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誤読のフランク 第15回 窓から、生命保険ビル、AWAKE!

View from hotel window - Butte, Montana

おばちゃんが車の窓から身を乗り出した写真、もしかしてネイティブアメリカンズかも?って書いた写真。
海兵隊リクルートオフィスがあった写真。
多分同じ時期、ほとんど同じ日とか数日違いのうちに撮ってると思われる。窓から見えるのは工場か、長屋みたいなのが連なっている。おばちゃんの写真では、もう少し都会のイメージがあったが、この写真では、工場地帯に見える。

窓からの風景、揺れるカーテンの情景。アンドリューワイエスの絵画を思い出す人もいるかも知れない。

写真の歴史に多少なりとも詳しい人ならこの写真を見ると、アレを思い出すのではないかと思う。
Frank's View, 2008, from Broken Manual by Alec Sothってやつ。ソスは同じ窓から、冬場の風景を撮影した。その、写真を入れることで、写真史に繋がる道筋を写真集に残した。
そういことは、写真にとってとても大事というか現代美術というのは、それだけではどこにも繋がらないから、自分がやっていることを歴史の中でどのように当てはまるかという結節点を見いだせないと、ただの写真であって(もちろんそれはそれで良いものだけど)、マグナムに入ろうかという人はちゃんと歴史的な文脈を押さえていなければならない。
ソスのブロークンマニュアルも、そのうちに機会があれば考えてみたい。(いま、そう書きながらブロークンマニュアルのマニュアルって、このアメリカンズなのかな?)

窓繋がりで、例えば、写真は心の窓、なんて薄ら寒い言葉を写真教室のセンセが言うかも知れない。だいたい、そんな人の写真は下手くそだから教えて貰う価値なし。教室に通う必要はないけど、多分この文章を読むなんて物好きにはそんな毒は必要ないですよね。
もちろん、心の窓だという部分はある(あるけど、それが題目になったらうんざりするよ。あまりにも日本の写真をめぐる言葉はウェットすぎる)。
有名なニエプスの「ル・グラの窓からの眺め」は初期の写真史には非常に重要な1枚だったり、窓を扱った美しい写真は多い。

で、いろいろ書いたけど、この窓からの眺めは、若しかすると、ロバートフランクにとってニエプスに繋がる1枚だったのかも知れない。
さらに、この1枚。いままでこのアメリカンズの写真の中で、初めて被写体が何かを見ている写真ではない写真だろう。
下宿屋の写真には少しこのような雰囲気もあったり、ひとつ前の母子とメイドの写真にもこのような雰囲気があったが、言って見れば、初めて出てくる「ロバートフランクが見た風景」が中心にある写真ではないかと思う。

世の中には物好きが居たもので、どの窓か探してる人がいる。http://blakeandrews.blogspot.com/2011/04/franks-view.html?m=1
こういう検証はとても好きだ。その窓がわかったところでなんになるんだなんて、いうのは野暮だ。

※ブッテだと思ってたけど、ビュートって読むみたい。炭坑で盛んになった街で、写真の奥に見えるのは露天掘りの炭坑。今現在はその大きな穴に水がたまって湖のようになったり、鉱毒被害が発生して対応に追われたりした。人口3万人ぐらい。
西部開拓史時代の「アメリカンドリーム」の一攫千金の行き着く先が炭坑かロスの大規模油田か。なんとなくそんな感じがする。


そして、また風景。
Metropolitan Life Insurance Building, New York City

メトロポリタン生命保険ビル。
これは見た目の面白さ以外には無いように思える。
ビルのでこぼことした表面の形が、手前の新聞(や雑誌)と呼応している。硬いもの、柔らかいもの。

いま、チャールズシュツルフのピーナッツ(スヌーピーと仲間たち)が広告を飾るメットライフ生命保険は、アメリカ最大の生命保険会社。歴史を見てみると、南北戦争の傷病者に対する保険がスタートして、1954年にはコンピュータ導入、1956年には、中毒情報センターの設置を進めた、だって。
http://www.referenceforbusiness.com/history2/45/Metropolitan-Life-Insurance-Company.html

当時の広告を見ると、デキる男の生命保険!って感じのある種のカッコ良さが見られるし、(今も?)昔も、イケてる会社なんだなーなんて感じ。コンピュータの件にしても、最新技術を取り入れてて、アメリカンドリームなイメージ。すげー。

で、いま、このビルを調べてみたら、この会社のトレードマークは、尖塔なんだよね。面白いことに、ロバートフランクはその尖塔部分をカットしたトリミングで、手前のビルの凹凸に注目している。このトリミングは、面白い。ビルの全体像は、以下のURLで確認して見てください。 https://en.m.wikipedia.org/wiki/Metropolitan_Life_Insurance_Company_Tower#Metropolitan_Life_North_Building

この、観光客なら塔を撮るだろう有名な建物の、塔を撮らない形で構成するのは、ある種のステロタイプを拒否しているととるべきだろう。

うがって読むと、保険という空気のように、形のないものを売ることと、雑誌や新聞によって大量に消費されてゆく言葉が重なり、消費されて廃棄されるのが運命である紙のイメージが、このビルの佇まいに重ねられているのではないか、などと綺麗な語り口で読んでみるのもありかも知れない。

「1925年頃、メットライフはニューヨークのラジオのスポンサーをしていた。そこへ日本から逓信省(現在の総務省や旧郵政省)による海外派遣の一団がセントラルパークの一角でラジオの音楽に合わせて体操をする姿を目にした。通訳に尋ねると「生命保険会社がスポンサーになって健康のために体操をしている」と答えたという。この事を知った派遣団は日本に帰国するなり「国民の健康保持に基づく社会的幸福増進事業」としてラジオを用いた体操事業を紹介。簡易保険局(かんぽ)や日本放送協会、文部省などの協力のもと日本でのラジオ体操が始まったとされている。」
Wikipedia

そうか、ラジオ体操の源流なのね。

雑誌や新聞の山を拡大。ダウンビートが1番上にある!
今でも出版されてるのもチラホラ見えると思う。学生の自由研究なら1冊1冊探して、それがどんな雑誌なのか調べてみるのも面白いかもしれない。
巨大な保険会社にとって、人の命は紙のようなんてな。

視覚的に前の写真は八の字に白いカーテン。こっちは8の字(だいたい)にビルの形。


Jehovah's Witnesses LosAngeles

エホバの証人については
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/エホバの証人
Wikipediaを参照してください。

最近、東京でも目立つ街角によく、一見優しそうな男女が立っていて、この5年ぐらいとみに増えたなあ、なんて思ってたら、去年イギリスのロンドン郊外の小さな街でも見かけて、どこも一緒か、なんて思ったものだ。
社会が不安定になると人は宗教や政治や大きなものに心の安定を求めてすがるものだ、と子供の頃読んだ本にあって、今はまさにそんな時代なのかも知れないとも思う。これが僕の宗教/政治観で、だから特定の宗教を揶揄したりするつもりは無いことを先に書いておく。

で、この写真。
上のWikipedia読んでも分かるように、ハルマゲドン神話はこの宗教の大きな位置を占めている。
そういや、先日、オウム真理教の麻原彰晃が処刑されたね(本日2018年7月25日)。あれに関しても、いろいろ思うこともあるけど、とりあえず置いておく。

で、なぜハルマゲドンから入ったかと言うと、ひとつ前の写真が、生命保険(のビル)の写真だからだ。生命保険は病気と死を扱う。その大きなビルに対して痩せたまるでガン患者のような宗教家が並んでて、その教義にハルマゲドンや輸血の禁止が含まれているのは、意図したものかどうかという点が気になるのだ。
ちょっとギョッとするよね。このページは。
あとは、手にした本(冊子?パンフレット?)が気になる。
前のページから連続で見ていると大量の紙の雑誌から、まるでこの1冊を選び取ったかのように見える。その事が、見るものになんとなく不安に感じる要因になっているのかも知れない。
「目覚めよ!」だし。

ロバートフランクが、この宗教に対してどのような意図があったのかどうかはわからない。でも、この流れは一種の異化効果を産んでいて、ここしばらく穏やかな(批評的ではない)写真が並んでいる中で、異質なインパクトを与えていると思う。

何が書いてあったんだろ?と思った方は
例えば1956年、
https://faithleaks.org/wiki/index.php?title=File:G_E_19560000.pdf
こういうデータを、見るとまた違った写真の見方ができるのかも知れない。
歴代のデータはここ。
http://avoidjw.org/magazines/

って、書いた途端に面白いものを見つけた。

この、写真の男が手にした1956年のAwake! 誌、Why mixed marriages are inadvisable. ってタイトル。

この内容は、「宗教的に違った結婚はオススメしない」って内容なんだけど、2018年で、特定の宗教的な観点がなければ、Mix Marriage って言えば違った人種のことなんじゃないか?とか思ってしまう、訳。
この、違った人種のカップルはこのアメリカンズの中で、特に後半の主題かも知れないと思ってて、それは後で書くことになるだろうけど、異種混交の視点ってのはロバートフランクのアメリカンズの低層を流れている意識のひとつではないかとも思える部分。むしろ今なら、ミックス婚は個人的にもオススメしたいな。と思ってるのだけど、それも余談。

もしかすると、ロバートフランクは、このタイトルを見てしまったのかもしれないなんて考えると写真の見方もまた変わるような気がする。


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