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「生き急がない勇気」

人生は短いから、基本的に生き急ぐものであるべきだと今でも思っている。
2023をどんな年にしようと、1月からもやもや考えていて、思い立って久しぶりにnoteを書く。
突っ走っていると、止まるのが怖くなる。
忙しい状態を維持していると気付きにくくなる、大事なものを見失わないために。


年末年始は、決意表明が飛び交っていた。
年賀状代わりのSNS投稿で決意を新たにする人も多い。新年会でなにかと頻出する話題でもある。

ぼく自身は、決意表明は聞いている方が楽だ。
というか、話したくない。

「2023年はどうする?」と言われたら
「毎日好きな人たちと楽しく生きる!」とか「大人にならないようにする!」と答えている。
薄目で見ると正しいような、当たり障りないことでその場を濁すようになった。

有言実行から、不言実行へ。
ここ数年、あえてぼくはそうしてきた。
「口だけ」になるのがこわくて。自分に嘘をついている気もして。
決意を表明するという、
どうでもいい小さなプレッシャーすらも避けはじめた。

「自分の力」と「ありたい姿」。
現在地と未来が遠すぎると気づきにくいこの差は、いざ近づいてくると結構離れていることを感じたりする。

プロ野球選手になりたい小学生は野球少年のほとんどかもしれないけど、
プロ野球選手になりたい高校生は、甲子園に出れるような強豪校のレギュラーでも多くない。
もちろんプロになれるならなりたい。
それでも、今後自分の力で到達できそうなレベルと、プロ野球が求めるレベルの差を、夢が近づいたことで見えてしまったんだと思う。

自分もそうだった。
広告会社に内定したときは恥ずかしげもなく海外賞でグランプリを獲るとか、クリエイターオブザイヤーになる!といっていた時もあった。  

そもそも、新卒からクリエイティブ配属にすらなれなかった。営業だった。
1年目の朝、僕は広告掲載された新聞をコンビニで購入し、広告に付箋をつけて客先に届けてから始業時間の会社に向かった。
大学卒業してすぐ、22歳だった。自分がありたい姿から遠ざかるのが音を立ててわかった。

新聞を届けた後、カフェベローチェで180円のコーヒーとともにタバコを吸いながら、
どう今の環境で学ぶか、どう出るか、どうクリエイティブに異動するか、どうすれば独立できるかを考えた。
うちは家族全員自営業だからか、商人の家系。
10年後の2022年には独立して自分でやっていこうと決めていた。
独立するなら何かの専門家になるしかなくて、企業の売り物に頼らず自分の力で稼げるようにならなくてはいけない。
だから、クリエイティブに行くことは絶対条件だった。

クリエイティブは、人気だから狭き門と言われることが多い。
営業の先輩と飲んでても「最初はさ、おれも行きたかったんだよね」となだめられるように言われた。
周りの意見は関係ない、道はないわけではない。
ずるい方法でもいいから絶対に異動したかったんだ。

特に口に出すこともなく淡々と黙々と、
「こいつはクリエイティブにいかせるべきだ」と思われるにはどうしたらいいか考えた。
仕事の合間に、自腹で講座に通い、広告賞にも顔を出し、本はだいたい全て読んで、クリエイティブの先輩の会議に出させてもらい、公募のコンテストに応募して、やっと1つ賞も獲れた。
応募したものは今見ると恥ずかしいくらいつまらないものもあった。賞を獲れてないものがほとんどだから。
でもその大量の応募作品が、営業の本部長が「もう出てもいいよ!」と、クリエイティブ本部長の「こいつは伸びそうだ」の心を動かせた気がした。
クリエイティブに評価されることよりも、実はこの「もう出てもいいよ!」が大事で、去る人間こそ、たぶん応援されて出る方がいい。転職もそうに違いない。
営業の本部長は出したくないけど出てもいいよって言ってくれた。
営業は今でも得意で、手を抜かずに成績も評判もよかった。
今となっては営業経験が武器になっている。

そうして黙々とやってきた結果、
異動と独立も、履歴書だけを見れば、設計通りに進んでいる。

今年は、34歳になる歳。
昨年独立し、ありがたいことに仕事の量は順調だ。
30歳までに努力して溜め込んだ引き出しで、いまの仕事をしてる。
でも、22歳の時に思い描いていたクリエイターではないこともわかっている。
当時の夢は頭の片隅にありながら、自分の手がギリ届きそうな中で、自分の活きる道をいまだに探している。

目の前の仕事に対して「仕事があるだけでありがたいことです」というフリーランス定型文を発して喜んでいいのか。
ある程度お金が稼げていたら、満足してしまうのだろうか?
本当の僕の使命とかやるべきことはなんだろう、と強く思うのが独立した後の話で、
今の僕には、新たな決意めいたものが必要な気がしてきている

一方、決意表明は意味ない説がある。
数年前から、マッキンゼー元日本支社長 大前研一氏の言葉が刺さっていて、それもぼくを有言実行から遠ざけたが、
決意をするだけではなく、そのためになにか行動を変えた方がいい、と言うのはもっともだ。

人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を具体的に変えない限り、決意だけでは何も変わらない。


昨年は独立して、10年間の会社員が終わった。
「時間配分」と「付き合う人」が変わった。
家はそのままだけど、週の5日働く「住んでるみたいな場所」は渋谷になった。

独立してからは見栄えは順調でも、
よくない方にも変わってしまったこともある。

やめてからもっと業界で存在感を出したくて、たくさん仕事してるなあと思われたいがために、選ぶことなく「なんでもやる精神」で大量の仕事をした。
SNSに自分の仕事を載せまくって、小さな会社の自分の存在感を出したかった。
思えば、そんな感じでずっと生き急いできていた。停滞することが怖かったから。

でもこれではいけない。
仕事ばかりやっている場合ではない。
生き急いで目の前のことだけをがむしゃらにやるのは停滞しそうな自分から目を背ける最高の言い訳で、
それこそが本当の停滞だと気づいた独立1年目だった。

30歳までに溜め込んだスキルをただ使いまわしていたんだろうなあ。
これからもそうなってしまうのがこわい。

だから、
今年はさらに時間配分をガラッと変えることにした。平日の1日分をそういう日にする。
本を読んで、映画を観て、ふらっと旅をして、写真を撮る。
仕事をしてるだけで出会わない、いいものに触れたり、違う価値観を取り入れたりする。

ある程度の仕事がそれなりにできてしまう今、
まだぼくの片隅に残る、純粋なクリエイティブ精神の方を育てないといけない。
そうしないと、40代以降を乗り切れない気がする。
いまぼくに仕事がくるのは、比較的若くて動きが早くて、クリエイティブ以外の事業や経営も網羅して話せるから。
それはそれで稀有かもしれないが、一言で言うと、便利屋さんなんだろうな。


今年は、勇気を持って、生き急ぐのをやめようと思う。
それは停滞じゃないと、言い聞かせて。
業界で一時的に自分の存在感が減っても、大丈夫だよと言い聞かせて。

高く飛ぶためには、一度深くしゃがまなきゃいけない。
2023年は、充電の1年。
開放するのは、もうちょっと先だ。

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