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【カラダの研究】計量失敗する人・しない人■タケ ダイグウジ

計量失敗する人・しない人の違いは何か? パフォーマンス向上スペシャリストとして多くの格闘家をサポートするタケ ダイグウジさんに話を伺いました!(聞き手/ジャン斉藤)

タケ ダイグウジさんの減量に関するレポート
体重制競技アスリートの為の減量戦略

萩原京平12000字インタビュー「平本蓮との再戦はお互いに勝ち上がってから」

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――今回お話を伺いたかったのは計量のことです。日本人格闘家はvs世界で活躍がしづらくなってきていて、そこは外国人との身体の作りが違う点もあるのか。あとONEのハイドレーションテストがじつはまったく意味がないんじゃないかという研究動画が話題になってましたし、vs世界でやっていくうえで、そのへんを解説していただきたいなと。

タケ わかりました。ハイドレーションテストの動画に関していうと、ボクがトレーナーとして見ている松嶋(こよみ)がONEに出てたんですが、最初はボクもあのシステムを完全には理解できていなくて。ONEのあのやり方だと実質的に1階級上ですよね。フェザー級の松嶋でいうと、ライト級だから「余裕だろう」と思ってたら、キム・ジェウォンとやったとき(2020年2月7日)にハイドレーションテストで引っかかって。尿比重が濃かったんですよね。ボクは「なんのために現地まで来てるんだよ」ってめちゃくちゃ怒られて……。

――トレーナーとして管理ができてないと。

タケ 昔のONEはハイドレーションテストを前々日と前日、2回やってたんですよね。松嶋は前々日にパスできなくて、タイムリミット1時間までにできるだろうと思っていたらダメで。前々日にミスしたら前日と当日の朝にもやらなきゃいけないんです。

――それは肉体的にも精神的にもキツイですねぇ。

タケ ボクは日本でも計れるように尿比重計を持ってたんですけど、そのときに限って松嶋が「大丈夫です」っていうから持っていかなかったんですよ。で、場所はジャカルタだったんですけど、めちゃくちゃ暑くて。なんにもしてないのにすごい汗かいちゃう。水抜きしてないのに、数値的には水抜きしたと判断されちゃったのかなって。

――ONEのハイドレーションテストは過度な水抜きを禁止するためのものですよね。研究動画ではシステムの欠陥を指摘してるんですが……。

タケ で、そのときある外国人選手が、どう見ても水抜きをやっている症状を見せていたんですよ。「これ、絶対に水抜きしてるよな……」って。

――水抜き防止なのに水抜きができる。そのときは抜け道があることはわからなかったんですね。

タケ で、いろいろと考えて帰国してから“ある方法”を試した……と言っても違法行為じゃないし、何か肉体的に危険なことではないんですけど。実際に自分の身体で2回試したんですよ。

――自分の身体で実験ですか!(笑)。

タケ その方法だと水抜きできることがわかって。正直ONEの選手はみんな水抜きはやってますよね。

――研究動画でも「もしやっていない選手がいたらバカだ」くらいのことを言ってました。

タケ 青木(真也)選手と秋山(成勲)選手がやったときも、秋山選手は明らかに水抜きしてる感じですよ。だってサウナスーツを着て大汗をかいてる姿をSNSにあげてたじゃないですか。あれはやり方を知っているってことですよね。いまはもう松嶋はONEではないですが、今後もONEで戦ってくるんだったらバンダムでもいけるよって言ったんですよ。でも、フェザーでもフィジカル負けしてなかったから、このままでいいですみたいな話をしてたんですけど。

――うまくやれば階級の幅ができると。青木真也vsクマエフなんて2階級くらい違うんじゃないかって。

タケ 青木選手はナチュラルでアンダーですよね。対戦相手は水抜きしたうえで、当日10キロ差はあったんじゃないかなあ。

――それはキツイですよね……。

タケ ホントにそう思います。最近ワンマッチ契約でONE FRIDAYに出る日本人選手が増えてきてるじゃないですか。パンクラスイズムに稽古に来ている岩崎(大河)選手のミドル級の試合は、相手の事情で中止になっちゃいましたけど。ユニファイドのミドル級は83キロですけど、ONEのミドル級って93キロ。10キロも増えちゃうから、尿比重さえ気をつければナチュラルでいけるんですよね。でも、相手はヘビー級、ライトヘビー級から落としてくるってことですから。岩崎選手は日本人の中ではデカいけど、外国人になるとヤバイですよねぇ。

――しかもONE FRIDAYというワンマッチ契約のために階級や身体を変えるのはリスキーですよね。

タケ あのシステムだとライトから上はなかなか厳しいですよね。ライトだと7キロ差、ウェルターも7キロ差、ミドルになると10キロ差ですからね。

――この動画で解説されてましたけど、このハイドレーションテストは大学レスリングの過酷な減量による死亡事故が多発したことで導入されたと。ただ、大学レスリングの場合は体脂肪率をチェックしたうえで階級分けされますが、ONEの場合は体脂肪率のチェックはなく、選手の希望した階級で戦えるわけですよね。

タケ 体脂肪率のチェックはないですね。ボクはレスリングの選手もサポートしてたんですよ、それこそ中村倫也とか。2016年のリオ五輪までは前日計量だったんですけど、次の東京五輪は当日計量に変わったんですよね。倫也はリオに出られなくて東京を目指そうってときからサポートしたんです。レスラーは基本的に格闘家よりも体脂肪率が低いんですよね。5%切るぐらい。倫也もレスラー時代は常に6~7%ぐらいでした。

――ルールが前日計量から当日計量に変わるって大改革ですよね。

タケ しかも男子レスリングは2階級減ったんで、倫也の階級がなくなって、上げるか・下げるしかない階級難民になっちゃったんですね。で、上げた階級の決勝で乙黒拓斗
選手に負けて、オリンピックに出れなかったんです。

――その乙黒選手はオリンピックで金メダルを獲ったんですね。

タケ ボクはレスリング、柔道、MMA、ボクシング……いろんな体重制競技の選手をサポートしてますけど、競技によって階級や計量方法は違うし、レスリングのようにやり方が変わったりするので、日々考えることが多いんです。ONEでいえば、ハイドレーションテストは抜け道がある。だからこそ平田樹選手はなんで何度もミスるのかな?って不思議なんですよね。

――日本人でいえば、ONEでキャリアを重ねている若松佑弥選手が22年11月の試合で尿比重がアウト。最終的に水を飲んで体重を増やしてクリアしたことでキャッチウェイトになりましたね。「熱くて汗をかいただけでも数値としては水抜きをした」と判断されることがあるとなれば、怠慢ではなく日常生活のちょっとしたことで影響が……。

タケ 女子だと、いわゆるホルモンバランスの時期によって落ちにくいことがあるんですけど、若松選手はいままで一度もミスってないじゃないですか。たとえば体調を崩していたり……あの試合のときコンディションが悪かったですよね。メンタル的にも追い込まれていたかもしれないです。

――抜け道があるってことですけど、通常の水抜きと比較して肉体的なダメージはどうなんですか?

タケ そこは水抜きの量によりますよね。たとえばユニファイドルールと同じくらい水抜きしてるなら、それはダメージは大きいです。ボクは水垣(偉弥)をサポートしていた時代から、もう何百試合もサポートしてるんですけど。常々その選手の契約体重に対して水抜きは何%以内に……って指示を出しているんです。それはUFCが全体に無料レポートで出している数値と同じなんです。水抜きの量が多くなると、やっぱりしんどいですから。試合の7週間前ぐらいから、選手の身体を見ながら「いまの体重だと、もうちょっと脂肪を落としたほうがいい」というサポートをしてるんです。落ちが悪い場合はどうしたらいいか細かいアドバイスもします。食べるのを減らすだけになっちゃうと、結果的に代謝が落ちて逆に体重が落ちなくなってしまう。暖かい時期になると汗を出せば出すほど、先に水抜きしてる状態になっちゃって、本来減らさなきゃいけない体脂肪が落ちなかったり……。

――こういう話を聞くと、トレーナーの存在の重要性がわかります。

タケ そこはハイドレーションテストありきりだろうが、ユニファイドの前日計量だろうが変わりないんです。まだハイドレーションテストのほうがちょっと楽かなって思いますけどね。

――ムチャな水抜きをしないってことですね。

タケ 水抜きしたとしても、そこまではムチャしないですからね。

――秋山さんはけっこうムチャしたけど。

タケ あれはなかなかハードですけど、ギリギリまで水抜きすると、尿や汗も全然でないし、肌がカサカサになりますから。あと1人でやってるとどうしてもミスりやすいというか。

――1人でやるというのは自分だけの判断でやるってことですか?

・最後の300グラムが2時間かけても落ちない
・体重超過が起きたときのシステム
・選手にウソをつかれたらどうしようもない
・落とすためにどう増やすか……続きはこのあと!

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