【2024 台湾総統選】状況が切迫してくると、状況を楽観視し、なるべく触れないようにする中道路線に人気が出る現象が興味深かった。

 先週まで読売新聞で「2024年台湾総統選候補の顔ぶれ」を特集していた。
 台湾の政治状況についてはさほど詳しくないが、今後、台湾の総統がどの政党のどの候補になるかは、日本にとってはかなり重要と思い読んでいた。

 今のところは蔡英文政権の路線を引き継ぐことを明言している、民進党の頼清徳(ライ・チンドォー)が優勢のようだ。
 野党である国民党は分裂選挙なので、順当にいけば民進党政権が続くことになりそうだ。
 頼清徳は元々は相当強硬な独立志向を持っていたようで、今の状況でそれはそれで怖い。

 国民党の侯友宜(ホウ・ヨウイー)は「中国寄りの姿勢ではなかったっけ?」と思ったが、調べてみたら「民進党よりは中国寄り程度」だ。訪米や訪日して、日台関係を重視したいと述べたりするなど、「中国とも西側ともうまくやっていく」というニュアンスを感じる。
 ただこの中道路線が支持者から批判を浴びて、

 条件付きで「(中台が『ひとつの中国』原則で合意したとされる)「92年合意を受け入れる」と語った。
 中間層向け候補から、国民党の伝統的な候補のスタンスに転換した瞬間だ。

(2023年9月16日(土)読売新聞11面「2024 台湾総統選候補顔ぶれ②」/太字は引用者)

「ひとつの中国」を認める方針に転換したらしい。
 どの国のどの政党の状況を見ても、「支持層の舵取り」は本当に難しい。

 二大政党が政権に交互についてきた台湾で、2019年に新しく結党された台湾民衆党の党首・柯文哲(クォー・ウェンジョオー)も立候補している。
 ステージ上でヒットソングを歌い、NARUTOのコスプレで登壇するというパフォーマンス重視の政治で、25~34歳の若年層からは50パーセント強の支持を得ている。
 日本やヨーロッパ各国で出てきているポピュリズム政党と同じ傾向を感じる。
 どんな強い主張をしているのかと思ったが、意外にも中台関係については「現状維持」以外のことはほぼ何も言っていない。

 台北市長として訪中を重ねた柯氏は(略)中台が「一つの中国」原則で合意したとされる「1992年合意」は受け入れておらず、「対話と交流」という方針を掲げるのみだ。
 こうした対中姿勢は、若者を中心とした中間層の一部に広がる「戦争など起きない」という中国の意図を度外視した楽観論を意識しているようだ。

(2023年9月16日(土)読売新聞11面「2024 台湾総統選候補顔ぶれ③」/太字は引用者)

 民意の主流は「独立」に動いて中国の介入を招くことも、統一で自由を失うことも望まず(後略)

(2023年9月16日(土)読売新聞11面「2024 台湾総統選候補顔ぶれ③)

 現在のところ、中台関係については、32.1パーセントの人が「永遠に現状維持」でトップ、次いで「現状維持後に決める」が28.6パーセントだ。
 台湾にいる6割以上の人が、なるべく今の状態が継続することを望んでいる。

 興味深いのは社会に外圧などの具体的な脅威が迫っていない場合は、「迎合すべき考え」が尖鋭化・過激化しやすいのに対して、具体的な脅威(考えなければならないこと)が迫っている場合は「曖昧な中道路線」、「考えなくていい」と言うことが支持層に迎合することになるところだ。

 中台関係については中国が主導権を握っているので、台湾が戦争を起こすか起こさないかは選べない。台湾を現状維持するためには「中国に戦争を起こさせない」しか方法はない。

とすると、台湾の総統として国民に提示できることは「中国に戦争は起こさせない、現状維持のほうが得だ、と自分はどのような方法で思わせることが出来るか」だ。

 その方法を示すのではなく「戦争なんて起きないだろ」という国民の希望的楽観論に「その通りだ」と言うだけという対応は、無責任としか思えない。
 政治家というのは国民にビジョンとそこに導く方法を合わせて提示するから支持されるのであって、「支持を集められればそれでいい」と国民のビジョン(妄想)に乗っかることを辞さない姿勢は怖い。

 もし日本が同じ状況に置かれて、もしくは自分が台湾に生まれていて20代でこの先の人生がまだ長いとしたら、先のことが不安で「何とかなるから考えなくていい」という自分が信じたいことを言う人に寄っていってしまうかもしれない。
 その気持ちがわかるからこそ、いざという時は不安に耐えて、差し迫った状況(脅威)についてきちんと具体的に考えられるようにしたい。
 難しいにしてもさ。

 台湾総統選挙は年明けすぐだが、どうなるだろう。

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