ドスケベマン(6)

前回のあらすじ

西関東地区。
アーマード倫理観の支配するこの土地では非道な方法で美しい少女と食物が徴収される不毛の土地であった。
その土地に住まうユウキ。その運命はいったいどうなるのか。

―――

ユウキの父親は美しい男だった。
村の老人曰く、幼いころは少女かと見まごうほどの美貌で、危うくドスケベアーミーに連れて行かれかけたらしい。
そして、カオル――ユウキの姉も、父親に似た美貌を持って生まれた。
もしこれが、男性として生まれていたらきっとその明るく賢い性格で村を背負う人材となっていただろう。
彼女はドスケベアーミーに連れていかれて、以降全く行方は知れない。
ドスケベアーミーに連れていかれた少女たちをユウキは幼いころから何人か見たが、その少女たちが村に戻ることはなかった。

いつからだろうか、ユウキは朝起きると下着を確認するのが癖になっていた。
男装し、他の村の子供よりもケンカの腕っぷしも強かったが、姉同様の美貌を持って生まれたユウキは恐らく、初潮を迎えるとドスケベアーミーに連れていかれるであろう。
それを否定したかった。
自分は女性ではないと思いたかった。
目覚めて厠で確認した自分の下着に血の汚れが付いていないとそこでやっと大きく呼吸ができる気がした。

朝食に少しの麦飯に塩をかけたものを2口ほどで食べ終えると、そのまま朝の農作業となる。
昼には草の根の入ったスープをカップ1杯のみ、さらにそこから日が傾くまで農作業は続く。
日が傾いてから沈むまでの短い時間、村の子供たちと遊び、夜に卵と青菜の入った粥を食べて眠る。
これがユウキの村の、いやアーマード倫理観の定める西関東地区の『健全な民衆の生活』だった。
ありとあらゆる娯楽やドスケベは排除され、健全な倫理観の名のもとに毎日勤労と粗食を強いられ、夜は外に出ることを禁じられる。
子供たちは恋など知らないまま定められた相手と子供を作り、定められたままに年老いて死んでいく。
ユウキはずっとそれに違和感を抱いていた。
働かなければいけないのはわかる。でも時には腹の底から笑ったり、ドキドキするような冒険があったり、仕事でも自分のやりたいことを心から楽しみたかった。
ユウキは夜母親が寝静まってからひっそりと身を起こして機械いじりをするのが好きだった。
裏の山から掘り出してきた前時代の遺物。
ユウキはそれが何に使われるものなのか全く分からなかったが、四角いガラスのビン底のような大きな箱、四角い箱に入っている黒いテープのようなもの。
それらを丁寧に解体して、砂埃を払い落として元あっただろう形に戻していく。
機械が元の形に戻っていくのがたまらなく面白く感じた。
そのまま、瞼が上がらなくなるまで機械いじりをしてから床に就くのが、この村でのユウキだけの生活だった。

また日が昇り朝が始まる。
いつものようにユウキは厠で下着を確認し、そのままいつも通りの生活が送れるはずだった。
そう、その日までは。
ユウキは厠で呆然と立ち尽くしていた。
下着の血の汚れが、今の生活が終わることを示していた。

続く

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