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25歳ゲイ、令和を語る。

時に、初春しよしゆん令月れいげつにして、気く風やはらぐ。梅は鏡前きやうぜんふんひらき、らん珮後ばいご[原文ママ]のかうかをらす。
折しも、初春の正月の佳い月で、気は良く風は穏やかである。梅は鏡の前の白粉のように白く咲き、蘭は匂い袋のように香っている。

小島憲之・木下正俊・東野治之(校注・訳)(1995)『日本古典文学全集[7]萬葉集(2)』, 小学館, p.40.

令和と万葉集

今回は「令和」についての話です。冒頭に引いたのは新元号(といっても、改元してから5年も経つんですね)「令和」の典拠です。万葉集から採られたんですね。

この序文が記されるきっかけとなった歌会は「天平二年正月十三日」に行われたとあります。調べてみると西暦にして730年2月7日のようです。ちょうど今頃の季節ですね。2月上旬の穏やかな風が吹く日に、まっしろな梅がつぼみをひらき、草花からは良い香りがただよう。そんな春風駘蕩とした情景を描いています。

ん? 2月上旬に梅??

京都観光オフィシャルサイト「京都観光Navi」の梅の開花状況を見ると、場所によってはもう梅が咲き始めているようです(執筆時点)。一方、筆者さいとうが住む北海道では、梅が花開く気配など微塵もなく、除雪で撥ねられた雪が路肩にうずたかくマシマシで積み上がっています。北海道に住んでいると、つくづく日本文学の季節感とのズレを感じます。


新元号「令和」発表の当時、大学生だった自分は「令和」の元号のことを(素敵だな)と感じていました。だって、響きがカッコよくないですか? 「レイワ」ですよ。なんだか外国の言葉みたいですよね。

それに、出典の一節に登場する風物もオシャレです。月、梅、春風、……。新しい風が、新しい時代を運んできてくれたらいいな。大学を出て社会人になろうとする頃、まだ20代初心者だった当時のさいとうくんはそんなことを考えていました。

令和と新しい風

話はかなり逸れますが、私はコマーシャル (CM) が好きです。特に気分を明るくするような、前向きなメッセージを贈る CM が大好きです。ここでは一つ取り上げてお話しします。

宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ

サントリー BOSS の CM です。Tommy Lee Jones 演じる「宇宙人ジョーンズ」の CM と言えば、おわかりいただけるでしょうか。宇宙人であるジョーンズが、地球人に扮して地球の調査を行うというストーリーです。なぜか舞台はいつも日本なんですよね。

おそらくここ数年の CM だと思いますが、個性派揃いの新入社員が、職場で小さな嵐を巻き起こします。堺雅人演じる上司(先輩?)が度肝を抜かれている様子が描かれます。描かれ方として、新入社員たちには「新しい風」を引き入れる役割が当てられており、概ね肯定的に捉えられているようですね。関係ないけど成田凌かわいいなー。

翻って、我らが令和の時代に「新しい風」は吹きわたっているのでしょうか?

令和と世間

先般、弊社のボスが「お茶汲みは女性のほうがいいんじゃないか(一部改変)」とのたまい、同僚から大顰蹙を買っていました。時は令和5年、男女共同参画社会基本法施行後、はや四半世紀が経とうとした頃であった――。

かと思えば「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と首相秘書官のオフレコ発言も報道で大きく取り上げられました。

うーん、令和とはいえ実態はこんなものか。そう、2023年は昭和98年なのです。昭和100年問題は何もコンピュータだけの騒ぎではないのです。

昭和100年問題(しょうわひゃくねんもんだい)とは、日本固有の元号に基づくコンピュータシステムの年問題で、システム上昭和が現在まで継続しているものとして扱った際、昭和100年にあたる2025年に昭和100年を昭和0年と誤って認識することによる問題である。西暦2025年に発生することが懸念されているため「2025年問題」とも呼称される。

Wikipedia,「昭和100年問題」

令和の風というよりは、むしろ昭和の風が吹きすさぶ今日このごろですが、それでも少しずつ時代は変わりつつあるのではないでしょうか。

(注)筆者は昭和アンチではありません。今回は一つの側面を切り出しただけです。たたかないで……!

令和の風

令和に入り、私は3人の知人にカミングアウトしました。その反応としては、むしろこちらが拍子抜けするほど、すんなりと受け入れてくれました。

きっと周囲からのカミングアウトを受け入れる素地が、令和の時代までにそれぞれの中でつくられてきたんでしょう。そもそも自分がゲイであることを以前ほど躊躇うことなく伝えられるようになったのも、時代の素地ができているという肌感覚があるためなのでしょう。単純接触効果よろしく、テレビドラマで性的マイノリティの役が登場したり、報道などで特集されたりすることが増えたのも影響しているのでしょうか。

多くの人の努力の集積によって、暖かな「令和の風」が吹き始めているのを感じます。令和の風はラグい。それでも、背中に暖かな風を受けているのを感じます。

みなさま、まだまだ寒い日が続きそうですが、じき春風も吹くことでしょう。どうかご自愛ください。


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