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無遠慮なお誕生日会見──「プライベート」発言の背景(2008年03月11日)


▽終戦直後の天皇会見

 前号に続いて、今号も引き続き、宮内庁長官の「苦言」に始まる、宮中を揺るがしている問題について書きます。

 辛酸なめ子さんというコラムニストがいます。旧皇族・竹田恒泰氏との共著『皇室へのソボクなギモン』(2007年)が話題になりましたが、その辛酸さんが、宮内庁長官の「苦言」発言のあと、
「悲しいことに、ここ数年の皇族の誕生日というのは、気の重いことを言い合う日になってしまった」(「週刊文春」2月28日号)
とするどい指摘をしています。

 まったくその通りですが、なぜそうなったのでしょうか?

 宮内記者会のOBによると、皇族方の記者会見が行われるようになったのは終戦直後のことでした。天皇が「現人神(あらひとがみ)」ともいわれていた時代に、アメリカのメディアが天皇の単独会見を行ったのに対抗して始まったのだそうです。

 皇居内を散策する陛下を、日本人記者たちが屋外でコチコチになりながら待ちかまえていると、陛下から一方的に声をかけられた、というのが最初の「会見」だったといいます。

 その後の定例会見も、質問する記者たちは良識もあり、遠慮がちで、ときには爆弾発言を引き出してやろうというような剛腕記者がいたとしても、宮内庁との間で質問のすり合わせが事前に行われるため、不規則な質問は避けられたのでした。

 ところが最近では、時代の変化というのか、事前調整がうまくいっていないのでしょうか、記者の質問が年々、無遠慮になっていくようです。


▽平成17年に一変した会見スタイル

 たとえば、皇太子殿下のお誕生日会見の内容を例に、具体的にふり返ってみましょう。

 平成13年の会見は、第1問は「この一年、また20世紀をふり返り、印象に残ったできごとをお聞かせください」でした。これに対して、殿下は2つの世界大戦の悲惨さ、冷戦の終結、植民地の独立などについて、時間をかけてふり返っています。

 第2問は「今後の皇室像」で、そのあと第3問「ご結婚生活」、第4問「両陛下のご公務」と続き、私的な話題には触れられたものの、会見の主要テーマとして位置づけられていたわけでは必ずしもありません。

 そうした会見のスタイルは平成16年まで続きましたが、17年に破られます。この年の第1問は「妃殿下の静養」についてで,第2問は前年のいわゆる「人格否定発言」に関連する質問、第3問は皇位継承、お世継ぎ問題と厳しい質問が続き、恒例の「一年間をふり返って」は最後の第5問に追いやられています。

 翌18年の会見は、第1問は前年の回顧に戻りますが、両陛下のサイパン慰霊訪問、清子内親王のご結婚、秋篠宮妃殿下の御懐妊、と質問の内容が最初から絞り込まれ、殿下のご回答も公的な回顧が二次的になっています。第2問は愛子さまのご成長、第3問は妃殿下のご様子と続き、まるで女性週刊誌の見出しを見るような会見に様変わりしています。


▽メディアのプライバシー暴き

 このようなあたかもプライバシーを暴き立てるかのような会見スタイルは、昨年も、そして今年も踏襲されています。それに対して、殿下はつとめて公的なレベルでのご回答をしようと踏みとどまっているかに見えます。

 たとえば昨年は、第1問は一年間の回顧ですが、悠仁親王のご誕生、皇位継承などに回答が誘導され、記者たちはまるで殿下の公的役割には関心がないかのようです。これに対して殿下は、「国の内外でさまざまな出来事がありました」と自然災害や教育問題など社会的な話題を語られています。

 今年も同様です。第1問は殿下の手術、両陛下のご健康問題で、それに対して、殿下は内外情勢を語られましたが、そのことを記事で取り上げたメディアはどれほどあるのでしょう。メディアが会見で聞き出そうとしているのは、オクと呼ばれる空間の私的な事柄であることは明らかです。

 今年の会見で、長官の「苦言」に関する関連質問に、殿下は「家族のプライベートな事柄ですので」と語られ、メディアはこれを「肩すかし」と伝えました。「天皇に私なし」が皇室の伝統ですが、メディアが挑発し、「プライベート」発言を引き出している、と見るのは私だけでしょうか。

 その結果、辛酸なめ子さんが指摘するように、「誕生日なのに楽しい話題ではなく、お互いに腹の探り合いのようなご発言ばかり」になっているのでしょう。

 ただ、私はメディアを責めるつもりはありません。あまりに露骨なのは無礼というべきですが、ジャーナリズムがスクープを狙うのは当然です。問われるべきは、事前の調整があるはずなのに、十分に機能していないことであり、それは宮内官僚の責任であり、政府の責任でしょう。皇室の尊厳が守られないほど、望ましくない会見が続くのなら、やめるべきです。

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