ジャズを聴き漁った頃 

阪神淡路大震災前まで 神戸三宮駅の北側に 『グリーン・シャッポービル』という 名前のとおり グリーンの屋根を冠したかわいいビルがあり その一角に『JRレコーズ』という ジャズレコード専門店があった
間口2メートルぐらいで 奥行きが深く ほぼ通路 みたいな店内の両側に エサ箱が並んでいた
この店の 最大の特徴は そのエサ箱のかなりのウエートを ヨーロッパのフリージャズのレコードやCDが占めていた という事だ
デレク・ベイリー ハンス・ラインフィル エヴァン・パーカー ペーター・ブロッツマンなど 名前を聞くだけで 頭がクラクラするようなツワモノのレーベル おそらく タワーレコードだと 1枚も置いてない ディスク・ユニオンでも怪しいな という珍しいレコード(以後LP CDを総称する)が 当たり前のように置いてあった
それだけでなく これらのミュージシャンを呼んで 神戸の北野にある『ビッグ・アップル』というライブハウスで演奏させるプロモーションにも ここの店主が関わっていた節があり 日本のミュージシャンも バックアップしていたようで 店内で物色していると ギターを担いだ若者が 店にぶらっと現れて 店主と話していたが 店主がいきなり わたしに向かって
『内橋さんです』
と紹介してくれた
その頃わたしは この店に頻繁に顔を出していたし 店に行ったら買う と決めていたし ライブも たまに足を運んでいたので 常連客の端くれに 入れてもらっていたのだろう
内橋さんは アルタード・ステーツというバンドを率い UAのバックでも参加していた 内橋和久である

そんなある日 ビッグ・アップルで 別のミュージシャンのライブがあると聞き 行くことにした
ターン・テーブルとハンドメイド・ギターを演奏する人らしい 
会場に入ると 人が疎ら  客は片手もいなかったんじゃないだろうか JRレコーズの店主が 『すいません 今日は客が少ないんで ちょっとおまけします』とチケットをすこしまけてくれた それって逆だろう と思ったが 好意に素直に甘えた
場内が暗くなり 演奏が始まった
ミュージシャンは若く(わたしより少し年上だが その頃わたしも若かった) まじめそうだった
ターン・テーブルにレコードを取っ替え引っ替え乗せ メロディーが立ち上がっては切断されたり 引き裂くような 唸るような ノイズが立ち現れたりする
時々 マリリン・モンローのププッピドゥという悩ましい声をリピートして笑いを取ったりもする
レコードの盤面には 小さな丸いシールがあちこちに貼ってあり 何かの印か 針が飛ぶポイントなのだろうか
わたしは テレビの修理屋の息子なので 子どもの頃から こんな音に満たされた環境にいた 暗い場内をノイズが満ちている状況に これって 音楽なんか?雑音なんか? とか 俺 今何してるんやろ? とか 果ては 俺の人生って何なんやろみたいな 哲学的な話題すら頭によぎったりする
ノイズ音楽って けっこう内省的な音楽だと わたしは思う ひたすら静かな環境で座して瞑想するのと対極でありながら 実は同じなのかもしれない 要するに 無心に浸れ と
ライブ後 ミュージシャンにサインをもらって 握手してもらった  すごく腰が低くて 誠実な感じがした
その後 一橋大学のコンサートで ハンドメイドギターでロンリーウーマンをグシャグシャなアレンジで演奏するのを聴いたし フリージャズのユニットを組んだり 歌手をプロデュースしたり 映画音楽を作ったりと 色々な活動をしていて とても全容を捉えきれなかったが たまにツボにはまった企画のCDを買ったりした
ある朝 水を飲んでトイレに行こうと思い ふらっと起きたら 軽快な音楽が聞こえてきた
かみさんが朝ドラを観ていたのだ
『あまちゃん』という 新しくはじまったシリーズらしい
曲の雰囲気に あのミュージシャンなら こんな音楽も作ったりするのかなぁ となんとなくテレビの画面を眺めてあると タイトルに件のミュージシャンの名前が出てきて どひゃ~となった
音楽 大友良英 


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