#41 サロン会員の方からのご質問「バロックらしく」「古典らしく」って何?〜実演をまじえて〜
こんにちは、さいりえです。
今日のnoteは、以前サロン会員の方からリクエストでいただいた内容について、演奏をまじえてお話します。。
バロック、古典(ハイドン、モーツァルト、ベートーベン)の曲は、コンクールでもよい点数がつきづらいと言われますが、どのような点が1番の減点となるのか、それを解決するためにどのような取り組みを心がけるべきか教えてください。
まず少し気になるのは、「バロックや古典派の曲は良い点数がつきづらいのか?」という点です。
これについては、「そうとも言いきれない」です。バッハでもモーツァルトでも、素晴らしい演奏は人の心を動かし高い評価を得ることもありますし、リストやラフマニノフでも良くない音、演奏では評価されません。
ただ、
「バロックや古典でこういうふうに弾いちゃうと良くない=その曲らしくない、その曲の魅力や本来の姿が出ない」
というポイントはたしかにあります。
そこで、このnoteでは
・クラシカルな演奏に必要とされる要素とは?(動画まとめ付き)
・よくある失敗例と改善ポイント
・良い例と悪い例を動画で紹介(バッハ/ベートーヴェン各動画)
という流れで、具体的にお話していきたいと思います。
*動画は、3本で合計18分です(vimeo の動画リンクを共有しています)。
・ふだんから、「コンクールで高得点を取るための方法」などについては書きません。「パパっと書いて実現できるようなそんなモノはない」と思っています。この note はそういう類のものではありません。ひとつひとつの要素を地道に積み重ねていく時間が必要です
・バロックといってもいろいろありますが、ご質問の意図をくみ、この note ではおもにJ.S.バッハの作品を想定して書いています。
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〈1〉バロック、古典派の作品で必要とされる要素は?
これは実はバロック、古典派の作品に限らず「クラシック音楽の基礎」として大事なことです。
〈テンポ、拍の安定〉
音楽がグラグラせず、安定した流れの上にあることは大事です。
拍感に似た要素で、「パルス」ということばがあります。心臓の脈のように、一定にちゃんとあるもの。楽譜がどんな形になっていても。
でも、機械ほど一定ではないです。生きた脈拍、ですね。
〈打鍵の安定〉
それから、音が安定していることは必須です。
たとえば、どんなに素晴らしい物語を書いている本でも、字がきたなかったり、フォントがばらばらだったり、文字がかすれたりしていたら…
読む気になれませんし、本来の内容が頭に入ってこないですよね。
音楽も同じです。
「基本的な音」を磨くことで、内容が伝わりやすくなります。
もし、音楽的な不安感や焦りなどを表現したいときでも、一定の安定感は必要なのです。
〈曲の構築力〉
曲の分析、構築も必須ですね。
だれかに話しかけるときも、
・まず自分自身が、内容・意味をわかって話す
・そして、相手に意味をわかってもらえるように話す
ということが重要です。
それに、バロック時代の曲や古典派の曲は、楽器の制約もあるため、ロマン派以降の曲ほど、楽譜にかかれている音列や表現の〈表面的な幅〉は大きくありません(※これは表面的な問題であって、真なる表現の幅のことではありません)。
そのため、よく自分でかみくだいて、それぞれの音や和音、フレーズをどのように位置づけ、どう組み立てるかということを人一倍理解して弾かないと、「平べったい演奏」「つまらない演奏」になってしまいやすいのです。
(ロマン派以降の音楽には、また別の難しさがあります)
以上、クラシック音楽の基礎となる要素のいくつかの大事な点をご説明しました。
お気づきと思いますが、これはどの時代の作品を弾くにも大事なことですね!
ここからは、「よくある失敗例」「様式に合っていない演奏」についてくわしく書いていきます。
〈1〉のおさらい解説&実演動画(約6分)
ひとまず、ここまでのポイントを動画にしました。
〈2〉バロック・古典音楽の演奏でよくある失敗例と改善ポイント
では、以上のことをふまえた上で、よくある失敗例や、ご質問にあったような「評価が下がるような(=音楽的によろしくないと専門家の耳が判断する)」演奏について書いていきます。
〈本来の美しさから、音がはみ出す〉
音階や和音、フレーズ、拍感、
など、本来の美しいスタイルから音がはみ出してしまう演奏です。
・打鍵が雑だったり
・打鍵、拍子感が整っていなかったり
・和声の本来の役割に沿っていなかったり
など、いろいろな原因で、はみ出してしまいます。
改善の道として、
・音楽のさまざまな基本を身につける
・その曲が何を必要としているかを、楽譜から読み解く
などがあります。
〈作為的になる=「音楽」より「自分」が出ている〉
強弱やテンポの変化などが、不自然になってしまうと、音楽の美しい形が崩れます。
これは、
・どう弾けばよいかわからない
・技術の面で不足がある
・音楽が求めていることよりも「自分がやりたいこと」を優先してしまっている
などが原因です。
対策としては、
・クラシック音楽の基礎をしっかり学ぶ
・そのままで美しいということを実感する
・技術的な問題を解決する
などがあります。
(ただ、自分の思いや意志を殺しすぎる必要はないです!)
〈何ごとも、おなじです〉
ここまでクラシック音楽の基礎について書いてきましたが、これは音楽のジャンルだけでなく、何事にも大事なことです。
・建物なら
基礎を築いて、上に建てる。建築物としての美しさ。
まっすぐの美しさ、質実剛健な時代と、華やかに飾るスタイル、奇抜なスタイルなど、時代や国によるスタイルの違い(それが混ざるとおかしい)。
・お料理なら
純和食なら?イタリアンなら?フレンチなら?自由創作なら?
何を作るかで、大事にすべきことや作り方も変わりますよね。
でも、素材の質や、行程の丁寧さなどが美味しさに表れるのは同じです。
ケーキづくりでも、土台となるスポンジが美味しくできていることが大事ですよね。それなしに、生クリームをたくさん絞っても…ですよね。
ただ、「これは正しい」「これは間違い」とバッサリ切っていくのもどうかな、とわたしは思います。
これについては、このnoteの最後にコラムとして書いていますので、ぜひ最後までお読みください。
〈3〉動画で実演!良い例と悪い例〜バッハとベートーヴェンそれぞれの例〜
ここまでで、いろんな例を出してきましたが、ここからはバッハ、ベートーヴェンを例に出し、それぞれ「よろしくない演奏」「様式に合った演奏」を紹介していきます。
●バッハ/インベンション第9番・第8番
よく、「ロマン的すぎる」と言われたりしませんか?
情感をこめたり、曲への思い入れを高めるのは、バッハでももちろん大切ですし、ぜひその気持ちは持ち続けてください。
ただ、悪い例としてこのようなものがあります。
・クレッシェンドの仕方(唐突、品がない、語尾が強すぎる)
・音が波打つ
・響きにおぼれすぎ
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