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皇位継承有識者会議の最重要テーマは「天皇とは何か」だが…(令和3年4月4日、日曜日)


▽1 「祭り主」天皇を説明できる識者はいるのか

先月23日、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(皇位継承有識者会議)の第1回会合が開かれた。そのときの配布資料に今後、行われる有識者ヒアリングでの聴取項目(案)が列記されている。〈https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai1/siryou8.pdf〉

すなわち、以下の10項目である。

問1 天皇の役割や活動についてどのように考えるか。
問2 皇族の役割や活動についてどのように考えるか。
問3 皇族数の減少についてどのように考えるか。
問4 皇統に属する男系の男子である皇族のみが皇位継承資格を有し、女性皇族は婚姻に伴い皇族の身分を離れることとしている現行制度の意義をどのように考えるか。
問5 内親王・女王に皇位継承資格を認めることについてはどのように考えるか。その場合、皇位継承順位についてはどのように考えるか。
問6 皇位継承資格を女系に拡大することについてはどのように考えるか。その場合、皇位継承順位についてはどのように考えるか。
問7 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについてはどのように考えるか。その場合、配偶者や生まれてくる子を皇族とすることについてはどのように考えるか。
問8 婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについてはどのように考えるか。
問9 皇統に属する男系の男子を下記(1)又は(2)により皇族とすることについてはどのように考えるか。その場合、皇位継承順位についてはどのように考えるか。
(1)現行の皇室典範により皇族には認められていない養子縁組を可能とすること。
(2)皇統に属する男系の男子を現在の皇族と別に新たに皇族とすること。
問10 安定的な皇位継承を確保するための方策や、皇族数の減少に係る対応方策として、そのほかにどのようなものが考えられるか。

今回の有識者会議は、「附帯決議」に示された課題、すなわち「安定的な皇位継承を確保する」こと、とりわけ「女性宮家」創設などがテーマとなる。上記質問項目のうち問4以降はずばりこのテーマと関わっている。

しかし、皇位継承をテーマとしたとき、もっとも重要なことは、天皇のお務めとは何か、皇位とは何かである。126代にわたって男系で維持されてきた天皇とは、国と民のために公正かつ無私なる祭祀をなさる「祭り主」だが、平成8年以降、政府・宮内庁が非公式検討を始め、推し進めてきたのはこれとは異なる、日本国憲法が規定する国事行為および御公務をなさる特別公務員としての象徴天皇である。

まさに質問項目の問1と2は、この天皇・皇族の役割について問いかけているのだが、「祭り主」天皇の歴史について答え、その伝統が男系主義とどう関わるのか、その意義と価値を現代人に対して、分かりやすく説明できる識者は現れるだろうか。

天皇が祭祀をなさっていることなど国民の何割が知っているだろう。そんな状況下で、「祭り主」天皇論を語れる識者が現れないとしたら、皇位継承の男系主義は歴史的変革を迫られざるを得ないだろう。私たちは歴史的な瀬戸際に立たされている。


▽2 厄介者扱いされる天皇の祭祀

今回の有識者会議は、皇室継承問題に関連する有識者会議・ヒアリングとしては、平成16年の「皇室典範に関する有識者会議」、同24年の「皇室制度に関する有識者ヒアリング」、同28年の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」に続くものである。

これまでの有識者会議・ヒアリングでは、活動し、行動する近代的天皇像が暗黙の前提となっている。国事行為や御公務をなさる天皇の安定的確保がすなわち国家の安定に直結する、その観点から官僚たちはここ二十数年、女性天皇・女系継承容認=「女性宮家」創設を推し進めてきたのである。

逆に皇室の「祭り主」天皇観、男系主義は検討されてこなかった。それどころか、意見を表明する皇族方を厳しく口封じする宮内庁長官さえいた。彼らには皇室固有の悠久なる歴史と伝統ではなくて、百年にも満たない憲法上の象徴天皇制の維持がすべてなのである。そのことは外部の識者たちに向けられた質問項目の誘導ぶりを見れば、明らかである。

最初の皇室典範有識者会議では、「質問は内容の確認程度のもの」(第5回議事要旨)とされ、具体的な質問項目は立てられなかったが〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/dai5/5gijiyousi.html〉、次の皇室制度有識者会議では、以下の6項目がヒアリング事項とされた。〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/koushitsu/pdf/120220koushitsu.pdf〉

