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誤読のフランク 第22回 組立ライン、会議場、トイレの靴磨き、セレブパーティ

Assembly line - Detroit

死の次は生産の写真。生殖ではないけど、生殖の写真なんて当時は出せないよね。

もしかするとこのシークエンスの前の十字架のシークエンスは神はあるやなしや、なんて話だったのかも知れない。いや、案外アメリカンズ全体でそのような意図があるのかも知れない。ここまで数枚の写真は重たかった。

そして、ここ4枚は貧富の話。多分。まだ分からないけど。
ひとつひとつ見てゆくと、大量生産時代の工場の単純機械的労働者。組み立て工。この写真は多分、車だとは思うけど、今はロボットに置き換わり、デトロイトも自動車工業の衰退と共に地盤沈下して長い。かつての自動車大国、自動車消費大国アメリカは、自動車生産大国でもあった。

今の日本でも(だから?)、単純機械労働は安い。おまけにほとんどが派遣労働で雇い止めや保証のない生活に追われることが多く、日本の労働者の4割を超えてきそうな単純労働者。ピラミッドの底辺は日本でも大きな問題だ(ほんとの問題はピラミッド構造のトップが年々酷くなることでもある)。格差社会。

で、車作る単純労働なんて黒人がやる仕事(差別的観点)だと言われていたのは、どれぐらい長い期間だっただろうか。いや、むしろ、この時代、自動車生産に従事するのはむしろ安定した仕事だったのではなかったか? この写真の中でも、白人の姿が見える。

今まで見てきたアメリカンズの写真の中で、自動車に関わる写真はどれだけあっただろう。労働が、車を作る。殖産興業の時代。大量生産の時代。

ルイス・ハイン(Lewis Hine)はエンパイアステートビルの労働者を誇り高く写真に収めた。
http://www.atgetphotography.com/Japan/PhotographersJ/Hine.html

しかし、ここにはエンパイアステートビルの労働者にあった誇らしげな様子はなく、人はブレ、はっきりとしない。
ああ、ここはどん底。って思って見ていると、奥に女性の姿も見える。
もしかすると、うーん。そうか。
男女、人種入り交じった環境は案外、これがアメリカのほんとの姿だ、なんて見えるかも知れない。

スッキリとした構図が多いアメリカンズの中ではごちゃごちゃした写真でもある。例の3分割の右側のフレーズはいつの間にか戻つて来ている。少し遡って見てみると、ひとつ前の十字架、聖フランシス、車で映画の写真あたりまで3分割の右側の構図は戻れるかも知れない。


Convention hall - Chicago

政治。会議場。なんの大会なんだろうか? いかにも、な人たちが並ぶ。これ、シカゴで、もしかすると最初の方に出てきた「ポリティカルラリー」の両手を挙げていた男が立つ背後の建物かもしれない。もう1枚「ポリティカルラリー」があるけど、全部同じ日の写真かも。

3分割の右側の位置でピントがあっている人物は候補者だろうか(ちがう)。その脇の男の細い葉巻とサングラスが目につく。むしろこちらが主人公のようにも見える。さらに後ろの席の男が葉巻を指すかのように指指している(リンドン・ジョンソン?)。後ろに続く顔、顔、顔。ホールのような、もしかすると映画館のように斜面があるのかも知れないが、会議場に椅子が並べられ多くの人が集まっている。多分ステージはロバートフランクの背後にあって、人々の最前列あたりから撮影したのだろう。

※たぶんリンドン・ジョンソン

そう言えば、さっき同じような感じの場所に遭遇した。アベノミクス三選目の自民党総裁選、渋谷の交差点で対抗馬の石破茂が街頭演説をしていた。政策討論会を逃げた首相側がやっとテレビに出て討論会を行ったが、首相自身の贈収賄的な行為を指摘され、散々な回答を行い、社会の趨勢は石破茂に傾いたところだ。明日自民党員の投票日だそうで、大逆転が出るかどうか、さぁどうなるものかという所。
人々が渋谷スクランブル交差点広場でいっぱいになって、語り手の言葉を熱心に聞いている。考えてみれば、そこで語り手が語る物語は、既に語り手自身によりどこかで語られてしまっている。政治の不思議な所は、街頭演説はその候補者の言説をどこかで耳にしているからこそ、応援する、群衆となって集まる訳で、音楽のライブとレコードやCDの音源との違いのような、そこにしかないこと、というのは主張の中には存在しない。現場でなければ出てこないような新しいビックリはない。新情報は密かにリークされて、新聞の片隅に掲載されるものだ。
だから、街頭演説には、そこでしか語られない情報はなく、あえていえば群衆を見る、群集を体感すること以外に「そこにしかない」ことは存在していないのではないだろうか。
CD音源かけて口パクのアイドルとかいる世界では、それもある意味ライブではあるだろうが、ちょっとこの差というものが面白いといま、思っている。余談だけど。(P.S.テレビで予想された通り、現首相が続投となった)

写真に戻ろう。
この写真が撮られたであろう、1956 Democratic National Conventionを調べてみた。

まず簡単にアメリカ大統領選挙の流れをおさえておくと、アメリカの民主党と共和党の二つの政党で、それぞれ両党の候補者を1人に絞る「予備選挙」がまず行われる。そして、それぞれの候補者から大統領を選ぶ「本選挙」がある。
wikiでは、Democratic National Conventionとは
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%85%9A%E5%85%A8%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E4%BC%9A
<民主党全国大会(みんしゅとうぜんこくたいかい、Democratic National Convention)は、4年に1度、アメリカ合衆国の民主党が正副大統領の指名候補を選出する時に開く大会のことである。略称はDNC。>

この民主党大会はシカゴのコンベンションホールで行われ、民主党の候補者が一同に会して、予備選挙が行われた。ぎゅうぎゅうに人がいっぱいで大盛り上がりだったそうだ。
The 1956 Democratic National Convention nominated former Governor Adlai Stevenson of Illinois for President and Senator Estes Kefauver of Tennessee for Vice President. It was held in the International Amphitheatre on the South Side of Chicago, Illinois August 13–August 17, 1956. (from wiki

同じ日に別のカメラマンに撮られた写真。
Harry Truman speaking at the Democratic National Convention, Chicago, Illinois, 1956 by Burt Glinn.
https://www.reddit.com/r/HistoryPorn/comments/2spj1n/harry_truman_speaking_at_the_democratic_national/

トルーマンが壇上に立って演説してるところ。

映像もあった。
https://www.youtube.com/watch?v=BPcaqQviTfM
これだこれ。凄い人。写真の後ろの方にうっすら見えてるのがやぐらとノボリだろう。こんなに大勢の人が集まってるのなんて、ロバートフランクの写真からは想像できなかった。ケネディも出てるけど、アメリカンズの写真の中にはないなぁ。ロバートフランクの他の写真にはケネディのポスターも撮ってたようだけど、60年代に写真集が作られてたらケネディは使われてたかも。
https://collections.artsmia.org/art/3757/chicago-convention-robert-frank

こっちの映像も凄い。
https://youtu.be/HVQv9XYJFvI
1:40辺りに左手に二眼レフ、右手にライカ(M3?)に長玉着けてるのが写っている。うわ。ロバートフランクは、こんな中で撮ってたんだ。。。


56年11月5日、これはアイゼンハワーが大統領に選ばれる(大統領選本戦)前夜の映像(Ike)
https://www.c-span.org/video/?418230-1/eisenhower-1956-election-eve-program

Adlaniはスチーブンソン
https://youtu.be/Zs9bH5A2AGk
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3
<アドレー・ユーイング・スティーブンソン2世(英語: Adlai Ewing Stevenson II, 1900年2月5日 - 1965年7月14日)は、アメリカの政治家。大統領選で二度敗北した(1952年と1956年)。ケネディ政権下では国連大使を務めた>

ちょっとこのあたり、調べられる情報が山ほどでてくるので、この民主党大会は別の意味で面白いタイミングだったのだな、と改めて思う。それにしてもこんな中を撮りに行ってるんだなあ。

Men's room, railway station - Memphis, Tennessee

あなたは客がトイレでションベンしたそのまま、いくら仕事だと言っても、そこで靴を磨けますか?
客は白人、靴磨きは黒人。

この写真は珍しく3分割の左側に中心がある。写真的に面白いのは2つの立てかけた箒とモップの角度と靴磨きの背中の角度の一致(白人の足の角度も)。本当はこの靴磨きの影を撮りたかったのかもしれない。

shoe shine boyは貧しさと陽気さの象徴として古くから歌われている。Youtubeで検索してみれば山ほど出てくるけど、まずは1952年発売の、江利チエミのバージョンを貼っておこう。
https://youtu.be/RjciJltiIuw
江利チエミいいなぁ。

ご機嫌な暁テル子の「東京シューシャイン ボーイ」(1951)。
https://youtu.be/Ejkt16MsxHs

たぶんいちばん一般に膾炙されただろう、有名歌手のバージョン。
Bing Crosby - Shoe Shine Boy - 1936 with Jimmy Dorsey's orchestra
https://youtu.be/u849SgDDT_o

この曲の特徴はどれも陽気なリズムとメロディで編まれてて、そこには、貧しい生まれの子供たちがなんとかして貧しい生活を抜け出すために、街端で靴磨きの小銭稼ぎからお金を貯めた、それを元手に違う商売を初めて、なんて話はざらにあった。
だから、この歌にはユーモアと明るさがある。
翻って、たとえば現代、子供が働くことは禁止されていて、子供にとっては、「いまこの目の前の地獄を抜け出す方法を選択できる可能性がない」状況なんじゃないだろうか。もちろん子供が働くことには反対だけど、喰えずに餓死してゆくとか、ダメ親に(社会的に)縛られて、そのせいで、虐待死してゆくような状況よりは、空き缶拾いとか古新聞回収とかの子供でもアルバイトができた時代の方が、もしかすると良かったのかもしれない。
この写真の靴磨きの男性の姿には、歌にあるような明るさはない。もう、ボーイと呼べる年齢でもない。

画面全体の明るさと対比するような、人物の暗い影。
左側に焦点があるのは前の写真が指さしている人物の位置と対応してる感じだろうか。
この4枚の写真の並びは、黒いトーン、白いトーン、白いトーン、そして、次の黒い、濃いトーンというように、交互に繋がる。

Cocktail party - New York City

右側の女性、とてもエリザベス女王に見えるけど、違うみたいだ。首の丸いドレスはとても古風。当時でも、少し古い感じもしたのではないかな。

セレブの輝かしい生活。画面下部の白い手元にの映り込みが気になる。マニュアルレンズを使っていて、よくやるのが、手の映り込み。小さなレンズであればあるほど、手もとが映り込みやすい。うっかり。あ、そうか。
この写真、なんか他の写真と違うと思ったら広角じゃないんだ。
50mmと28mmと35mmぐらいで撮られたものが多いと思うけど、この写真はもっと長い、75mmとかで撮られた可能性がある。もしくは50mmのトリミング?
もちろんここではロバートフランクが持っていたどのレンズがどうとかいうオタクな趣味は持ち合わせてないし、書くことはないと思うけど、なんとなく前の写真とかと違う雰囲気なのはもしかするとレンズの画角かトリミングかも知れない。

手前の白いのは誰かの頭の飾りかも知れないね。

多分ここに集まっているセレブ達はこの4枚の最初の工場の労働者とは全く接点はないだろう。その世界がどんな世界か全く想像もできないだろう。
もちろんトイレで靴磨きする人の生活など、彼らの埒外で1%対99%の話はどこかに書いた気がするが、この4枚の写真の幅はものすごくある。
いわゆるドキュメンタリー写真ではないけど、ロバートフランクはこの対比によって、社会の、断層を描こうとしたのかも知れない。
よく入り込んだよね、なんて思ったりするけど、案外手前の白いのは薔薇とかなんかの花で、生垣の外から庭の様子を覗き込んで撮ったとかいうオチだったりするのかもしれないけど、それは誤読としての想像に任せておこうと思う。

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