時を刻むもの。(2)
その腕時計の存在は、私の心の隅に残り続けていた。
流行り物ということもあり、アクセサリー屋の至る所でその腕時計はあった。でも、買う勇気だけは持てず、眺めるだけだった。
彼女にあげたい…
彼女じゃない私が、自分で買ったといはいえ、身につける気にはなれなかった。明らかに、あーるくんを狙っています、と宣言しているようで。
月日は流れ、ある時、あーるくんが珍しく弱音を吐いた。
「本当に大丈夫なのか。自分が信じられない…」
あーるくんの、専門学校で行われる卒業試験。それはとても難解問題が多く、そんな問題の中でも合格点を超えないと留年するというものだった。
その試験の重みで潰れそうなあーるくんを、少しだけ外に連れ出した。
半日ほど、ただお喋りするだけ。悩みを聞くだけ。大した事はしていない。
特別なことをして、頑張って!!と応援するのは、何か違うと思った。いつも通りに過ごして、リラックスしてもらおう。それだけを考えて、一緒に過ごした。
そして、クリスマス後すぐだったこともあり、私はあーるくんにプレゼントを送った。
それは、あーるくんがずっと欲しがっていた香水。
「この好きな匂いで元気だして。あーるくんは、ここまで頑張ってやってきたんだもの。心配ないよ。」
「ありがとう!ずっと欲しかったやつだから嬉しい…! 頑張るよ。」
あーるくんには、笑顔が戻った。いつもの、明るいあーるくんがそこにいた。
ただ、話を聞いて、ただ、プレゼントをして。
私がやったことは、とても小さな事。でも、それが、あーるくんにとって、大きな安心になったようで、私はとても嬉しかった。
続く。
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