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「エネアド(ENNEAD)シーズン1」を考察した感想

「エネアド」のシーズン1を考察するために細かく読み返したので、上の記事に入りきらなかった感想を書きたい。

◆訳の問題。

読んでいて「この部分は、原文だとニュアンスが違うのでは」と思う部分が目についた。
二つほど例を上げると、ひとつめは髭がイシスを「姉貴」と呼んでいる点。
韓国だと親しい目上の女性を呼ぶ一般的な呼び名なので、日本語でいう「姐さん」に近いものとして使っているのではと思ったがどうなんだろう。

(エネアド65話 MOJITO)

イシスに「姉貴」というルビを振っているが、「姐さん」と違い「姉」は日本語では血縁か姻戚である「家族」の意味合いが強い。
イシスが髭にとって「姉(血縁、姻戚関係にある)」という裏設定でもない限りは(*あったらスマンだが、それだったらこんなにサラリと出てきてサラリと終わるとは思えないしな。マアトも突っ込んでいないし)誤訳に近いのではと思うが。
そういう設定があるのかな、と悩んでしまった。

二つめは、考察の記事でも書いたが第35話でセクメトがホルスに言った「このすべての罠を完成させたのがネフティスだったら?」というセリフ。
このセリフはストーリーの根幹に関わる。

(エネアド35話 MOJITO)

ネフティスが中心になって主体的に、『セトが自分という存在に不信を抱く罠』を完成させた」という意味に取るのが自然だと思う。
だが物語内の文脈やそのあとの↓の回想シーンを見ると

(エネアド35話 MOJITO)

セクメトのセリフは「セトが自分自身の存在を不安に思う一番の理由が、ネフティスの裏切りにあるとしたら?」というニュアンスではないか。(このシーンを見ると、裏切りをばらしてセトの不安を煽ったのがセクメトなので、「全ての罠を完成させた」のはあなたでは?とツッコミたくなる)

第40話でセトがオシリスに、「ネフティスとアヌビスの中で自分の存在が消されるのではないかと不安だった」と打ち明けていることや、マアトの審判において「自分がオシリスに犯されたことをネフティスには絶対に知られたくない」と暴れたことなどを考え合わせると、セクメトのセリフの意味は「ネフティスがセトに罠をしかけた」ではなく「ネフティスの裏切りが、セトにとって罠として作用している」だと思う。

セトが妻であるネフティスに対して抱いている思いと二人の関係性は、ストーリーやテーマに関わる重要なことだ。(オシリスとの「愛情」を巡る会話を見てもわかる通り)
・本来であればそんなことで自信が揺らぐはずがないセトの自信が揺らいだのは、ネフティスの裏切りが大きい。→それくらいセトにとってネフティスの存在は大きい。
というニュアンスが丸きりなくなってしまうセリフにするのはどうかな。

また、このセクメトのセリフと鏡の謎を掛け合わせると「ネフティスは主体的にセトを陥れようとしている」という説が有力だと考えてしまう。
ただ、それだとストーリーの流れとしておかしくなる。
・セクメトがこのシーンでホルスにそれを言う必要がない。
・ホルスの反応が淡泊すぎる。(驚いている様子がない)
など、矛盾がある。
仮にネフティスがセクメトの言う通り「主体的にセトに対して罠をしかけた」というのがストーリー的に事実だとしても、ここでセクメトがそれをホルスに言うのも、そのセクメトのセリフに対してのホルスの反応も不自然だ。
訳のニュアンスが違うのでは、と思うがどうなんだろう。

小説なら地の文章で補完が可能でも、漫画だと他の情報が「絵」なので文字よりも伝わる情報が曖昧だ。
特に「エネアド」は顔の表情で物事を伝えたり、抽象的な言葉が多かったり、謎が多い話なので細かい言葉のニュアンスで話がまったく変わってきてしまう。
もちろん自分が原文を読めるのが一番いいが、そこまで含めての「日本語版」だと思うと、もう少し細かい部分まで気を配ってもらえると嬉しい。


