探偵地雷少女は死にたいと願う
かん、かん、かん、かん。
踏切が鳴いている。
久しぶりに着た喪服はどうしても体にしっくりこず、俺は1秒でも早く脱ぎたいと思っていた。
出来の悪い俺に何くれと気を遣ってくれて、ことあるごとに食料を山ほど仕送りしてくれた母親は、脳卒中で呆気なく死んだ。
親が死んだというのに実感は驚くほど薄く、夢の中のようにふわふわしている。
「そんなこと」より明日からの仕事を探さなければいけない。
社会不適合者の俺が見つけた私立探偵という仕事のうち、葬式のために断った分を取り返さなければいけない。
ぼんやりと考えながら顔をあげると、遮断器の向こうには女の子が立っていた。
ニコニコ笑う女の子が、遮断器の向こう、線路の上に立っている。
大袈裟に書いたアイライン、高いツインテールにはピンク色のメッシュが入っていた。
リボンとフリルがたくさんついたピンクのブラウスに、同じくフリルをたっぷり敷き詰めた黒のスカート。
携帯以外何も入らないんじゃないかと思う小さなリュックを背負って、女の子はニコニコと微笑みながら線路の上に立っていた。
「おい!危ないぞ!!おい!!」
俺が叫ぶと女の子はこちらを笑顔で見遣って小さく手を振った。
踏切は狂ったように喚いている。
「おい!!戻れ!おい!!」
女の子は動かない。踏切がうるさい。
「お前、おい!!!」
頭がガンガン揺れ、手のひらがじっとり汗をかく。
ああ、もう。一体何なんだ。
「おい!!」
俺は叫ぶと遮断機をくぐり女の子の手を掴んでいた。
無我夢中だった。
ぐい、と引っ張ると思った以上に軽い体がこちらに飛び込んでくる。
電車の警笛、遮断器の音、人の声。
まるで足元が柔らかいマットになったみたいだ。
勢いをつけて遮断機を上げ、女の子と転がるように飛び出る。
後ろからごう、と風が体を撫でつけていった。心臓が破裂しそうだ。
「──みゆ死にたかったのにぃ」
立ち上がりながら舌足らずにつぶやいた、それが彼女との出会いだった。
【続く】
ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます