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「ホグワーツ・レガシー」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



前提

  • 「ハリー・ポッター」シリーズは読了済み。副読本も公式のものはほとんど読んでいる。ただし、呪いの子は読んでいないし、観ていない。
    映画も「ファンタスティック・ビースト」含め視聴済み。

  • 真のゲーム処理がわかるわけではないので、推論含む。



感想

魔法ワールドを舞台としたゲーム

 「ハリー・ポッター」シリーズを開祖とする魔法ワールド(Wizarding World)を舞台にしたオープンワールド(定義が色々とあると思うが、少なくとも自称している)のゲームだ。

 また、主人公は転校生としてホグワーツに加わるため、ホグワーツにおける学生生活のシミュレーションゲームとしての側面もあるだろう。

 そのどちらの楽しみ方もできるという向きもあるし、それが高評価に繋がっているのだと推察するが、個人的には中途半端なゲームであるという印象を受けた。

 それがなぜか、ということを簡単にまとめたい。



帯に短し襷に長し

 まず、オープンワールドのゲームとして見ると、自由度が足りない。

 メインクエストではストーリーに関する重要な事案を扱っており、これを進めていく(あるいはそこから分岐するサブクエストをクリアする)ことで色々な魔法を覚えていく。

 魔法にはいくつか種類があるが、基本的にはゲームメカニクスとしては、『鍵と鍵穴』の役割を持っていることが多い。

 つまり、蜘蛛の巣が張っているところがあると、炎を出す魔法を覚えていれば、その先に進める、といった形になっている。

 詳細は後述するが、それにより、メインを進めずに探索などを行うことが少し億劫になっており、自由度を感じにくくなっている。

 また、箒や魔法生物などのゲーム要素も、メインストーリーを進めることにより解放されるので、ひたすらに新要素の説明を受けながら、ゲームを進めていくことになり、オープンワールドの開放感があまり感じられない。

 加えて、クエストの仕様も非常に不便だ。

 本作では、クエストを一度開始してしまうと、それを途中で放置したり、寄り道したりすることができない(ファストトラベルなどが使えず、クエストエリアから離れるとゲームオーバーになる)。

 そして、クエストを中断すると、なんと、クエスト開始前の状態に戻ってしまう。つまり、クエスト途中で手に入れた(逆に消費した)アイテムや、経験値はなかったことになってしまうのだ。

 また、クエスト途中で挟まることがあるミニゲームも『メニューでリスタートできる』というような最低限の機能もなく、敗北や失敗が確定していても、最後までプレイしなければならない、といった仕様になっている。

 このように、オープンワールドのゲームとしてみても、粗の目立つ、現代的ではない仕様になっており、自由度やそれによる快適性がない。


 逆に、学生生活のゲーム、そのシミュレータとしてみると、自由度が高すぎる。チュートリアルもあくまで、ゲーム要素のチュートリアルなので、授業を受けているという風には感じないという点も大きい。

 (主に6巻以前の)原作にあった学生生活感は、どのようにゲームで表現されうるだろうか、ということを考えたのだが、それは制限だと考える。つまり、学生生活とは制限によって成り立っているのだ。

 授業があり、それに出なければならない。学校の外でもいくつかの制限がある。コミュニティの幅も狭い。そういったものが学生の特徴ではないか。

 学生生活をメインに置いていて、評価が高いゲームに(3以降の)「ペルソナ」シリーズがある。これらは、時間の概念を上手く用いて、1年を通して物語を描いているし、放課後や休日といった限られた時間というリソースをどのように消費するのか、限られたコミュニティをどのように発展させていくのか、といった構造になっている。

 これに近いような、もっとリニアな構造にしなければ、学生生活らしさのようなものを表現できないのではないか、と感じた。(まあ、学生とオープンワールドという組み合わせによるめちゃくちゃ加減を楽しむことはもちろん可能ではあるし、それによって注目を浴びている側面はあるのだが)



鍵と鍵穴としての魔法の扱い

 オープンワールドのゲームとして、各所に散りばめられている要素の中にいくつかのちょっとした謎解きがある。しかし、それをあまりやる気にはなれなかった。

 なぜならば、その謎解きに必要な魔法を覚えているかどうかに確証が持てないため、時間を無駄に使いたくない、という気持ちが勝るからだ。

 たとえば、なにか意味深なオブジェクトがある時、それはすでに覚えている魔法の使い方を工夫すれば解けるのか、もう少し後に覚える魔法を使って解くためのものなのか、ということがわからないのだ。


 その点を「ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド」は非常に上手く実装している。謎解きの主要な要素はチュートリアルですべて解放され、その先のオープンワールドの舞台では、それらを屈指すればクリアできることが保障されている。だから、安心して熱中できるのだ。このような方式にする必要があるのではないだろうか。

 あるいは、旧来の「ゼルダの伝説」シリーズのようにステージ制に近いリニアな構造にして、『すでに手元にある道具で解ける』か『このステージで手に入る道具で解ける』ということがある程度明確にわかるよう設計する、といったような形の方がよいと感じる。

