ドスケベマン

近未来。
黄金に輝くかと思われた文明の栄華は、その実を付けなかった。
発展した社会の中で、思想統制を行うものがあった。
その多くは統制の最中に、または統制をしようとする前に消えて行ったが、1人だけ残ったものがいた。

ドスケベキング。

そう名乗る人物はこの世のドスケベなものをすべて管理すると言い放った。
エロ漫画、エロゲー、付随する様々なドスケベなもの。
そのすべてをドスケベキングは奪い取り、ドスケベシティと呼ばれる自分の統治する都市へと集めた。
人々の持つドスケベなものはドスケベアーミーと呼ばれるドスケベキングの私設部隊が奪い取り、そしてそれはやがて国家権力にも相当するものとなった。
人々は略奪を繰り返すドスケベアーミーの影におびえた。
服装も体のラインの出ない厚手の布による貫頭衣のようなものになり、食事も食べているときにドスケベになりそうにない、粗末なチーズマカロニや葉っぱを食べるようになった。
夫婦で暮らしていても、ドスケベであるとドスケベアーミーが飛んでくるため、出生率もぐんぐん低下した。
ドスケベシティ以外の地域はドスケベを奪われ人生に潤いも持てない砂漠のような世界となったのである。

「誰にも見られなかったか」
浅く息を吐きながら若い男が小屋に隠れたまま呼びかける。
「大丈夫だ」
呼びかけられた者も若い男性だ。周りを伺いながら、もう一人の男の隠れる小屋へと滑り込むように入る。
「ドスケベが手に入ったってのは本当か」
小屋にいた男が問いかけると、入ってきた男は少し上気した顔で頷く。
「ああ、前世代の遺物…これだよ」
「これ、To Heart2じゃねえか!」
思わず大声を出した男の口を慌てて塞ぐ。
「大きな声出すなよ…ちゃんとPC版だ。こっちにはノートPCも用意してる」
がさりと音を立てて紙袋を見せる。
重たそうな紙袋の口から、ちらりとFM-Vというロゴが見えた。間違いない。
「それにしても、タカシ…こんなもの一体どこで」
タカシと呼ばれた、小屋に入ってきた男はため息をついた。
「…じいちゃんが隠してたんだ」
重い空気が流れる。タカシの祖父がドスケベアーミーに殺されてから1か月。
村のみんなにドスケベな絵を描いて細々と供給していたタカシの祖父は、あるときついにドスケベアーミーに見つかり、そして…
「…とにかく、これがあればしばらくはドスケベを食いつなげる。その間に…」
タカシが言葉をつづけようとした瞬間、小屋の外から空気を切り裂くような発砲音がした。

「ヤアヤアヤア!!こそこそドスケベを集めるゴキブリ諸君!!」
軍服姿の男はにこやかに声高らかに呼びかけた。
「こんなところにレジスタンスのアジトがあったなんてネエ!」
「ドスケベアーミー…!」
タカシの背中に冷たい汗が一筋流れた。
そんなまさか。発信機の類も十分に気を付けたはずなのに。
「そしてご協力ありがとうございマス、お友達のヨシオくん!!」
「…!?」
目の前の男がゆっくりと銃をタカシに向ける。
「お前、まさか…うそだろ…!?」
「仕方なかったんだよ…今なら助けてくれるっていうから…」
震える銃口をタカシに向けるヨシオ。
どうする。どうすれば。
一瞬思考を巡らせたのち、タカシはヨシオを突き飛ばし、紙袋を抱えたままドアの向かい側、小屋の窓へと突進した。
「まて!!」
ヨシオが叫び、乾いた銃声が横をかすめる。
タカシは銃声を背に窓際のテーブルを蹴って、窓の外へ転がるように飛び出した。
「う…」
一瞬バランスを崩した体制を引き上げ立ち上がろうとしたその瞬間。

「残念でしたネエ」

ごり、と額に鉄の塊が押し付けられた。
突きつけられた銃ごしに、ドスケベアーミーの男が厭らしく笑った。

続く

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます