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SGP200Wの謎

『Wi-Fiはどうなの?』を書く際にWi-Fiについて調べていたら、SGP200Wと比べて、Wi-Fi 5(IEEE802.11ac)の最大通信速度が3倍もありました。
「同じ規格なのに、なんでこんなに違うんだ?」
規格やWi-Fiについてざっくりとしか知らない私の中で「Wi-Fi 5の謎」への挑戦が始まりました。
今回は、そんなお話です。


Wi-Fiの表がしっくり来ない

Wi-Fiを調べていると、IEEE802.11という記載が出てきます。調べるまでは何となく知っている程度でしたが、IEEE802.11が規格でWi-Fiが呼称でした。
そのため、規格の方が基準だろうと思い、とりあえず調べた内容を一覧表にまとめましたが、何となくしっくり来ません。

しっくり来ない一覧表

一番しっくり来ないのは、届いたSGP200Wの最大通信速度が1.3Gbpsと記載されているのに、上記の表では最大6.9Gbpsとあります。
同じWi-Fi 5なのにSGP200Wの速度が表の3分の1なんですよ!

ここから私の中で、長くて辛い「Wi-Fi 5の謎」への挑戦が始まりました。

学会と業界団体

これまでは、あまり規格と呼称について考えたことはなく、日常でも無線LANと言ったり、Wi-Fiと言ったり、区別なく使っていました。
でも、厳密には違ったんですね。

IEEE802.11は学会による規格

IEEE802.11は、無線LANの規格で、公益法人の米国電気電子学会(IEEE:The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)が1997年から策定していました。

IEEEの802.11規格と対応呼称

IEEE802は、LAN(Local Area Network)の規格で1〜24まであり、その中で、有線LANがIEEE802.3、無線LANがIEEE802.11です。「802」というのは、IEEE内に無線LANの組織を設立した1980年2月にあやかったようです。

規格の時期は、私が調べられた範囲で「策定年月」を基準に記載しましたが、承認年月や公表年月を記載している箇所があるかもしれません。誤記があればコメント欄で教えてくれると助かります。

Wi-Fiは業界団体の商標

一方でWi-Fiは、無線LANメーカーの業界団体であるWi-Fi Allianceの商標(トレードマーク:TM)でした。
Wi-Fiには、無線LAN機器がIEEE802.11規格(acとかax等)に適合しているかを審査して適合していたら認証するプログラム「Wi-Fi CERTIFIED」があり、ナンバリングされています。Wi-Fi 6などと呼ばれています。

Wi-Fi Allianceの認証と対応規格

家電量販店などで販売しているWi-Fiルーターの箱に、Wi-Fiのマークが表示されているのを見かけますが、あのマークがWi-Fiの認証を表しています。

2024年1月8日に発表されたWi-Fi 7のトレードマーク
(引用:Wi-Fi Allianceニュースより)

認証の時期は、Wi-Fi Allianceのニュースから「発表年月」を基準に記載しましたが、開始年月を記載している箇所があるかもしれません。誤記があればコメント欄で教えてくれると助かります。

ようやく尻尾を掴んだ

さて、SGP200WとIEEE802.11ac規格の最大速度に話を戻します。IEEE802.11ac規格では6.9Gbpsなのに、なぜ、SGP200Wは1.3Gbpsなのか?

Wi-Fi Allianceの一覧表を作成していて、ようやく理由がわかりました。

Wi-Fi Allianceの一覧表からWi-Fi 5の箇所を再掲

Wi-Fi 5の箇所を見てみると、2013年6月のWi-Fi CERTIFIEDacは、IEEE802.11ac規格の必須要件を対象としていたため、最高速度1.3Gbpsの無線LAN製品を「Wi-Fi 5」として認証していました。
これが私のところに届いたSGP200Wです。

その後、2016年6月に、Wi-Fi CERTIFIEDacは、IEEE802.11ac規格のオプションまで対象範囲を広げ「wave2」とて前のものと区別しました。そのため、一般的に2013年6のWi-Fi CERTIFIEDacが「wave1」となったようです。
ただし、呼称は「Wi-Fi 5 wave2」のような変更をせずに「Wi-Fi 5」のままだったので、私がしっくり来なかったのだと思います。

ちなみに「Wi-Fi 6」では、対象範囲を変更した際に「Wi-Fi 6E」や「Wi-Fi 6 Release2」としているので、もしかしたら私のような人が多くいたため、呼称も変更したのかもしれませんね。

正確性とビジネスチャンス

最後に、周知のことかもしれませんが、IEEE802.11規格が策定される前にWi-Fi認証が行われている理由を考えてみました。

一般的には、規格が策定されてから、対応した製品を作り、認証するという流れだと思いますが、なぜ、逆なのか?

IEEE802.11規格が策定される際、ある程度まとまった段階で、ドラフト版が公表され、策定、承認と進むので、最初のドラフトから承認まで、それなりに時間がかかます。ドラフトのバージョンも上がっていきます。策定から承認までに時間がかかる場合もあるようです。

これでは正確を期する学会とは違って、鎬をけずるビジネスの世界では規格の策定や承認まで待つのでは遅いのです。そこで、メーカー集団であるWi-Fi Allianceは、ビジネスチャンスを逃すまいと、ドラフトの段階でも認証プログラムを開始し、製品を世に送り出すのでしょう。多分。

例えば、IEEE802.11n規格とWi-Fi認証です。同規格は、2006年1月にドラフト1.0、2007年9月に2.0が出ました。Wi-Fi Allianceもドラフトの最終段階に近いと考えたのか、認証プログラムの名称に「Draft2.0」と入れた「Wi-Fi CERTIFIED802.11n Draft2.0」を開始しました。
参考までに以下は、当時の記事(日経クロステック、2007年5月)です。

その後も何回もバージョンアップされ、ドラフト1.0が出てから実に3年もの月日が経った2009年9月にようやく最終版が策定されましたが、認証プログラムは「Wi-Fi CERTIFIED802.11n Draft2.0」のままでした。
そのせいなのか、この時期にWi-Fi認証を受けた無線LAN機器は、同じ認証を得ていても繋がらないといったこともあったようです。

失敗を生かしているか

松下幸之助述、PHP総合研究所編『人生と仕事について知っていてほしいこと』PHP総合研究所(2010年)第III部-29タイトルより

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