◆セトはネフティスが大好きすぎる。

自分がネフセト推しだから言っているのではなく(いや、本当に)むしろそこに気付いたからいっそうネフセトに熱が入った。

(エネアド53話 MOJITO)

真っ先に気にするのが「ネフティスに言ったか? ビタッ」だ。その後に「本物なんか贈ったら、ネフティスに散々言われるだろ」と言っている。
ストーリー内ではあれだけ傍若無人なのに、ネフティスに対しては「尻に敷かれている感」が垣間見えるところがいい。
本編では二人の絡みがほとんどないので、外伝でやってくれないかな。

このころはイシスとセトは滅茶苦茶仲が良さそうだ。
元々はこういう関係だったから、イシスは「セトは何も話さないで自分を閉じ込めたこと」にあれほど怒ったのかと思うと切ない。


◆セトとイシスの猛烈勘違いぶりが読み返すと面白……気の毒。

マジでこれはない。

(エネアド10話 MOJITO)

セトに会いに行くために、イシスを他のところに飛ばしたオシリスに対して、「私のために」と言うイシス。
この時点でイシスは真相を知っていたのだから、どういうつもりでこんな言動をしていたのかと思うと震える。

読み返すとセトの鈍感ぶりがやっぱり凄い。

(エネアド40話 MOJITO)

まあそりゃこう考えるだろ、と思う場面だが、二回目以降だとちょっと笑ってしまう。

シーズン2・27話の時点でこの認識。ホルスどころか髭の気持ちにも気付いていなかったのか。

なんだ、このくそみたいな状況は?
こいつら今、俺の前でメスを奪い合うオスの真似事をしているみたいなんだが。

(エネアド・シーズン2 27話 MOJITO)

そりゃあ、オシリスも「鈍い」って言いたくなるよな。


◆ホルスを舐めていた。

読み返すと父親に勝るとも劣らないヤバい奴に見える。
イシスと話す時やセトを想う時は比較的マトモだが、アヌビスとの会話で負の感情がダダ洩れだ。

(エネアド 62話 MOJITO)

「叔父さんと縁を切らないと、あなた死にますよ? ニヤリ」というところが怖い。笑うところじゃないだろ。
「シーズン2・26話」のホルス対髭は恰好良かったな。二人をちょっと(髭はだいぶ)好きになった。


◆三人家族修復エンドがいいのだが、やはりBLエンドなのかなあ。

今回細かく読み返して、セトの辛さが身に染みた。
どれほど間違っていたとしても「男として夫として父親として一生懸命生きてきた」苦悩と、どれほど苦しんでもそれを表に出せずにイキるしかない辛さを感じる。
殺された人間たちがセトを呪ったり、イシスが怒るのは尤もだと思う。
ただ大切な息子が愛していた妻と尊敬していた兄の裏切りによって生まれた子供で、その兄貴に全否定されたあげく犯されたら、そりゃああれくらいバグっても仕方がないのでは、と思ってしまう。
ネフティスに裏切られただけならネフティスに怒りをぶつけることも出来ただろうが(セトが『話を聞いてやろうとしなかった』と言っている通り、それも難しいと思うが)オシリスに犯されて「男としての自分」を傷つけられたら問題に直面出来ずに逃げ回るのも無理はない。

セトはオシリスやネフティスの気持ちに気付かなかったし、「簒奪の夜」の後はイシスの気持ちをわかろうとしなかった。だとしてもだ、ここまで詰めんでも。

セトが大人しく刑罰を受ける気になったのも、アヌビスの「三人でまたやり直そう」という言葉があったからだ。
途中経過は色々あれど、最終的には三人家族修復エンドがいいな。
アヌビスも攻めに回るのかな。セトの精神が心配だ。(見たい)


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