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赤い、赤い、赤い

 宇宙服の中から見える景色は、いつもどこか赤い。

 昔の人たちには木星は長らくガス惑星と誤解されていたらしいが、実際に木星で作業している俺にとっては赤い砂の荒野のこの景色の方が見慣れた景色だ。赤茶けた荒野の中に所々点在するガスが噴き出す割れ目にホースを差し込みガスを採取して地球に送るのが底辺労働者の俺の仕事だ。

『休憩の時間です』
 ヘルメット内に電子音声が響く。労働基準法により惑星上の危険作業には120分に10分以上の休憩が義務付けられているのだ。
 俺はホースを地面に投げ出して手近なところにあった石の上に腰掛けた。前科持ちの俺にとっては精一杯の上等な仕事だ。
「メシ食いてえ」
 俺が呟くと口元に栄養補給チューブが伸びてくる。ここから流れてくる総合栄養食の液体が今の俺の食事だ。味気のない、粗末な食事だがそれでもないよりマシだ。
 どうしてこうなったんだろうな。
 心の中で独言るが答えは出ない。強いていうならあいつを殺しちまったのが全ての間違いだったんだろう。刑務所に服役し、出てきた時には持っていたもの全てがなくなっていた。親は俺が服役している間に死んだし、兄弟はどこにいるのかわからない。多分火星にでも移住したんだろう。
 全て自分の招いたことだ。理解はしていてもどこか納得できない自分がいる。
『あんたはもうずっと一人よ』
 殺す直前のあいつの声が一瞬聞こえた気がした。
 頭を振るとちょうどアラームが休憩終了を告げた。俺はホースを拾ってノロノロと立ち上がる。
 俺は5メートルほど向こうに見える大きな岩に向かって歩き始めた。センサーはその隣にガス割れ目があることを示している。岩は3メートルほどあるだろうか、俺はそれをふと見上げた。
「え?」
 赤い世界の中にさらに鮮烈な赤い、赤い髪。それは岩の頂上から風を受けてたなびいている。
 何でここで宇宙服無しに生きている?俺は正体を見定めようと岩の上に目を凝らした。

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます