ミュトスの雨＜神へ捧げるソネット＞＃106

佐佐木　政治

あなたの言葉が　世界中の葉茂みの中で尽きるのだろうか
あなたの言葉が　おびただしい種の　しかも有限の葉茂みの中で尽きるのだろうか
有限とは　ひょっとすると　あなたの常套手段かもしれない
ぼくらは永遠とか無限とかで　あなたの営為を飾りたがるのだが

有限が果てるふちの向こうに　ほんとうのあなたがいるのだろうか
ぼくらの言葉だって　基本になるものは　ほんの数十種にすぎない
しかもあなたの言葉は　たえず霧のほのおの彼方で消滅する
あのせっかくの言葉も　消滅によってかぎりなく零に還されてしまうのだ

あなたの巨大な意志が立ちはだかるとき
すべては消滅によって　自らの責任をあがなう
自らの有を　あなたの無に預けている

もともと　描かれる顔は　そのみじめな輪郭とともに
あなたがひきうけた　すべての言葉のなかにある
あなたは沈黙の中で　言葉が消滅する行方を占うのだ

父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。

＞＞＞＞＞＞＞いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。＜＜＜＜＜