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誤読のフランク 第16回 カウボーイ、農場、半か長か!

Bar Gallup , New Mexico

そういや縦画面が続いている。で、これは、今までにない構図。水平が取られてない。歪んでる。
画面が低いことから、もしかしてノーファインダーで撮られた写真かも知れない。そして、その事が写真に緊張感を産んでいると思う。

リキュールワールド?リキュールW と鏡文字になって、ガラスの向こうのひさしのテントの文字が見える。窓際の真ん中の堂々とした男とその取り巻き。まるで討ち入りでもあるか、映画の1シーンのようにドラマチックな情景だ。手前の大きな影とまるで対峙してるかのように、その瞬間が構築されている。
だいたい、映画だと、この後乱闘シーンだよね。

保険(金があればこの世は天国)、宗教(世界は終わるかもね)、乱闘(よくも俺の女に手を出したな!この流れもの野郎!)。なんてセットだともうそこに物語が生まれない訳はない。BGMはカントリー調、ガヤガヤとバーの人混みが写り、奥の部屋のビリヤードに興ずる男達。タバコの煙で曇ってて、ビールのグラスがどこかで割れる音がする。
白人だけのイエール大学、黒人の赤ん坊。カフェのおばちゃん、美しい女性と小さな子供。親しみのムードに、突然、金や死のイメージが事件として差し込まれ、それまでの穏やかで温かみのある描写が、一転して暗雲が立ちこんでくる。

下宿屋以降のシークエンス、バラバラにみえて、実はロードムービーみたいでだんだん面白くなってきた。
三分割ルールはまだなんとなく健在。

ここ何枚か振り子のように写真の中心が揺れていて、
窓から、向かって右上にかけての力。
保険ビルは向かって左上へ。
AWAKEは右上。
この写真は左上。次が真ん中。
そのせいでこのしばらくの写真の雰囲気が異様に感じられる。


U.S. 30 between Ogallala and North Platte, Nebraska

U.S. Route 30 ハイウェイ30はネブラスカ州のど真ん中を突っ切る幹線道路、みたい。
そして、ロードムービーの定番の農耕地帯。人が写ってない写真は2枚目。今度はど真ん中の柱と水平線の交点に向かって集中するど真ん中構図というすごい驚くような写真。この数枚の緊張感をふっと抜ける、風を呼び込む1枚。

いままで、どうも不安定な写真ばかり並んでいたものだから、この写真を見て、ほっとしたことも理由にあるのかも知れない。ロバートフランクって、写真上手いかもしれない、なんて思ったりして。いや、いや、上手いんだろうけど、いままでの中にこれがあると、また別の意識が生まれると思う。

例えば、風景をそのまま撮るのではなく、ど真ん中に柱があって、風景をぶった切ることによって、意識の上では奥の光景の開けたイメージがあり、手前に邪魔なものがあると、視線は奥と手前とを行ったり来たりする。そこに視覚の重層化が生まれているのではないかと思う。
このアメリカンズだと、下宿屋の写真。あれは人の顔が見えないことにより、視線は階段と白壁と柱に導かれて、ぐるぐる回る。こういう写真を意図して用いるのは、ロバートフランクより前にはあまり見られなかったのではないか、とか、思う。ジョエル・マイロウィッツやエグルストンあたりの、ニューカラーの作家にすごく影響を与えた1枚なんじゃないかなと思ったりするけど、どうなんだろ?

ところで、ちょっとこの写真を調べてるうちにネイティブの話がでてきたので、紹介すると、https://www.americanindiancoc.org/native-american-tribes-the-indian-history-in-north-platte-nebraska/

どうもこのあたりにインディアン(ネイティブアメリカン)が大勢いて居留地に入れられたインディアンは、白人の入植者にやられたんだよーみたいな話があるみたい。
これ、なんの変哲もない写真なのに、その裏側には歴史がある場所って写真みたいで、ああ、逆に今、ストーリーテリングのあとに、歴史をどう受容してゆくかっていう写真(集)があっちこっちでつくられてて、そんな方法と重なってくるよね、なんて思う。

〈付近のアッシュホロウは 1855年インディアンのスー族とアメリカ陸軍との激戦地。〉
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88-112221
アメリカンズの100年前だね。

インディアン戦争についてはこちら。
https://incidents.kogus.org/articles/RoNxa0Qh
同wikipediaならこっち。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E6%88%A6%E4%BA%89

ひでーなー。本当に酷い歴史だ。

ちなみにこの30号線、リンカーンロードって言われてて、独立戦争の名宰相と言われてるけど、一方でイギリス軍と戦い(東海岸)、一方でインディアンを虐殺していったって話(アメリカ中西部)。
https://bushoojapan.com/tomorrow/2017/02/12/94426
アメリカの歴史は虐殺から始まってる。
昔よく作られた西部劇映画でもインディアンは悪者として描かれてるけど、西部開拓史の陰に土地の収奪と虐殺とが隠されていることは、ちょっと考えてみればわかる。
となると、前のカウボーイの写真は、このインディアンの物語と対比してるってことになる。


Casino - Elko Nevada

日本では最近、巨大台風の被害が西日本で出てるとき、どさくさにまぎれて審議も十分せずにカジノ法案が決まった(ついでにオウムの幹部処刑でいろいろ出ていた政権の不祥事がまったくうやむやになってしまった2018年の夏。ショックドクトリンが最近ブームのキーワードみたい)。

アメリカではインディアン+カジノって、いま増えているらしい。もともと産業もない居留地からインディアンの離散が始まり、コミュニティと文化の散逸が起こり、それを防ごうとして居留地周辺の産業としてカジノが脚光を浴びているらしい。でも、それは最近のこと。1990年以降の話。
なんだ。前の写真とつながるかと思ったのに。

でもギャンブルほど運命を象徴するものってなかなかない。
これも前と同じく三角構図。画面の中に三角があって、この写真は光が当たってる所が3角のようになっているように見える。ランプシェードも3角だし。この女性は客かディーラーか?って思ってて、カジノは全くむちなので、よくわからないのだけど、たとえばこの肩をはだけたドレスの女性がディーラーだとして、じゃあ、女性ディーラーっていつからあるんだろ?って思ったら、思ってたよりも古くからいるようで、以下のページによると、

https://content.grosvenorcasinos.com/turning-the-tables/

1943年あたりからネバダ州では一般的になった、みたいなことが書いてる。ほー。すごい。他の州ではどうだったかわからないけど、ディーラーならちょっと珍しく感じたのではないか? なんて思ってしまう。
客ならどうだろうか? 一人勝ちしてる女性客をおおっとすげー!なんて目で男共が見ているなんて図式か。それも面白い1幕かも知れないけど、女性ディーラーの説をなんとなくとりたい気分。やっぱりドレスが扇情的で強いイメージのような気がする。その辺り、全くの不案内で、よく分からないけど。手にカップ持ってるように見えるし。
オマケにというか、こっちが本音なんだけど、これって東映の任侠映画に繋がるよね。以下この辺。

http://www.nagi-ijima.com/archi/6059
http://www.nagi-ijima.com/archi/6104
とか。
http://db.eiren.org/contents/03000000290.html
とか。

半か長か!なんてやるやつ。でだいたい色恋の話が間に挟まって、勝負と恋とをかけて、勝負を選んでしまう、なんてストーリー。ある意味、あの時代を象徴する一連の映画を思い出す人も多いんじゃないか、なんて思ってしまう。いやぁ。ワクワクもんですな。

P.S.
ムーランルージュホテル
https://en.wikipedia.org/wiki/Moulin_Rouge_Hotel
<The Moulin Rouge opened on May 24, 1955, built at a cost of $3.5 million.[2] It was the first integrated hotel casino in the United States.[2] Until that time almost all of the casinos on the Strip were totally segregated—off limits to blacks unless they were the entertainment or labor force.>

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