットの豊かさ」こそ、佐久間さん作品の魅力と分析しました。そこで、色と色が豊かに重なり合うこと、柔らかく自然であること、この正反対からアプローチしていただいたら、「新しい佐久間さん」の表現を見ることが出来るかも!という僕の興味です。

一般的に「壁」というと、パキッとした色とか、キチッとした形とか、ソリッドなイメージを連想しますが、もう少し抽象的に「隔てるもの」のように捉えることもできるし、これは佐久間さんを良い意味で困らせるんじゃないかと思ってのテーマです笑。

佐久間:では、こちらです。2つ用意しました。

佐久間さんの宿題

酒井:おお!!!
すごい。どちらからお話伺えますか?

佐久間:では、この「空」の絵からお話しましょう。

 →→→ 佐久間さんの宿題作品の詳細はメンバーシップページで紹介しています。


まず、「壁」について考えると、通常は「白」を思い浮かべると思いますが、僕は仕事でブルーを使う場面が昔からとても多いこともあって、白い画面を見ると自然といつも「青」が浮かんでくるんです。

酒井:普通の人にとってキャンバスのデフォルトが「白」なのに対して、佐久間さんのデフォルトが「青い空」ってことですかね。

佐久間:そうですね。白があると、そこには青空のような青いぼやっとしたものが投影されるイメージ。ですから白い壁を見ていると、青色が見えてくるみたいな感じ。

酒井:壁に空を塗ることで壁を消しちゃう感じ。面白いです。

佐久間:仕事部屋には窓がありますが、いつもカーテンを開けて空を見えるような状態で仕事しています。

酒井:えー、素敵ー。

佐久間:閉鎖された空間では仕事がやりづらくて、必ず空が見えるように。

酒井:じゃあ、もう1つの案のお話も。これは「森」ですか?

佐久間:森ですね。森が好きなんです。

これも先ほどの空と同じことですが、白い壁を見てると「木」も見えてくんですよね。木が奥まで深く森のように生い茂っているイメージ。本当に機会があれば、壁に木を描いてみたいなと思っています。実際に自宅のトイレの壁には森をイメージした絵をいくつか飾ってるんです。いま住んでいる家の壁には直接は書けないので。

酒井:日本の家は難しいですね。海外では壁を塗ったり描いたり、結構自由で羨ましいですね。

佐久間:この森の絵、ラジオでは伝わりませんが、着色していない理由は「その時の気分によって色を自分でイメージしていきたい」からです。森って、その時々の気分によって見え方が変わってくる。だから今回は線画だけにしてます。

酒井:先程の「空」も同様ですが、完璧なゴールと言いますか、具体な形には収まらないようにする表現がポイントですかね。

佐久間:そうですね。今回は、その時の気分や季節で見え方が変わる表現を意識しました。

時間がある時は美しい自然に触れることも大事にしてます。(Photo:Yasuyuki Sakuma)

先生としての佐久間さん

酒井:佐久間さんが教えている専門学校の「卒業制作展」はまもなく開催ですよね。学校全体でのイベントでしょうか?

仙台デザイン&テクノロジー専門学校
『We are TECH.C.仙台 卒業進級展
会期:2024年2月24日・25日
場所:ゼビオアリーナ仙台

佐久間:そうです。デザイン系もあれば、動物とか介護とか、色々なコースの人たちが、集まっている学校ですので、場所も広く開催します。素敵な作品に仕上がってきているので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです。

イラストやデザイン、映像からゲームまで、さまざまな作品が並びます

酒井:まさに今、学生たちは、制作のピークなんじゃないですか?

佐久間:連日頑張ってますね。つい先程までも学生から連絡もらってやりとりしてました。

酒井:自分が学生だった頃の記憶が蘇ってきます。卒業制作って、自分もほんとギリギリの開催数時間前まで作業した思い出がありますね。。。

佐久間:今はチャットで、すぐやり取りができるんで、バシバシ連絡入ります笑

酒井:その盛り上がりといいますか、エネルギーって、伝染しますよね。近くにいるとこちらも「やるぞ!」って気持ちが高まる。作品も熱量があるから、創作の気持ちが湧きますよね。

佐久間:みなさん、見にきてください!!

酒井:今日は素敵なお話、ありがとうございます。

佐久間誉之《本の塔》 ©Yasuyuki Sakuma

放送回はPodcastでも配信中

#28 Guest Talk 07: 佐久間誉之 [イラストレーター]1/2(2024.2.12公開)
#29 Guest Talk 07: 佐久間誉之 [イラストレーター]2/2(2024.2.19公開)

https://open.spotify.com/show/4Lwo8gyWxtxWYLzimj48rA?si=5b80d5fc96494b75


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