少し涼しくなる不思議な話

 私が中学生2年生の頃の出来事である。当時、自由に通う曜日を決められる小さな学習塾に友達の紹介で入ることになった。
私は転校生で、まだ学校にすら慣れておらず、知り合いも少ない。次から次へと新しい環境に身を投じており、どこに行っても不安だった。
 入塾初日、塾を紹介してくれた友達と2人で教室にいると3人組の女子が入ってきた。同じ中学の子達らしい。「初めまして、これから宜しく」と緊張しながら挨拶をすると3人のうち2人は「宜しく」と笑顔で返してくれたのだけど、最後に入ってきた女の子は何も言わずに席に着いてしまった。私は挨拶を返してもらえなかったことに内心とてもショックを受けていた。
 その曜日のメンバーは5人。休み時間、いろいろおしゃべりが弾んだけれど、最後に入ってきた女の子はどんなに会話が弾んでも、一切振り向きもせず前を見て座っている。会話の輪に入ってくることはなかった。また周りの子達もそれを気にする様子もない。ショックは大きくなるばかり。(そんなに嫌なのか....)塾の帰り道、ものすごく気持ちが沈んでしまったのを今でも覚えている。
 そしてその日を境にその子は塾に来なくなってしまった。その次の週もまた次の週も来なかった。あの女の子が塾に来なくなったことに、もやもや気にしている自分がいる。きっと塾に行く曜日を変えたんだろう。名前も知らないままだ。
 それからどれくらい経っただろうか。ある日の学校からの帰り道。友達に「あの子、塾来なくなっちゃったね、曜日変えたのかな」何気なく話した。「え、誰?」友達がきょとんとしている。「ほら、あの子、髪が肩くらいまであって、背も高くて、私が塾に初めて行った日、1番最後に教室に入ってきた....」いろいろ説明するも友達には伝わらない。「えー、怖いよ、あのクラスは4人だよ、誰も曜日変えてないよ。」驚きである。友達も驚いているが、それ以上に私も驚いている。
「ええっ!?、あの子だよ…」といっても背格好はわかっても顔は思い出せない。
しばし沈黙の後、気のせいだよね気のせい!とあんまり考えすぎたら怖いから、この話もう止めよう!と話題にするのをやめた。
 もう数十年、時はたっているけれど大人になっても時々思い出す不思議な思い出。

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