ドスケベマン(23)
前回のあらすじ
レジスタンス組織壊滅のため虐げられていた女性を保護するマリリン。
彼女の狙いは。
―――
トラックが石を踏んで跳ね、まどろんでいたミオはびくりと体を震わせた。
トラックに乗せられてからどのくらい経っただろうか。
乾いた風に鉄のような海の匂いが混ざり始めていた。
海岸線を走るトラックの先に、白く四角い建造物がいくつも見えた。
「ねえ、これからどこいくんだろ」
「わかんない、でもあそこよりマシだよ」
隣の女たちが小声で言葉を交わしている。
そうだ、どんな場所でもあそこよりマシなはずだ。
四角い建物はどんどんと近づき、やがてトラックはその建物の前で止まった。
「着きました、皆さん降りてください」
ミオたちは白い倉庫のような建物の中に案内される。
白いタイル張りの廊下は踏みしめるたびに乾いた音を響かせ、わけのわからない不安が襲ってきた。
しばらく廊下を歩き、一つの部屋に入ると、白衣を着た男女が数人立っていた。
「まず、けがの治療と病気の状態を確認します。お一人ずつ診察していきますのでこちらで順番まで待っていてくださいね」
農村で育ったミオは一体相手が何を言っているのかよくわからなかったし、それは周りの女たちも同じだった。
治療?一体それは何なんだ。新しい拷問か何かをされるのだろうか。
そもそも白衣をミオたち農民は見たことなどない。
病気になった時は村の長老が薬を調合するか、流行病の時はドスケベアーミーが病に倒れた者を連れて行った。
近代的な治療の概念は彼女たちには存在しなかったのだ。
銀色の器具を持った得体のしれない風体の人間に体を強張らせると、付き添っていたドスケベアーミーの男がそれを見て女たちに声をかけた。
「けがの手当てをする。腹が痛いだとか、血が出るとか―――そういう不調も手当てする。マリリンさまが皆さんを助けたいとこちらへ案内した。わからないこともあるだろうが、あなた方を傷つけるためではなく、治すためのことをするので、信じてほしい」
低く、はっきりとした声が部屋に響く。
それでも不安はぬぐえず、女たちはお互いの眼を見つめ合った。
「私から、やる」
戸惑った空気を切り裂いたのは、ミオの震える声だった。
「だって、どんなことでもあそこよりはマシだよ」
ミオが言った言葉に、女たちはみなハッとした。
そうだ、あの地獄で自分たちは死よりつらい生活を送ったのだ。
意思も、尊厳も奪われた生活よりひどいことなどこの世にそうそうあるはずがない。女たちはみな目と目でうなずき合った。
「私も、やる」
「私も」
波紋のように広がるその声は、ようやく手に入れた自らの意思で決定できるという事実をかみしめて味わっているかのようだった。
シンヤは治療室へ向かう女性を見て、かつての自分とマリリンのことを思い出していた。
今のマリリンは恐らく、この後この女性たちをどう使うかを考えているだろう。
しかし―――倒れ伏していた女性たちを見て声を震わせた、それだけは演技ではないとシンヤは信じていた。
かつて、自分たちがそうであったように。
つづく
ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます