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長和町林務係に訪問して、森林環境譲与税について学ぶ

令和元年度(2019年度)から森林環境譲与税が全国の地方自治体に譲与が始まった。当然当社がある長和町にも譲与がされた。これを長和町ではどのようにお金を使って行くかは、当社にとっても関心が高いところ。

森林環境譲与税は、市町村においては、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の「森林整備及びその促進に関する費用」に充てることとされています。 ~林野庁HPより~

当社がカラマツ集成材を製造する際に使用する丸太は、当然、長和町産のものも含まれる。長和町が、木材の利用促進に森林環境譲与税を利用することも充分に考えられる訳で、そうなれば、当社の事業に多少なりとも好影響がでる。

そもそも森林環境譲与税とは?

森林の有する公益的機能は、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源の涵養等、国民に広く恩恵を与えるものであり、適切な森林の整備等を進めていくことは、我が国の国土や国民の生命を守ることにつながる一方で、所有者や境界が分からない森林の増加、担い手の不足等が大きな課題となっています。
このような現状の下、平成30(2018)年5月に成立した森林経営管理法を踏まえ、パリ協定の枠組みの下における我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から、森林環境税が創設されました。 ~林野庁HPより~

森林環境譲与税を理解するためには、まず森林経営管理制度について理解しておく必要がある。
森林経営管理制度は、大雑把に言えば、森林所有者は責任をもって自分の山林の管理をしなさい。自分で管理できない山林所有者は市町村に管理を委託しなさいというもの。市町村は、山林所有者に山林を自分で管理するか、市町村に管理を委託するか意向調査をおこない、自分で山林を管理するのか、市町村に管理を委託するのかを選んでもらう。市町村は委託を受けた土地を見極めて、林業に適した山林は意欲ある林業経営者に再委託し、林業に適さない山林は市町村が自ら管理するという法律。ちなみに、意欲ある林業経営者はほとんどが森林組合で、民間企業もチラホラある程度。長和町には民間企業は1社もなく、お隣の上田市でも3社のみ。

この森林経営管理制度の財源として、森林環境税の徴収が令和6年(2024年)から始まる。金額は年間1,000円で、納税義務者が6200万人と推計されているため、年間約600億円を国民から徴収することになる。
森林経営管理制度の根拠法となる森林経営管理法は令和元年から施行されているため、国民から森林環境税の徴収が始めるまでは地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金なるものを使って、森林環境譲与税の譲与が令和元年から始まった。

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令和元年の森林環境譲与税の譲与額は日本全国で200億円、令和2年と3年は400億円と600億円まで段階的に増えていくようだ。

この財源がどのように市町村に譲与されるかについては、譲与基準によって決まっている。基準を見てみると30%が人口に応じて配分されることになる。そのため、山林がなく人口が多い都市部にも環境譲与税の譲与が行われる。どの自治体にいくら交付されたかは総務省のHPで確認ができる。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000668662.pdf

そして、交付を受けた自治体はどのように使ったかを公表することになっている。
長和町では、令和元年度は599.7万円が譲与され、その用途は基金積立で、翌年度以降の森林経営管理制度及び市町村独自の課題解決に向けた事業実施の効果的な財源とするための積立とされている。

当社でも定期的に江東区の中学生の工場見学を受け入れている。江東区の公表されている情報を見ると

元年度税制改正により、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るための地方財源を安定的に確保する観点から、森林環境税が創設されました。区市町村及び都道府県に対し、森林環境税の収入額に相当する額が譲与される森林環境譲与税については、森林の間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充てることとされています。
元年度の森林環境譲与税の決算額は20百万円であり、香取小学校改築事業の木質化にかかる経費に充当し、木材利用の促進を図りました。
 ~江東区HPより~

この木質化は国産材が使われているかどうかはわからないが、制度の趣旨からするとそうあって欲しいと思う。

ちなみに、国会では次のような答弁が行われたようだ。

【問い】政策目的に沿った使途をどう担保するのでしょうか。また、外国産の木材利用に充てることは明確に禁ずるべきではないですか。
【回答・総務省(大臣政務官】
森林環境譲与税を活用して木材の利用促進に関する施策を行う場合に、WTO協定における内外無差別の原則から、外国産の木材利用を禁ずることは適切ではありませんが、我が国の森林の整備及びその促進につながるかどうかという観点から、地方団体において御検討いただくべきものと考えております。
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/press/ibaraki/attach/pdf/191224-1.pdf
 ~林野庁HPより~

世界的に自由貿易の流れが進む中で、国としては産業保護政策を打ち出せない。国産材を使え!外国産材禁止!とは言えないので、自治体の判断にかかっているということになるのだろう。制度の趣旨からすると、自治体にはどういった木材をどれだけ使ったのか開示をして欲しい。

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長和町役場に訪問し、林務係の方から森林環境譲与税について今後の方針を伺った。
現在は、上田地域振興局林務課が中心となり、上田市、東御市、青木村、長和町で森林経営管理制度推進に向けた会議を開催し、各市町村でモデル事業の実施(いわゆるサンプル調査)と課題検討、マップ整備(森林状態の見える化)などに取り組んでいるところだそうだ。森林環境譲与税の用途としては、森林経営管理制度の実施や山林の維持管理に関して使う方針とのこと。現時点では、木材の利用促進に使う予定ではないようだ。

森林経営管理制度では、全ての民有林について森林経営計画が立てられている状態を目指す訳だが、上田地域全域で、当面の取組対象森林は全体面積の概ね6%程度という段階。個人的に、この地域の山はところどころ荒れているという印象があったので、90%以上の民有林に森林経営計画が立てられているというのは意外だった。ただ、この残り6%は面積が小さかったり山林所有者が多数いたりするなど、森林経営計画策定に時間と手間が大き過ぎるため後回しにされていたエリア。検討段階であるが森林環境譲与税を活用し外部委託することができるようになるそうだ。

長和町では森林環境譲与税の譲与額は徐々に増えて、最終的に年間2,000万円ほどになる計算とのこと。長和町は山林面積が広いものの、人口が5,887人(令和3年1月1日現在)と少なく、森林環境譲与税の譲与金額は少ない。山林がない都市部の市区町村と連携して、森林環境譲与税を増やすことを考えて欲しいと町の担当の方に要望した。

各市町村でモデル事業の課題の中で、町に管理が委託されると、住民の要望が強くなる傾向があるそうだ。これまで住宅裏の個人所有山林などは伐採してくれと直接言いづらかったが、町が管理するようになれば、要望しやすくなる。こういった新たな費用負担も考えると、未だに2019年の台風19号の影響が残る中で、森林環境譲与税は金銭面では大きな影響があるとは言えないのかもしれない。しかし、多くの国民から税金を徴収する訳なので、森林環境税の導入により、地域の山林に対する関心が高まることがお金以上に大切なのではないかと思う。

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