ハウス・オブ・エレガンザ〜異世界ドラァグクイーン〜

その日の”踊るドラゴンと猛る野うさぎ亭”の売り上げは過去最高を更新したらしい。

酒場の小さな舞台の上にあたしが立つと、楽師たちは打ち合わせの通りに演奏を始めた。
初めて聴く曲だけど大丈夫。カウントを取りながら弦楽器の音に身を委ねる。
カンテラの光があたしを照らす。
赤く光るのはあたしのお気に入りの、真っ赤なチュールのガウン。
艶かしく、大きく体をくねらせると、先ほどから出来上がっていた客がこちらに視線を向け始めた。
もっとよ、もっと。
爪先から太ももに向けて指を滑らせ、そのまま右手は腰に。
きっと砂時計のようなあたしの体のシルエットが見えるはずだ。
そのままリズムに乗せて、舞台を大きく一周する。
歩くたびお尻が揺れて、最前列のドワーフがにへらと思わず笑みをこぼした。
よく磨かれた爪、たっぷりとしたボリュームのロングヘア、大きなお尻、高い高いハイヒール。
そうよ、みんな喉を鳴らして。
歩きながらゆっくりとガウンを脱いでみせると、右手側のエルフが顔を赤らめた。長生きなのに奥手なのね。
わざと腕をかかげてよく胸が見えるようにすると、たわわなシリコンバストに歓声が上がる。
ターン、パドブレ、ヴォーグ。
ほんの数分の内にあたしの体はうっすらと汗ばんできた。

あたしは腕を振りながら楽師たちの方をチラリと見る。
そう、今だ。
曲の最高潮の一瞬前、ラッパ吹きが勢いよく息を吸い込んだところで私は大きく足を蹴り上げ、音の洪水とともに体ごと床にそれを叩きつける。
DEATH -DROP死の卒倒
あたりは驚きの声で満ちる。
そのまま一呼吸、観客の声をたっぷり吸って体を起こし、あたしはまた体をDIPする床に叩きつける
さらにもう一回、DIP。
”パリ、夜は眠らない”をこの世界の人が知ってるかはわからないけど。
そうして大歓声の中汗だくのあたしは男の声でこう言った。

「あたしはスカーレット・オ・マラ!この世界唯一のドラァグクイーンよ!」

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます