傘寿まり子2巻まで読了(ネタバレあり)

Twitterのほうにも書いたけど、傘寿まり子を読んで、胃の中に鉛を入れられたような気持になったのでまとめておく。

傘寿まり子1巻(Amazon)

傘寿まり子2巻(Amazon)

簡単にあらすじ。
80歳を迎えた小説家、まり子は一戸建てで息子・孫夫婦との3世帯同居していたが、家族の軋轢から自宅に居場所を無くす。
ある日限界を迎え、家出をし、ネカフェ難民として生きようとした。
ひょんなことから、過去の片思い相手と再会し、その相手のマンションで同棲生活を始めるが…という。

主人公が80歳で、そこから恋が再燃したりするわけです。

個人的な読了感想は、これはホラーだと思った。

まず老いたという理由で、息子夫婦・孫夫婦から邪険に扱われ、かつどんどん居場所を無くしていく。
まり子は80歳でも小説雑誌に連載を持っていて、収入もあるのに、だ。
ただただ「得体のしれない感覚のうっとうしさ」を家族に抱かれてしまう。
形のない不穏が足元から忍び寄ってきて、己を脅かす。

そして、その不穏を振り切るために一人暮らしを決意して家を出ても、高齢老人だからという理由でアパートは借りられない。収入があっても何も保証されない。
本人はいたってポジティブに「ならば一時的に仕方ない」とネカフェに寝泊まりするわけだが、周りの眼は「なんと哀れだろう」と見る。

そうして追いやられ追いやられたときに、ふいに初恋の人に再開する。
妻が死んで、まり子のことを考えていたから一緒に住もうと言われ、久しぶりの高揚感によって同棲が始まるが、今度は相手にもゆがみやひずみが見えてくる。

相手は恐らく認知症の初期。
今住んでいるマンションには到底入らない大きな机をまり子のために買おうとして、それを止めると「なら壁をぶち抜いて改装しよう」と無邪気に言う。
車の運転に慣れているからと取材旅行に出かけるが、高速道路を逆走する。(2巻はここで引き)

そう、相手は全く己の異常に気付いていない。
まり子は相手を見ていてまた形のない不穏に忍び寄られる。
死ぬまでの短い時間なのに。

今の80歳は実際元気だ。
自分の祖母も父方母方ともにもうじき90になるけども痴呆は進んでしまったが体は元気だし、配偶者の祖母も元気だ。
でも、我々から見ると老人で、何かあったらと不安は尽きない。
もし転んだら?
もし風邪をひいたら?
すべてが命にかかわるけれど、本人たちはその心配を嫌がる。
それを逆の目線から見た作品が、この作品だと思う。

逆の目線から見ると途端にすべてがホラーとなる。
自分は何も変わっていないのに、周りの態度はどんどん変わっていく。
歳を取ったからとあらゆることに対して自分は介入できず話が進んでいく。
自立していた人であればあるほどこれは恐怖だ。
自分は何も変わっていないのに選択権がなくなり、不穏だけが寄り添ってくる。

ぼくには子供はいないけども、年を取ることは変わりなくて、こんなふうに視界が変わっていくとしたらそれは恐怖以外の何物でもないなと思った。
まり子のポジティブさがよりその不穏を引き立てていて、胃の中に鉛を飲み込んだような気持ちになった。
いい作品なんですよ、ただ、ずっしりとくる。

今のぼくらの世代が80になるころにはまた医学も多少進歩して、平均寿命はさらに延びるかもしれない。
この間も平均寿命が最長記録してたし、きっとそれは伸びる方向だと思う。
そうなったときの視界はどんなものなのだろうと、今から不安になる作品でした。
衝撃的な引きだったので3巻が気になる。

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます