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ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.2 Simcoe

前書き
僕はかなり好きで多用しがちです。「ステロイドのカスケード」と称賛されることもあるようですが、カスケードとは比較が難しい、異なるキャラクターだと思います。フレーバーはColumbusと同じく、「ダンク(マリファナっぽい香り)」と表現されます。

個人的には同じダンクでも「Columbusは土」に寄っていて、「Simcoeは草」に寄っているような捉え方をしています。また、コフムロンといって「不快な苦み」を呈する(とされる)渋み成分が少ないことでも有名で、ビタリングにはSimcoeしか使わないと決め込んでいるブルワーもいます。ただし、この「コフムロン=悪」のような知識はもしかすると間違っている可能性が「The New IPA(2019)/Scott Janish」の第1章で示唆されています。これについては後半の経験則の部分で述べます。やはり座学も大事なんです。

興味深いことに、海外ではSimcoeは変動性の高いホップとして知られているみたいです。そうなんです、ホップには保存性や変動制というスコアもあります。Simcoeの保存性は悪くないようですが、他のホップでは、カスケードの保存性が悪くて有名です。

まだ「ハズレSimcoe」に出会ったことはありませんが、別の品種で古い冷蔵庫臭のような臭いで、ビールが台無しになるほど劣悪な品質のホップペレットに出会ったことはあります。それ以来、ドライホッピングする前に少量でテストをする習慣がつきました。高い教育費になったと思います。ホップファームで働いていた後輩によると、収穫のタイミングでも品質が大きく変わるようです。特に収穫終期のホップはタマネギのような匂いがするとか。把握している変数は他にもありますが、これについてはまた今度。

ちなみにホップの保存に関しては優先順位というものがあります。これ大事です。
以下の通り記しておきます。

ホップ保管の注意点(上から順に優先順位を示す)
①冷蔵(0-2℃の温度以下)
※温度により保存期間が変わります
②嫌気性包装
真空パックに梱包するか、窒素や二酸化炭素などの不活性ガスでフラッシュしたバッグに梱包する必要がある。ホップがひどく保存されると、アルファ酸が酸化する可能性があり、酸化成分の一部は、「酸っぱい」または「安っぽい」匂い、または「油っぽい」フレーバーなどのビールの異味の原因となる。
③遮光
日光臭の原因となる。

以下のホップは特に貯蔵特性が低いため注意する
・ブリューワーズゴールド ・エロイカ
・カスケード ・ハラタウ ・ザーツ

余談というか、オマケでした。

基 本
アルファ酸の割合が高く、コフムロンが低い
α酸 12%-14%程度
コフムロン組成物 15%-20%(他の品種は30%以上のものが多い)

ビタリングにもドライホップにも使用できるデュアルユースホップ
複雑で土、柑橘、パインのフレーバーと評される
ネガティブな表現では「キャットピー(猫の尿)」とも言われますが僕には分かりません。

歴 史
他のほとんどのホップとは異なり、シムコーホップの起源や親は、ヤキマチーフによって開発された独自のホップであるため不明です。2000年にリリースなのでまだ比較的若い品種と書かれていましたが、ホップの世界の進化も目まぐるしいので、もうベテランの域ではないでしょうか。ちなみに、SimcoeはMosaicの母でもあります。

経験則
僕が使ってみた感想は、ワールプールで使ったらダンクで、グラッシーで、わずかにパイナップル感でした。グラッシーはあまり書かれていませんが、僕はSimcoeが単体で使われたビールを飲んで、度々グラッシーを感じます。また、これも独自の表現かもしれませんが、ダンクに共通するイメージとして、私は「煙」を感じます。それも、焦げ臭さい「煙」ではなく、水蒸気っぽい、それはまるでお香のようでもあったりします。あるいは、「雨の日のグラウンドの臭い」、「土煙」、自分でもしっくりくる表現ではないのですが、なんだかいつも「煙」を連想します。

ドライホッピングでも良い仕事をしてくれます。単体でも使いますし、ブレンドでも使います。完全に主観なのですが、Simcoeはアロマへの貢献は大きいですがテイストへの貢献が期待を上回らないような感想も持っています。逆にMosaicは、テイストについての貢献は抜群なのですが、アロマがなんだか弱い印象です。だから、Mosaic&Simcoeの組み合わせは相性が良く定番の組み合わせなのでしょうね。本当に主観です。最近は、Mosaicの変動性を強く感じていて、めちゃくちゃダンクなもの、アロマが鮮烈なもの、あるいはフレーバーがタマネギみたいな残念なものなど様々です。アタリMosaicが仕入れできるまで仕込めないビールもあるので本当に困っています。

やはり、ファーマーに直接、サンプルチェック・買い付けに行ける海外ブルワリー・ブルワーの優位性を甘く見てはならないと思います。彼らは最も良いロットやクロップを手にしています。品質は悪くはないけど、一番良いところ「ではない」ホップがブレンドされ均一化されたのちに、輸出されていることは想像に難しくありません。僕が所属するブルワリーが目指している地元ホップ100%使用という壮大な夢には、このような格差を解消する側面も含まれていると僕は認識しています。かなりの長期ビジョンですが、このままで良いわけがないのです。話が逸れてしまいました。

Simcoeもダンクと表現される品種の1つであることは説明しましたが、前回のColumbusと同様に使用量が過剰だと渋みに繋がる疑いがあります。ちなみに「コフムロンが少ないから、クリーンな苦み」というのは誤報の可能性が示唆されており、もう少し研究が進めば「コフムロンが荒く不快な苦味」という知識は完全に過去の遺産となる可能性があります。もちろん、本当にコフムロンが悪であったと証明される可能性もあります。現時点では、妄信的に「コフムロン=悪」とするのは時期尚早と考えるのが正解だと思います。

多くのブルワーは、異性化コフムロン(cis-イソコフムロン)が多く含まれたホップで醸造されたビールは望ましくない苦味をビールに与えると考えています。ただし、この主張は科学的に立証されていないようなのです。この考えは、遡ること1972年の記事「A Theory on the Hop Flavor of Beer(ビールに関するホップフレーバー理論)/F. L. Rigby」から始まりました。この論文では、ビールをフムロンとコフムロンで醸造し、苦味の強さを比較した。官能検査でコフムロンのビールの苦味の方がより強く、より厳しいと評価されましたが、イソα酸も多く含まれていたため当然より苦くなるのが当然でした。コフムロンを使用して醸造されたビールは34 mg / Lのイソα酸を含んでおり、フムロンを使用したビールは21 mg / Lのイソα酸しか含んでいなかったため、著者の実験では2つのビールを適切に、正確に比較できいなかったのです。しかし、この誤報からブルワリーおよびブルワーがコフムロンの少ないホップを要求し、ブリーダーが低コフムロン品種を選択し始めたため、この記事はホップと醸造業界に重大な影響を及ぼしました。このような経緯があり、「コフムロン世論」という被害が生じたようです。残念ながら私たちは妄信的に長らくこの知識を信じてきてしまっていたのです。

この職業、常に自分を無知だと思い勉強し続けなければいけないということを再認識します。

また、大きく話が逸れましたが、まとめるとSimcoeのポイントは①変動性②ダンク③多用途です。ビールに格段の異なるキャラクターもたらす可能性を秘めている気まぐれな中毒系ホップです。

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