ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.8 Alora(アロラ)
「Mosaic」、「Citra」に続くスーパースターの誕生となるか!
前書き
私のnote「鈴木栄は、黙らない」ですが、すっかり黙ってしまっていて申し訳ございませんでした。ブルワリーの所属先が変わるなど、怒涛のような空白期間を過ごしていました。投稿は11カ月ぶりだそうです。最近では、「note見ています」とメッセージ頂くことや、声をかけて頂くことが増えました。ありがたい限りです。今後は、投稿頻度上げていきたいですね(何度目)。
本職でのアウトプットばかりしてきた1年だったのですが、最近ようやく最新情報のインプットに時間を使うことができました。インプットはもちろんしていたのですが、最近は専ら基本的な知識の復習に時間を使っていました。やっぱり、最新情報どんどん入れていかないと時代に取り残されていきますね。
今回紹介するのは「Alora(アロラ)」というホップです。前回の「Superdelic」同様、まだ使用したことがないので、出回っている情報の整理でしかありませんが悪しからず。ただ、このホップかなり面白そうです!「Craftbeer&Brewing」というアメリカのビール醸造に関する情報を発信しているサイトがあるのですが、私はそのサブスクリプションを契約しているので、専門雑誌が電子で読めるのですがその広告の中で「Alora」の存在を知りました。どんなものか調べてみると、他のホップとは異なる性質に興味が湧きました…。
ネーミングの由来
Hopsteiner(ホップシュタイナー)のマーケティングマネージャー、ダレン・スタンキー氏によると、元々は育種プログラムで選抜された「HS17701」というコードネームで呼ばれていた交配品種です。主に海外産の銘柄ですが、このコードネーム時代に「Alora」を使ったビールの銘柄が日本にはいくつも入荷していたようです。銘柄を調べましたが、おそらく自分はまだ飲んだことがないようです。また日本のブルワリーでの使用例は見受けられませんでした(2024年3月時点)。「Alora」という名前はラテン語に由来し、「美しい夢、夢のような、または神聖な光」を意味します。
補足情報
Hopsteiner社は1845年にドイツ南部ヴュルテンベルク州ウルムの南にある小さな町ラウプハイムに設立されました。ラウプハイムは1900 年代初頭まで小規模なホップ栽培地域でした。今では世界中に拠点を置き、ホップ栽培、育種、貿易、加工までを担う世界有数のホップ事業者です。
基本情報
α酸 : 7-10%(昨今の新品種としてはそこまで高くない数値かと)
総油量 (ml/100g) : 0.8~1.3ml(そこまで高くはない)
用途 : デュアルパーパス(ビタリング使いは勿体無さすぎる)
原産国 :
特徴 : 桃、ゆず、スイートメロン、アプリコット
注目している特徴は3点
① 柚子の特徴
ホップの記述で「柚子」というのは珍しい表現です。この特徴が国産ホップから誕生していたらと思わずにはいられません…。下記でも説明している「セリネン」というセスキテルペン炭化水素は実際に柚子にも含まれている成分のようなので、誇大表現ではないようです。
② 他には類を見ないオイル成分「セリネン」
オイル全体の 50% 以上は、ホップにはほとんど含まれないセスキテルペンである「セリネン」が含まれているようです。他にセリネンが含まれている素材を調べたところ、「柚子」の他に「ミツバ」、「セロリ」、「針葉樹などの木材」などにも含まれているようです。それぞれの香気を思い返してみると、たしかに共通した「むわっとする」独特の香りがあるような気がします。
③ 豊富なチオール前駆体
さらに、「Alora」にはチオール前駆体「3MH」チオールの量が多いようです。3MHの量が多いホップ品種には Cascadeが挙げられますが、なんとAloraには Cascade の 5 倍の 3MH前駆体チオールが含まれているようです。Cascadeの立場たるや…。3MHは、トロピカルフルーツ、パッションフルーツ、柑橘系の香りや風味の構成要素の1つです。
3MHなどのホップ由来香気成分について興味がある方は下記リンクの岸本先生の研究をご参照ください。大変勉強になります。
[ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来香気成分 岸本 徹]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/104/3/104_157/_pdf
以上のように明らかにこれまでのホップとは異なる「異能」が備わっている「Alora(アロラ)」。使用するのが楽しみでなりません。長いことインパクトのある次世代のスーパースターホップが現れていないように感じられるため、この閉塞感をぶち破るホップ品種の誕生を待ち望んでいます。
歴史
重複する部分もありますが、整理すると2017~2018年頃にホップシュタイナー育種プログラムで初めてHS17701という名前で公開された。Hopsteiner は、2023 年 11 月に Alora という名前でHS17701を正式に商品化したと同社はニュースリリースで発表しました。めちゃくちゃ最近じゃないですか。通りで日本ではまだ話題になっていない訳ですね。2024年3月時点では日本のホップ商社での扱いは見つけられませんでした。
個人的感想と雑感
今書けるのはここまで。知見がまだ浅いですが旬なホップだったので早めに記しておきたかったという思いがあります。内容がそんなに濃くなくてすみません…。追々、加筆して肉付けしていきます。同じ結びの言葉を「Superdelic」の記事でも書きましたが、Superdelicに関しては近日中に試せる機会に恵まれそうです。日本のブルワリーでの使用例も増えてきて、noteの閲覧数もそれに応じて増えてきました。先手打っといて良かったです。
「Alora」について、ホップ商社の皆様におかれましては、最新のホップ情報や、仕入情報がありましたらご連絡を頂けると大変ありがたいです。まずは、輸入の方、よろしくお願いいたします。
