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吉田牧場さんのブラウンスイス牛

①岡山吉備高原で暮らすブラウンスイス牛たち

牛を放牧して、育て、乳を搾り、搾りたての乳でチーズを作る。吉田さんはフェルミエ(チーズ農家)であり牛飼いでもあります。この「牛飼い」という言葉、畜産に関係している方はあたりまえですが、一般の方は馴染みがないんじゃないかな。昨今、モノづくりをしている人を「生産者」と一括りにしますが、牛に関しては僕は違和感を感じています。それでもわかりやすくという意味で「生産者」と言ってますが、本来は農家とか牛飼いと呼ぶほうがしっくりきます。ところで、吉田牧場さんの仕事については、ぜひこちらをお読みいただきたいです。本を読まない僕が何度も何度も読みました。

②生産者と消費者をつなぐ

生鮮3品とは言わずと知れた肉、魚、野菜ですが、昔は個店でロードサイドでも商売として成り立っていました。ところがスーパーの乱立により、テナントとして吸収されたり、廃業に追い込まれたり、苦戦を強いられています。それでも地道にがんばっている人たちもいます。京丹後の谷次さん(魚屋)や和歌山の立野さん(八百屋)、10年ほど前に共に勉強した仲間です。

昨今、生産者と料理人が注目されがちですが、どんな職種でも「つなぐ」ことを仕事にしている人がいます。しかし、「繋ぎ人/つなぎびと」がメディアに取り上げられることは極めてまれです。生産者や料理人はストーリーを描きやすいですが、つなぎびとは地味で目立ちにくい。でもね、そろそろ目立ってもいいんじゃないかな。そうじゃないと未来の若者が知らない職業になってしまいます。

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③放牧は危険がいっぱい

最近「放牧」という言葉をよく耳にします。ブームなんですかね。放牧させているから健康な牛だと思っている方がいるかも知れませんが、そのあたりはね、放牧だからとか舎飼いだからということはないんです。

いつだったか、和牛の生産者を訪ねたとき。屋根のない牛舎でときどき日光浴をさせてるみたいで、「うちは時々こうやって放牧させているから牛が健康なんです」と言ってましたが、ただの日向ぼっこでしょうと、言いたいところをぐっと我慢して・・・(笑)

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放牧はそんなやさしいものじゃないです。放牧しているからほったらかしでいいですね、エサもやらずに楽じゃないですかと、と言う人がいますが、とんでもない。どっちが楽とかではないのですが、舎飼いのほうが管理している分、危険は少ないと思います。

放牧は、一頭一頭の牛の状態が把握できないし、どれだけエサを食べたか知る由もなく、事故もおきやすいのです。事故がおこらないために、牧草地を整備したり、発育の状況を見ながら牧草を変えたり、自然界で放牧させるからこそ環境整備をしなくてはいけません。良い牧草を育てるために、牛が好む種を蒔き、土を作らなければいけないのです。だから、舎飼いには舎飼いの苦労があるとは思いますが、放牧は忙しいのです。

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④経産牛に価値を見出す

お産した牛のことを経産牛と言いますが、種がつかなくなり子を産めなくなった牛は肉になります。愛着あっても食用牛は経済動物、ペットとして飼うわけにはいきません。何度も子を産み牧場を支えてくれた牛も、役目が終えれば肉として市場に出荷されます。これを可哀想と言う人がいますが、エサ代はかかるし、場所は必要だし、哀愁に浸っている暇も余裕もないのです。僕ができることは、10円でも高く買い、A5に匹敵するくらい価値を見出してやれば、関わったみんなが幸せだと思うのです。

ご存知の方も多いと思いますが、経産牛の価値は低いです。一昔前に比べれば、再肥育して、いくらかマシな価格で取引されるようにはなりましたが、それでも、肉が硬い、脂が黄色い、おいしくないというのが業界の常識です。再肥育というのは、痩せ細って肉量がとれなくなった経産牛に穀物を与えて飼いなおすことです。簡単にいえば太らせて肉量をとれるようにすることです。

黒毛和牛の経産の場合、ヒレやロースはなんとか売れるのですが、その他の部位は安価な商材として流通します。どこへ流通するのか不明ですが、黒毛和牛でさえ、経産牛はこのような状況ですからね。乳牛は二束三文です。行先については、生産者もわからないのです。

著者147Pの「経産牛」でも少し触れていますが、20年前、近江牛のセリ場でガラの悪いオヤジが「おい、サカエヤ!おまえ、今日もババ牛買いにきたんか!」とセリ場に響く大声で言われたのがいまも忘れられません。このときに、はじめて「ババ牛」という言葉を聞き、経産牛のことをそう呼ぶのだと知りました。処女牛とかババ牛とか、人間の世界ならパワハラで訴えられますよ。

⑤学校給食について

余談ですが、学校給食は今も昔も入札です。とにかく安けりゃいい。安全もくそもない。僕も丁稚時代に経験ありますが、とにかく安い。そして儲からないのに半端ない数量(トン単位)なので徹夜しないと追いつかない。今後、僕が小学校で授業を担当することがあっても給食は食べたくない。

10年ほど前に、当時お付き合いのあった養護学校から、県からのお達しで入札制度に変わるので、サカエヤさんと直接取引はできなくなりました。つきましては、ぜひとも入札に参加して落札してもらえないかと言われたことがありました。養護学校の校長からは、サカエヤさんの肉が安全で安心だというのは重々承知していますし、子供たちも喜んで食べている。だから取引を続けたいのだが、新保さんの考え方も十分に分かっているうえで、あえてお願いに来ました。そんな会話を鮮明に覚えています。残念ながら入札に参加しなかったので取引は終わりました。

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⑥ブラウンスイス牛をおいしく

数年前。吉田牧場さんに変な人たちが集まった。このときがきっかけで、ブラウンスイス牛を扱わせていただくことになったのですが、流通から整備しなくてはいけないので、結局、一年ぐらいかかりました。とにかく難しい牛でした。個体差云々という問題ではなく、まったくの別次元であり、僕が試されているような気さえしたのです。

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いつも家族のように迎えてくれる吉田全作さん

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40日間熟成させたブラウンスイス牛の肩ロース

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ピザ窯でブラウンスイス牛を焼くイルジョット高橋シェフ

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ブリアンツァ奥野シェフ

ダイナースカードをお持ちの方は、会報誌「シグネチャー」が送られてくると思いますが、3月号捨てずに(笑)ぜひご覧ください。僕と吉田牧場さん、そして・・・届いてからのお楽しみ。

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吉田牧場さんのブラウンスイス牛は、種がつかなくなったり乳がでなくなったり、理由がない限りは肉にしません。僕が預かるのは理由があるときだけです。吉備高原の坂を登り下りしながら暮らす牛たちはみな筋肉隆々。赤身が強く肉が硬い。おまけに水分も多く、手当てに時間と手間がかかります。これはやりがいとかではなく、吉田さんの人生そのものを僕が預かっているような感覚で仕事をしています。大げさに聞こえるかも知れませんが、覚悟をもってブラウンスイス牛に向き合わなければ応えてくれないのです。命あるものを扱うとはそういうことだと思っています。


ありがとうございます!