 そうでなければ、鍵が足りないのか使い方が悪いのか、わからないのだ。



尺稼ぎのレベルと装備

 レベルと装備に関しても、あまりゲームに合っていない仕様が採用されていると感じる。

 レベルを上げるための経験値が『敵を倒す』というものではなく、実績を進めていく行動によって手に入るという仕様は良いように思う。学生らしいし、実績が小・中目標として機能し、報酬としての経験値がある。

 ただ、メインクエストを進めるために一定のレベルが必要なのは、ただの水増し(クリア時間はN時間でした、という感想におけるNをなるべく大きく見せかけるためのもの)にしか、感じられなかった。

 「アサシンクリード オリジン」も、レベルがメインクエストの事実上の制限として存在しているオープンワールドのゲームだ。

 こちらのゲームでは主人公が暗殺者であり、各所で悪の為政者を倒す、という体験が基盤として存在する。その上で、レベルを上げるには、各所のサブクエストをこなすのが効率的だ。

 つまり、メインクエストを進めて各所を旅し、レベルが足りなくなるとそこのクエストを受け、現状の悲惨さを知り、その上でメインクエストの為政者を倒す、というようなストーリーテリングの助けとなる構造だった。

 本作では、そのようなものを感じない。


 また、装備の仕様も何故かハック・アンド・スラッシュゲームのアイテムのようにランダム性が高く、水増しをさせているような印象を受ける。

 ホグワーツには宝箱が散りばめられているが、(おそらく)基本的には開けた時のレベルに依存する形で装備が出るようだが、装備のスタッツ的な強さはレベルに依存しているため、レベルが上がるまで宝箱を開けずにとっておく方がよい、というオープンワールドとチグハグなものになっている。(開けてしまうと未開封の宝箱という資源を消費した形になってしまう)

 たとえば、前述の「アサシンクリード」でも、オリジンやオデッセイはそのようなハック・アンド・スラッシュ的な仕様に近かったのだが、「アサシンクリード ヴァルハラ」では武器防具は基本固有のもので、それをアップグレードしていくような仕様にバージョンアップされていた。本作でも、そちらの方が合っているように感じる。

 あるいは、もっと単純に見た目の報酬としての装備として割り切ってしまってもよかったのではないだろうか。



魔法使いらしさを感じない煩わしい操作

 魔法使いになっているはずなのに、魔法を切り替えて使うことが面倒な操作系統になっており、あまり良い印象を抱かせてくれない。

 基本的にはトリガーを引きながら、ボタンを押す、という形なのだが、その操作形式にしては、魔法の種類が多すぎる。もちろん、登録できるショートカットの数を増やして、切り替える、というようなことはできるのだが、前述した鍵と鍵穴の仕様も相まって、面倒くささしか感じない。

 たとえば、『押し出す魔法』を使った後に、『引き寄せる魔法』をセットし直さなければならない、というようなことが頻繁に起こる。リニアなゲーム構造になっていれば、限られた範囲で登場する魔法の種類を絞るようなこともできただろうが、オープンワールドなのでそうもいかない。

 このような操作系ならば、もう少し数の少ない魔法(たとえば、各自アップグレードがされ、上位互換になるなどの仕様も考えらえる)でまとめて欲しいと感じる。あるいは、オブジェクトに対して、ある程度は自動で魔法が決定されると言う方が、むしろ、魔法使いシミュレータとしては合っているのではないか。現状の仕様はプレイ感を損なうレベルで不便と言える。


 また、カメラワークも悪いため、魔法が使いにくい上、乗り物(箒や魔法生物)の操作もしにくい。

 結構ストレスが溜まるが、オープンワールドという性質上、使わざるを得ないため、あまり良い印象を抱かせてくれない。



鋭くあるべきか、丸くあるべきか

 前述したような要素を考えると、個人的な好みとしては、どちらかに寄せたゲーム構造にしてくれた方がよいと感じた。

 つまり、学生生活に注目して、制限を強くし、フィールドも段階的に、それに合わせた魔法も段階的に解放されていくようにする、フィールドクリア型のリニアに近い構成にする、というのが一つ。

 あるいは、学生でなくして(卒業生とか、覆面学生とか、留年生とか)、最初から必要な魔法もフィールドも解放されている、オープンワールドに寄せた構成にする、というのがもう一つ。

 そのどちらかであるべきで、現状は中途半端であると感じる。

 とはいえ、実際にはそうしてしまうとそれぞれに尖ってしまい、逆の側を要望しているプレイヤーの購入を促せないと思うのは事実だろうし、大型のIPを取り扱う本作のようなゲームの場合、色々なゲーム要素を寄せ集めて、万人を大きく満足させられるわけではないが、大きな不満を抱かせるわけでもない、という現状が正解である(総幸福量と売上が大きい)とも思う。

 それにしても、色々と中途半端だと感じざるを得ないと思うが、フィールドそのものの原作(とその映画)の再現性は非常に高く、副読本も含めて読んだりしている筆者でも、大きな違和感は抱かなかったし、満足度は高い。

 「ハリー・ポッター」シリーズは、世界に比べても日本では特に人気のあるコンテンツであり、今後ともこのような大型タイトルが発売され、より良いゲームになっていくことを期待したい。


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