1 象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について
○現在の皇室の御活動をどのように受け止めているか。
○象徴天皇制度の下で,皇室の御活動の意義をどのように考えるか。
2 今後,皇室の御活動の維持が困難となることについて
○現在の皇室の構成に鑑みると,今後,皇室典範第12条の規定(皇族女子は,天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは,皇族の身分を離れる)などにより皇族数が減少し,現在のような皇室の御活動の維持が困難になることについて,どのように考えるか。(皇室典範改正の必要性・緊急性が高まっていると考えるが,このことについてどう思うか。)
3 皇室の御活動維持の方策について
○皇室の御活動維持のため,「女性皇族(内親王・女王)に婚姻後も皇族の身分を保持いただく」という方策について,どう考えるか。
○皇室の御活動維持のため,他に採りうる方策として,どのようなことが考えられるか。また,そうした方策についてどのような見解を持っているか。
4 女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとする場合の制度のあり方につ いて
○改正後の皇室の規模はどのくらいがふさわしいか。
○配偶者及び子の身分やその御活動についてどのようなあり方が望ましいのか。皇族とすべきか否か。
5 皇室典範改正に関する議論の進め方について
○皇室典範について,今回,今後の皇室の御活動維持の観点に絞り緊急課題として議論することについてどう考えるか。
6 その他
○女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持いただくとした場合,婚姻等が円滑になされるよう,どのような配慮が必要か。
○その他,留意すべきことは何か。

象徴天皇制と行動主義的天皇は同義なのである。先帝も今上も歴代天皇の歩みと憲法の理念、すなわち「祭り主」天皇と象徴天皇の両方を追求してこられたが、政府・宮内庁はそうではない。政府が目的とする「安定的な皇位継承」とは、すなわち行動主義的天皇の継承なのである。

実際、天皇の祭祀=私的活動と断じる一方で、過去の歴史にない「女性宮家」創設論を言い出した火付け役は、側近中の側近であった。今回の御代替わりでは、政府は祭祀にはノータッチで、もっとも重要なはずの賢所の儀の細目を宮内庁が決めたのは最後の最後だった。祭祀は厄介者扱いされているのだ。


▽3 議論の行方は目に見えている!?

公務軽減等有識者会議も同様だった。聴取項目とされた以下の8項目を概観すれば、126代にわたって続いてきた「祭り主」天皇の歴史とその意義など、政府・宮内庁の眼中にまったくないことが分かるだろう。〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/koumu_keigen/dai3/shiryo1.pdf〉

1 日本国憲法における天皇の役割をどう考えるか。
2 1を踏まえ、天皇の国事行為や公的行為などの御公務はどうあるべきと考えるか。
3 天皇が御高齢となられた場合において、御負担を軽くする方法として何が考えられるか。
4 天皇が御高齢となられた場合において、御負担を軽くする方法として、憲法第5条に基づき、摂政を設置することについてどう考えるか。
5 天皇が御高齢となられた場合において、御負担を軽くする方法として、憲法第4条第2項に基づき、国事行為を委任することについてどう考えるか。
6 天皇が御高齢となられた場合において、天皇が退位することについてどう考えるか。
7 天皇が退位できるようにする場合、今後のどの天皇にも適用できる制度とすべきか。
8 天皇が退位した場合において、その御身位や御活動はどうあるべきと考えるか。

先帝の「譲位」の御表明のあと、この有識者会議が開かれ、やがて特例法が成立し、先帝は国民の意思に基づいて、「譲位」ではなく「退位」されたのである。そして今回の有識者会議である。議論の出発点は日本国憲法の国民主権主義以外にはない。政教分離の厳格主義に立てば、天皇の祭祀は取り上げようがない。

古来、固持されてきた男系継承主義の根拠は「祭り主」のほかには見出し得ない。したがって、「祭り主」天皇論を抜きにして、歴史と伝統に基づく皇位継承論を語ることは不可能であるが、政府が進める皇位継承論議は祭祀論を避けている。だとすれば、議論の行方は目に見えているのではないか。

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