「パラノマサイト」の志岐間春恵と櫂利飛太の、表向きの設定を越えた不思議な関係が面白い。
※本記事には「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」のネタバレが含まれます。
※全体の感想記事は↓こちら。
「パラノマサイト」の志岐間春恵と櫂利飛太の関係が面白い。
二人の関係は、物語の表層上は「探偵と依頼主」でしかなくそれが揺らぐことはない。
ところがその視点だけで物語を追うと、不自然に感じる点が多々ある。
例えば物語の冒頭、春恵は真夜中に利飛太を自宅に呼び寄せている。いくら夫との仲が冷めきっているとはいえ、既婚女性がする行動として不自然である。
では二人の間に恋愛要素があるのかというと、ストーリーが進んでも恋愛要素は出てこない。
出てくるのは別の要素だ。
この二人の関係の面白さはここにある。
ストーリーの中で、春恵は終始死んだ息子・修一のことしか考えていない。修一の蘇りと復讐しか頭になく、利飛太に対しては「優秀な探偵」以上の感情を持つことはない。
一方、利飛太は春恵に個人的な思い入れがあるように見える。
利飛太は春恵自身が呪詛珠を使うことは戒める。だが修一の蘇りのために採魂を奪うことには反対しない。つまり「(誰かが)人を殺して奪った魂を利用すること」は黙認している。
これは「思うように人を助けられない」という理由で警察を止めた利飛太の性格にそぐわない。
利飛太は春恵に気が済むまで「蘇りの秘術」を追わせた後、ルートの最後で息子の死を受け入れるように話す。
はっきりとは語られないが、利飛太は最初から春恵に修一に対する執着を手放させることを目的に動いていた、と推測できる。
春恵は利飛太にとって依頼主の一人に過ぎない。なぜそこまでするのか。
表向きの設定や関係をまったく無視して、二人の言動や作内の関係だけに注目してみれば、利飛太は修一を代替することができる人物である。つまり春恵の(疑似)息子である。
春恵が最後に「『息子を蘇らせるために何でもすること』をアイデンティティにしてはいけない」という利飛太の台詞を受け入れて復讐を諦めるのはそのためだ。
修一が警官を目指していたのに対して利飛太は警官を辞めている。
利飛太が駄菓子屋ではしゃいでいる時に、春恵は修一のことを思い出す。
修一蘇りルートでは、修一は利飛太の弟子になる。
修一と利飛太が重なる要素が多くある。また蘇った霊が波長の合う人と同化することがあり得る、という設定があることが「利飛太が春恵の息子として機能すること」を可能にしている。
面白いのは、二人の間の「疑似親子関係」が、ルート開始当初は利飛太→春恵の一方通行なところだ。
春恵は最初、表層の関係通り利飛太を「自分が雇った探偵」としてしか見ていない。対して利飛太は、ルート開始当初から、春恵に対して「仕事の契約」という枠を越えて、息子(の代わり)に春恵に寄り添い作用しようとする。
物語開始当初は一方的だった利飛太の働きかけが、物語が進むにつれて春恵に作用し出している。
というよりも、「春恵が最後に利飛太の言葉を受け入れて修一の死から解放された」という結果を見ることで、まったく作用していないように見えて、利飛太の「息子としての働きかけ」は春恵にジワジワと効いていたのだと気付いた。
これが凄く良かった。(「積み重ねてこなかったこと」が問題になった津詰のストーリーとの比較にもなっている。こういうルート同士のつながりや比較が見えると気持ちが上がる)
↑の夏祭りデートを見ても、二人の距離感は「探偵と依頼主」でもなく「恋愛に発展しそうな男女」でもない。どちらもしっくりこない。
物語を見る視点を三層くらいに割って、その三層すべてを重ねて見ることで、初めて「なるほど、こういう関係なのか」としっくりくる。
そこが面白かった。
「現実的な設定」は無視して、ずっと仲の良い疑似親子でいて欲しい。
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