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BingのAIと『よだかの星』について語り合ったら、想像以上に人間味のある議論ができた!「理解を深める」ツールとしての可能性

ChatGPTと並んで大人気の、Microsoft BingのAIチャット。
いかに「正しい回答」「使えるテキスト」を引き出すかに注目が集まりがちですが、回答の正確性や文章力の面では、まだまだ…と感じることも少なくありません。

むしろ、正解のないディスカッションにつき合ってもらうほうがBing AIのよさを引き出すことができるのではと思い、宮沢賢治の『よだかの星』をテーマにディスカッションしてみました。

<ルール>

  • 結論を出すことを目的にしない
    何かしらの答えを出すのではなく、登場人物の気持ちなどを考えることを目的としました。

  • 「それは違う」は言わない
    「その描写は作中になかった」「その解釈は違うと思う」など、AIの発言を否定することは言わずに進めています。

  • 前提を正しく理解している状態で始める
    何回か試したところ、最初の段階で本来の作品にはまったく登場しないエピソードが返ってくるケースもありました。それだと議論が成立しないので、基本的な作品のあらすじが正しく認識されている状態からスタートしています。

ちなみに今回は、3種類から選べる「会話のスタイル」には「独創性」を選んでいます。

かわせみは、よだかをどう思っていた?

まずはチャットに作品名を打ち込んでみます。説明が少々アバウトな感じもしますが、Wikipediaや青空文庫を参照しながら作品の概要を教えてくれました。

最初に、Bingさんがこの作品をどう理解しているか知るために、「よだかは本当に孤独だったのか」を聞いてみました。

よだかが星と歌うシーンなんてなかった気がするけどなぁ…。でも、今回は否定しないルールで進めているので、スルーして次の質問にいきます。

よだかの星では、美しい容姿をもつ「蜂雀」(ハチドリ)と「かわせみ」が、よだかの弟として描かれています。そして作中では、別れを告げに来たよだかに対して、かわせみが「蜂雀もあんな遠くにいるんですし、僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか」と引き留めています。

それにもかかわらず、みずから星になってしまったよだかを、弟たちはどう思っていたんでしょうか?

「彼らはよだかの姿をからかったり嫌がらせをしていた」との答え。え? 嫌がらせをしたのは鷹やひばりのはずだけど。

でも、ここは間違いを指摘するのではなく、引き続き「弟はよだかをどう見ていたか」にフォーカスした質問をしてみたいと思います。
引き留めているシーンからすると、よだかを想う気持ちもあったように見えますが、一方で嫌う感情もあったという解釈なのかな?

なるほど。自分が美しいからこそ、相手を見下してしまう気持ちがあった。でも、愛する気持ちもあったということですね。実際そういうことってあるよね。そんなときはどうしたらいいんだろう? 解決策を聞いてみることにします。

「自分の気持ちを素直に認めることが大切」との答え。この解決策を『よだかの星』にあてはめるとしたら、カワセミはどんな態度をとるのがよかったのか聞いてみました。

えぇっ? ストレートに「君のことを恥ずかしく思ってる」とか言っちゃうの?
それはやめた方がいいんじゃないかなぁ…。世の中には「優しい嘘」ってのもあるんだよ。

本当の気持ちを伝えるほうが長期的にみて良い関係を築けるという答え。たしかにそういう価値観もありますよね。
でもさ、このときのよだかって、かなりギリギリの状況だったよね。そこで「辛口の真実」を告げるのはあまりにも酷では?
もしその後によだかが星になることを選んでしまったら、「自分のせいかもしれない」と自分を責めることになるかもよ?

それは自分のせいではない。よだかの決断を尊重すべきだというドライな答え

「優しい嘘」と「辛口の真実」についてもう少し議論したいところですが、1チャットあたりの会話の上限である10ターンが迫っているので、最後の質問に移ります。

よだかに対して、そんな複雑な気持ちを抱いているかわせみの立場で、よだかに手紙を書いてもらいました。

ここまでの議論を受けた、かわせみの気持ちが整理された内容になっている印象です。「本当の美しさや醜さとは、外見ではなく心」という議論では出てこなかったフレーズも登場し、その気づきを経て変わろうとしていることも書かれています。かなりきれいにまとまっていますね。

人間と議論するのと実は同じかも


正直、ここまでのディスカッションができるとは思っていませんでした。
実際にはそんなシーンは存在しない「よだかは星々と友達だった」という発言や、作中の言動からは(私には)読み取ることのできない「かわせみには、よだかを嫌う気持ちがあった」という解釈など、「それは違うんじゃない?」と言いたくなることも多々ありましたが、それらをあえてスルーして話を進めたところ、かなりおもしろい広がり方をしました。

考えてみると、作中に描かれていない場面を想像するのは物語を読む楽しさのひとつですし、自分では考えてもみなかった解釈について聞くのも誰かと本について語る醍醐味です。

そういう意味では、人間同士で本について語り合うのとあまり変わらないのかもしれません。

チートツールではなく考えを深めるツール

BingのAIやChatGPTが学生の作文やレポートの課題に不正使用されることを懸念する声も耳にします。でも、成果物そのものを生成するチートツールではなく、自分にはない視点、自分とは違う価値観を知るためのツールとして使い、「そんな受け取り方もあるんだね」「いや、自分はそうは思わないなぁ」と、そこからさらに自分の頭で考えていけば、作品への理解を深める手段としてかなり可能性があるのではと思いました。

そして、作文の宿題とは無縁の大人たちにとっても、自分の価値観を再確認する、普段の自分とは違う視点で物事をみる頭の体操として、「正解のないテーマ」についてAIと語り合ってみるのは意味のあることだと感じました。

少なくとも私は、今回のディスカッションをするまで「かわせみによだかを見下す感情があったかもしれない」という視点は持っていませんでした。
また、後半で出てきた「優しい嘘 or 辛口の真実」についても、こういった話題について改めて誰かと議論する機会はなかったので、コミュニケーションのあり方について考えるきっかけになりました。

「AIだから理解が不十分」「まだ使えないな」という上からのジャッジではなく、「自分とは違う価値観をもった、たまにちょっと独特な物事の受け取り方をする人」として仲良くしていくことで、自分がより人間らしく生きるための後押しをしてくれる存在となりそうです。


▼そもそも『よだかの星』ってどんな話だっけ?という方はこちらから。


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