ドスケベマン(7)
前回のあらすじ
西関東地区に住む美しき男装の少女ユウキ。
しかしその生活は、彼女の体の変化により終わりを告げる。
―――
白い下着につく、血の汚れ。
膝ががくがくと震えだし、ユウキは思わず厠の壁で体を支えた。
初潮。女性ならではの体の変化であるが、それはここ西関東地区ではドスケベアーミーによる平和な日々の蹂躙を示していた。
「ユウキ、どうしたの?」
あまりに長い厠に、外から母親が声をかける。
どうしたらいいのかわからない。全身が震え、すべての血が足元から流れ出すようだ。
ユウキの母は、あまりにも長い厠に何かを感じた。
ユウキの母はユウキに似ず地味な風貌の女だった。
だからこそ村で今まで生きてこれたのだ。
娘の輝くような美しさに、時に嫉妬をしたこともあった。だが娘への愛情は、他の者よりも強いと自信があったし、この美しい娘のためなら死んでもいいと思った。
「ユウキ、落ち着いて。扉を開けてちょうだい」
震える手で扉を開けると、いつもの笑顔の母がいた。
「これを使いなさい。」
そう言って大量の生理用品をユウキに渡した。
「これ…母さんの…」
「私はもういいのよ。ユウキ、夜まで待ちなさい」
明日、ドスケベアーミーの巡回が来る。時間はもうないのだ。
「母さん…」
「夜になったら南西へ走るの。横浜という町があるわ。そこにレジスタンスのアジトがある。連絡は私がしておくわ。」
「え…?」
「いつも機械いじりをしてるあなたの背中がいとおしかった。あなたはドスケベアーミーに連れていかれてはいけない。あなたはきっと大きなことができる子よ」
そのまま、母親は怪しまれぬよう周りを見渡した。
「さあ、今日も一日がんばりましょう。畑が待ってるわ」
その声はいつもと変わらないように見えた。
ごくごくいつも通りの日常。
ごくごくいつも通りの。
しかし、時折下腹部に走る鈍い痛みや血の感覚がユウキに体の変化を伝えていた。
「レジスタンスのアジトがある」
母はそう言ったが本当だろうか。
そもそもレジスタンスといえど、あんな強大なドスケベアーミーの組織を覆すことができるのだろうか。
ユウキはただ、機械いじりをしながら毎日が過ごせたらよかっただけだったのに。
夜のとばりに村が包まれたころ。粗末なカバンに荷物を詰め込んだユウキは生まれ育った村を後にして、西へ走った。
どのみちドスケベアーミーに捕まって死ぬかもしれないなら、少しでもあがいてやろう。
そう決意した瞳には満月が映っていた。
カバンのそこには、まだ修理が終わっていない四角い黒い箱と、その中に納められた黒いテープが押し込まれていた。
続く
ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます