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誤読のフランク(改訂版) 第8回 ROCKの始まり(RFA-10)

Candy store - New York City

さて、出てきたジュークボックス。
ジュークボックスの周りにたむろするロカビリーヘアの少年たち。彼らのお気に入りはプレスリーかビルヘイリーか。

しばし音楽の話に付き合っていただこう。

ロバートフランクが旅をした1950年代半ばはちょうどいわゆるロックミュージックが席巻し始めた時代だった。以前、僕と友人が配信しているYoutube番組 東京四角階段 で、このヒット曲ばかりを集めて紹介したことがある。

以下、しばらくその時に用意した文章の再利用。

メジャーチャートでは55年の Bill Haley & His Comets 「Rock Around The Clock」をはじめ、56年に爆発したElvis Presley人気 、そしてエルビスと同じSanレコーズ発の音源群(いわゆるロカビリー)、R&BチャートではBo Diddley の「Bo Diddley」(55)、Chuck Berry 「Maybellene 」(55)、Little Richard の「Long Tall Sally」(56)などで、今も聞かれるオールディーズと呼ばれる楽曲の多くはこの次期にヒットしたものが多く、ジュークボックスに、最新の曲が入っていたのなら、少年たちはそうした楽曲を繰り返し聞いていただろう。

更に、少し詳しく書くと、1951年に白人DJのアラン・フリードによる「Moon Dog Rock'n'Roll House Party」というラジオ番組がスタート。この番組が黒人音楽を積極的にオンエアをし始めて、その黒人音楽を真似し始めた白人による、50年代のロックンロールの大爆発の契機となった。


ある意味、この推移には二つの面があって、黒人音楽がメジャーチャートに大量に食い込んで行った時期でもあり、黒人音楽で受けている曲を白人がカバーして、ある種の白人の黒人音楽搾取といわれるような形で、ヒットチャートが構成されてゆく形になったりもした。
Elvis Presleyの「Hound dog」のオリジナルは黒人の Big Mama Thornton。
Pat Boone や Elvis Presley の「Ain't That a Shame」はオリジナルが黒人の Fats Domino。といったようにだ。もちろんロックンロールのフォーマットで数多くの(白い)ヒットが生まれていて、それは1970年代まで続く、ロックのある意味、ダークサイドの部分でもある(それが後のソウルミュージックの発生につながってゆく)。

もう一方では Hank Ballard & the Midnighters の「Work with Me, Annie」(54)に対する アンサーソングが黒人白人混交で様々なバージョンが歌われたりカントリーを歌う黒人など、黒人音楽と白人音楽の融合などが顕著になってきたことがあげられる。この辺、一筋縄でいけないのは、商売と絡んでいるから理念的に観念的にどちらが差別的だとかいうのはあまり論点として有効では無い。ウケた方が勝ち的な部分だ。


1950年代半ばは、今でも残る「古き良きアメリカ」的なポップバラード群もあり、ジャズの影響も多い。(ちなみにMiles Davisは1955年、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズのメンバーで、第一期クインテットを結成。56年にアルバム「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」)などなど。

〈音楽ギークネタ終わり、写真の話に戻る〉

つまりって簡単に要約すると、この時代は、大衆文化の爆発の年だとも言える。今の大衆文化の基礎がこの時代のアメリカにあったといえよう。

最新の文化というのはジュークボックスの中や、ファッションにあった。もちろん前のページの「映画」というのもそうだ。
当時、まだテレビは家庭に普及していない。その代わり、ラジオ文化は今より大切なものであった。公共の場所では、ジュークボックスは音楽を共有する宝庫だった。音楽はまさに、写真に写らないものの嚆矢だ。

ロバートフランクはここでも見えないものを撮ろうとしているように見える。いささか見ようによっては女性器にも見えるジュークボックスの装飾の前に年端もいかない少年たちがたむろしている。格好はリーゼントに革ジャンではないが、できるだけカッコつけた様子で、最新の音楽を聴くことが、すなわちファッションだったという多分ポップミュージックが始まり、この時代から90年代に至る頃まで続いた美意識が、ここにもうあるのだ、なんて感じてしまう。

では、彼らは何を見ているのだろうか。
音楽を楽しみながら、ただ聞いていた訳では無い。
かつて、音楽に没頭したことある人には多分実感として分かるだろうこと、それは、彼らは音楽の中に没頭しつつ、彼ら自身を見ていたのではないだろうか?
音楽のその向こう。歌詞とメロディとリズムの先に僕らは音楽に自分自身を投影していたはずだ。若々しい混沌とした感情を伴って、僕らはそこで歌われる激情がまるで自分の事として快楽を得ていた。彼らもきっとそうだっただろう。
何十年経とうが、中二病は世界中あんまり変わらないんじゃないかなと。思春期がある限り、僕らはもう、ポップミュージックと切っては離せぬ縁を結んでしまったのだ。
そうなんだ。この写真が撮られた年辺りに。

視線の入れ子構造はここでは、更に複雑化していて、キャンディーストア(駄菓子屋)の入れ物。ジュークボックスを中心とした音楽の空間。彼らの友人たちの仲間の空間内の視線の移動。彼らは彼ら自身の若さを見ている。それを通り過ぎながら大人の女性が見ている(子供たちの母親?)。
それぞれの視線を追ってゆくと複雑なラインが引かれる。今までの比較的にストレートな視線から、急にややこしく、僕らは見られてるような気分に落ち込むのだ。
実際に一番手前の左側の少年はフランクを見ている。

前の2枚から印象的なキラキラとした電光が、反射の強い壁のレリーフに繋がり、ここではジュークボックスの装飾に繋がっている。じっくりと視線の流れに引かれながら、この写真を見ると、じわじわと情感のこもる写真なんだなと改めて思う。

Rock Rock Rock - Alan Freed and Rock n Roll
https://youtu.be/t1GmNhxnEck

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