見出し画像

「猫のチャックと少女とギズモと私」

 さかのぼること1年前。原宿のルモンドギャラリーの恒例のチャリティのグループ展「Cat Power」に参加することになり、なんの気無し猫を抱いた少女を描いた。いつもは下書きをしっかりと描いてから色を乗せていく描き方をしていたのだけど(Photoshop上のお話でね)割とラフに描いた下書きにそのまま興に乗って色を重ねて、そこから形をつくっていくような描き方をした。もとの方向性が決まってないから、描きながら形ができていくとともにこの娘はこういう性格で、猫はこんな性格とキャラクターが徐々に見えてきた。猫の性格はうちで飼っているオスの白猫のカール。私にすごく懐いているのだけど抱っこされるのも嫌いで、神経質。でも寂しい時は撫でてーと甘えてくる。めんどくさいけど可愛いやつだ。絵にする上で白猫だと締まらなかったんで、顔と足を黒く、シャム猫にしてしまえと塗りつぶして完成。あら可愛い。お気に入りの作品となった。

画像1

 その後、以前からお世話になってきたタンバリンギャラリーが2020年からリニューアルし、ポピュリティギャラリーに生まれ変わことになりせひサイトウさんに個展して欲しいと打診があった。さて展示内容は、コンセプトはどうしたものかと思案していると、これまたお世話になっているアートディレクターTさんと話している時、「サイトウさんの描く、ノスタルジックな雰囲気の可愛い子供っていいよ。新しい一面だよ」と言ってもらえて、あーなるほどと得心。Nulbarich"2ND GALAXY"のジャケットやstudio CLIPのショッパーのお仕事でそんな絵を描いてたから。そこで気に入っていたCat Powerの作品から世界を広げていくことにした。

画像2

 ちょこちょこと描いてはInstagramやTwitterにアップしていくのだけど、どうもキャラが定まらなく女の子の年齢もあやふやで。作品ごとに別人みたいになっちゃってた。漫画家じゃないから同じキャラを書くのは苦手で、イラストレーターだからどちらかというと匿名性のある人物像を描くことが多かったから余計にね。だけど漫画家だって連載するうちに顔もタッチも変わるしまぁいいか、なるべく緩めに描いていたかな。そのうち塗りで描いたり、線画で描いたり網点のトーン貼ったり、仕上げ方をいろいろ試してた。最終的には全部いつものような塗りのタッチで統一するつもりだったけど、あれこのまま、バラバラでもいいかもと思えてきた。これまでの個展では自分自身でコンセプトをきっちり決め過ぎて堅苦しくなって部分もあったし、今回はなるべくゆるーくゆるーくと決めた。当初3月に開催予定だったワケだけど、知っての通りコロナ禍の影響で延期を決定。いつ開催するかわからない状況で余計ゆるーくいこうと決めた。

名称未設定-2-03

 しかしコロナの影響はフリーのイラストレーターにはきついパンチを連続で打ってきた。いくつかのイベントが中止・延期になり、提供していたメインビジュアルやグッズなどのアートワークが発表できず、連載が突然終了になったり、コロナが関係あるのかないのか表紙を担当してた雑誌が廃刊になったり。すでに納品していたイラストはギャランティをもらえたが、お蔵入りになっちゃうのはやっぱりショック(来年公開されるかもですが)。広告代理店も混乱していて大きな仕事の発注があったと思ったら、1時間も経たないうちにバラしになりましたと連絡があったり。もともと不安症な私なので振り回されるほどにメンタルもズタボロ。
  でもそんなとき髭(HiGE)のボーカル須藤さんから久々に突然の連絡。髭もライブ活動が自粛になり、何かできることはないかと企画したのがライブブートレグ音源のYouTube公開。1時間ぐらいに編集して見せたいけど、YouTubeなら静止画じゃもたないから、簡単なアニメーション何か作れませんかと相談があった。須藤さんのイメージではYouTubeでちょっと前から流行ってたLo-fi HIP HOPのアニメーション。静止画の一部だったり簡単な動きが延々とループするような微動画といわれたりするやつかな。アーティストが新曲出した時にビジュアライザーなんて呼ばれ方をしてるMV未満の動画とかもあるよね。正直、アニメーション作品なんてまともに作ったことなかった訳だけど、ちょこっと動画編集ソフトをいじったこともあるし、なんとかなるんじゃない?と依頼を快諾してしまう。昔からちょっと仕上げられるか難しいかもしれないという依頼は必ず引き受けるようにしてたからね。難しい依頼こと能力を引き上げるチャンスだと信じて。実際に無理そうなときほど、頑張ればなんとかなるもんなんだよね。
 そこからYouTubeで配信する動画を制作するためにYoutubeで動画作成のチュートリアル動画を見まくっての勉強が開始。これが実に新しい刺激で。とにかく勉強して覚えていくこと、絵を動かしていくことが楽しくてしょうがなかった。久々に夢中になった気がする。没入できるって幸せだなとかんじた。中学生の頃初めてエレキギターを手にしたときのような。高校生の時4トラックMTRを手に入れた時のような。作るって楽しいんだってことを思い出せた。
髭は昔から大好きなバンドだったからその大好きな曲のライブ音源にアニメーションをつけるのは楽しかったよ。ずっとライブ会場にいながら作業するようで。そんなこんなで動画「Live at house」も無事に仕上がり、YouTubeプレミア公開時にはチャットでファンからアニメーションにもコメントもどんどん上がって来て、まるでメンバーとステージに立って一緒に演奏しているような感覚になった。作業中に何度も聴いたはずなのに、ラストナンバー「闇をひとつまみ 」では目頭が熱くなるくらい感動した。ちょっと話外れるけど舞台演出などバックステージのスタッフさんたちってこんな気持ちなのかな。こんな仕事してると招待でライブを観られる機会があるんだけど、ステージが終わった後にスタッフの方達が手際よく舞台をかたしている姿を見ると感動するんだよね。アーティストの素敵なパフォーマンスは裏でこんなたくさんの人たちに支えられて作り上げられてた世界なんだって。早く安心してステージを生で観られる日が来るといいね。

 さてそんな「Live at house」のおかげですっかり動画制作にはまってしまい、シャム猫と女の子のイラストを描きつつ、それを素材に動画を作ってその後も勉強。タイトルも「Chack and the Girlー猫のチャックと女の子ー」に決定。チャックの由来は、シャム猫といえばと連想していたらシャムシェイドが出て来て。分かる人は分かるでしょ。モデルとなったうちの猫カールともイニシャルCで一緒だしこれでいいねと。女の子は見る人に自分を重ねるように観て欲しいから匿名でいいやと。タイトルロゴとDMデザインも学生時代の同級生で活躍中のデザイナー高熊俊介氏に依頼。小野瀬雅生ショウのアルバム三部作のジャケットをはじめもう何度となく仕事しているので、ツーカーな感じにイメージを汲み取ってくれた。ほぼほぼ一発でバッチリとデザインをあげてくれた。プロってすごいなぁ。そのロゴを入れ込んで試しにロードムービー風のショート動画を作成してみたり。タランティーノっぽい。Instagramにあげても良い感じの反応。

03のコピー


 そうしたらその動画をまた髭の須藤さんがチェックしてくれていて、「こんなテイストで新曲のMVも作れそうじゃない?「Live at house」からの流れでよくないですか?」と連絡。まじですか。嬉しい反面、果たして今の能力で対応できるのかと思いはしけど、そんな時こそ引き受けちゃう精神。だってできないなんて言いたくないじゃない。「ィやります!」です。時は6月後半、個展も8月に開催が決まり、髭の新曲「GIZMO」のMV公開も8月決定済み。てんやわんや状態。でもやっぱり動画制作は新しい刺激で楽しい。今まで使ってなかった脳の回路が使われている感覚。それの合間に個展の作品も仕上げていく。互いの作品が呼応する形で制作することがどちらも楽しくなっていく。ああなんて化学変化(ロック用語)。
 
 「GIZMO」のMVは須藤さんからのリクエストを入れ込みながら割と自由にこちらのイメージのアニメーションをボンボンと入れていく。漠然としたストーリーは立てつつも、思いつくままにいろんなキャラクターをボンボンと放り込み、無茶苦茶になりそうなギリギリのラインで良い形に仕上げることができた。そうして公開日YouTubeにアップされて、やっぱり髭ファンの皆さんが温かく受け入れてくれてる。よくできたと思いつつも不安まじりの初MV監督作品だからね。嬉しいかぎりですよ。ふっふっふ〜♩って歌いたくなるよ


 一旦手元を離れ改めて客観的にMVを観るとこれは私の箱庭療法的行為だったのでは、はたと気づく。箱の中に患者が自由におもちゃを入れそしてできたものをカウンセリングするやつね。ここでいうおもちゃはMVに登場して来るたくさんのモチーフのこと。この作品は髭というバンドの大事な作品であるのだけれど、私が表現していたは私の心だったし、自分を縛り付けていたものからの解放だったんだ。それはこの作品を格好つけて作ろうというよりも、楽しんで作ったし、その楽しさを髭のメンバーとファンのみなさんと共有したい思いで制作した結果だったと思う。須藤さんとお仕事したのはソロ活動の「須藤寿GATALI ACOUSTIC SET」の1stアルバム「The Great Escape」のジャケット以来。あの時もちょうど新しい作風に挑戦していた時だから、須藤さんはいつも私が節目になるような時に依頼をくれる方なんだよね。素敵な機会を与えてくれて感謝してます。

画像14
画像7

 さてMVもできて一安心。個展の作品も同様に今回は格好をつけずに描きたい。いつもなら体裁にこだわりよそ行き仕様にしてしまいがちだったけど、思いつくままに筆が向くままに描いた。そうこうしているうちにどんどん女の子のキャラクターもより具体的に見えてきた。

名称未設定-2_アートボード 1

 不器用だけど活発で、自分が肉体的に女性であることは自覚しはいるけど、本当の性自認もあいまい。女の子と遊ぶよりも、男の子と遊ぶのが好きで。でも男の子の仲間には入れてもらえなくて。女の子との遊びもピンとこなくて。結局一人で遊んでることが多くて。懐いてるんだか懐いてないんだかよくわからない、でも愛らしい猫もいるし、そんなに辛くもなくて。でもきっとそのうち、どこかで自分と向き合う壁にもぶつかる。服装はなんとなく最近の90sリバイバルな雰囲気も加えて。昔自分が履いてたスニーカー履かせてみたり。そんな女の子の日常が段々出来上がってきた。タッチを含めて女の子の顔つきや髪の長さがバラバラなのは、ある数年の期間から拾い出した一コマ一コマだからというコンセプトにした。そう、この物語は猫のチャックと少女が過ごした日々の回想ということ。実は女の子は今はもうすでに大人になっている設定。

名称未設定-2-02

__________そして作品が全部そろった時、さらに気づいた。
ああ、これは自分なのだと。
大人になった自分があの頃の自分を描いていたんだと。チャックも女の子もまとめて自分。周りと馴染めなかったり自分だけの世界に入り込んだり。一人遊びが大好きな。私は猫でも女の子でもないけど。


 この展示は自分の過去を丸裸にして一旦かわいいオブラートに包んで、みんなに観てもらうことで社会にもう一度溶け込むことができる機会なんだ。大丈夫、あの頃の自分。もうひねくれてないで素直になって観てもらおう。私もちゃんとなんだかんだで大人になってるし、少女もきっとどこか大人になってる。

画像12

 少し長くなったけど、これはいつのまに自分を許すことができた展示。非常にパーソナルな展示。もしこの展示を観た人がいいねと言ってくれたら、きっとあの頃の私も喜んでくれるはず。
ご都合よろしければぜひ個展にご来場くださいませ。

画像13

©️Yusuke Saitoh
__________________________________________________________________
関連グッズのご案内

画像8

"Chack and the Girl"限定ロルバーンはDELFONICS WEB SHOP、デルフォニックス渋谷、デルフォニックス大阪にて販売中
DELFONICS WEBSHOP

スクリーンショット 2020-08-20 20.12.00

"Chack and the Girl" LINEスタンプも絶賛発売中

_______________________________________________________________________________
サイトウユウスケ個展
「Chack and the Girlー猫のチャックと少女ー」
​2020年8月18日(火)〜9月6日(日)
11:00〜19:00(最終日17:00まで)
月曜休廊

Popularity gallery & studio
東京都渋谷区神宮前2-3-24
https://www.popularity.co.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?