追記(2024.07.09)
その後、運よくホップサプライヤー(商社)さんが海外から空輸で仕入れてきた「Alora」の在庫を抑えることができました。本当は所属しているブルワリーで使用する予定でしたが、思っていたよりも早く所属先を退社することになったため数社に話を振って、別のブルワリーで使って頂くことになりました(最大4社くらいが使ってくれそうです)。
※実は、「BIXER BREWING」のロゴがパッケージングした商品に記載されたのは今回が初めてです。名前は出さなくても良いと伝えたのですが、彼らのご厚意でラベルに載せてもらいました。恐縮過ぎます。
さっそくAloraを試し打ちしてくれたのが、2024年のJAPAN BREWERS CUPにおけるIPA部門で1位を獲得した「NOMCRAFT(ノムクラフト)/和歌山県」です。彼らの出身は日本、アメリカ、ドイツと多国籍で、知識も経験も豊富なブルワリーです。言わずもがなIPAも美味いのですが、ラガーもめちゃくちゃ美味いんです。隙がないですよね…。1人1人がプロフェッショナルで、醸造や仲間たちとの仕事を楽しんでいる印象を受けました。やはり「良いビールは、良いチームから」ですね。
今回の話は北海道にいた時に仲良くさせてもらっていた「White Seed(ビアバー)/函館市」の平松さんの周年オリジナルビールで「Alora」を使いたいということでお誘いを頂きました。彼はビアバーのオーナーでありながら、ブルワーでもあるので、お店のオリジナルビールは自分でレシピ作成をしたり、仕込みに行ったりしています。今回もわざわざ函館市から和歌山県まで移動して仕込んでますから、その情熱やこだわりが伝わってきます。
私は今回大した役割は果たしていません。「Alora」を手配して、ブルワリーに赴いて、めちゃくちゃ温かな歓迎と美味しい食事をさせてもらって、ほろ酔いの中でレシピについて話し合ったり、議論し合ったりしただけです。ビールの仕上がりにほとんど貢献していませんが、彼らと質の高い情報交換や話し合いができたことは刺激になったし嬉しかったです。
ビールの仕上がりはというと「最高」でしかないですよ。そこは全く心配なんてありませんでした。是非飲んでみてください。やり取りしていたブルワーとも「他のホップとは違うニュアンス」を感じるという感想を共に抱きました。今回のビールについては、他のホップとの併用により異なるレイヤー(層)を生み出した複雑で、飽きのこない素晴らしい設計かつフレーバーだったと思います。
NOMCRAFTの皆様、White Seedの平松さん、ありがとうございました!
さて、Aloraホップの特徴についての話に戻りますが、結論から言うと「面白い」です!ホップペレットを嗅いだ香りの印象は「グリーン ダ・カ・ラ GREEN DA・KA・RA」でした。
たまたまその時に飲んでいたのが「グリーン ダ・カ・ラ GREEN DA・KA・RA」でした。だから、比べてみるとやはり共通のナニカがいました。グリーン ダ・カ・ラ GREEN DA・KA・RAをよく見ていると、「ゆず」が入っているじゃないですか。そうです。「Alora」には「ゆず」のフレーバーがあるとされています。ハッキリと「ゆず」という感じではなく、「爽やかな柑橘感」くらいのマイルドなものです。もちろん官能なので人それぞれの感想は異なると思います。
ただし過度な期待は禁物かもしれません。Mosaicにおける「バブルガム、ベリー」やCitraにおける「トロピカル、マンゴー」ほどの強度があるわけではないように思います。とても良いホップですが、どちらかというと「繊細」で「奥ゆかしく」、「爽やか」なのではないかと思います。シングルで主役を担うなら「(ホッピー)ラガー」、「ペールエール」、「セゾン」あたりかと。
ある種、私にとって最上級に強度が強いホップとはIPAなどのビアスタイルでシングルホップだけでもハッキリとしたフレーバー強度をもたらす品種だと考えています。まだAloraをシングルで使用していないので、無責任なことは言えませんが、IPAやHazy IPAをつくる際はMosaicやCitra級のサポートは必要なのではないかと思いました。とは言え、シングルで美味しいIPAを作りたいと内側からメラメラ湧き上がる想いはありますが…。ちょっとしばらくは試したいことをすぐに試せる環境が整っていないので、もし試せたときはさらに追記しますね。
誤解がないように言いますが、NOMCRAFT×White Seedの「Diamond Dust」を飲んでの感想ではありません。あくまでペレットを嗅いだ印象をもとにした考察です。彼らの今回のビールはシングルホップではないので、レシピや組み合わせ、手法の中でAloraをうまく活かしてくれた素晴らしいビールです。
Aloraについてはまだサンプルが少なく、わからないことだらけなので、随時共有していきたいと思っています。
参考文献
[HOP VARIETY DATA SHEET ALORA]
https://www.hopsteiner.com/variety-data-sheets/Alora/
[INTRODUCING ALORA]
https://www.hopsteiner.com/blog/introducing-alora/
[Everything You Need to Know About Alora™ Hops]
https://getollie.com/blog/hopsteiner-alora-hops
[Hopsteiner celebrates 150 years.]
https://www.thefreelibrary.com/Hopsteiner+celebrates+150+years.-a017613639
[Discover Otherworldly Flavor with Alora™]
https://beerandbrewing.com/discover-otherworldly-flavor-with-alora-tm/