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モノホンの引きこもりが富士山に登った話

富士山に登って降りてきたという話。
書けば1行で完結するのだが、記念ということもあってダラダラと書きなぐって置こうと思い筆を執ることにした。

富士山 標高3,776m 俺 161cm
なんで比べたのかはよくわからないが、まぁそういうデカさの対戦相手になる。別に戦いたくなんかなかったんだけど、そうあれかしと叫ばれては仕方なし。†AMEN†

富士山の詳細スペックは調べればでてくるので割愛するとして、対戦相手はどれくらいのスペックかというと
・31歳男性(肥満)
・仕事はデスクワーク
・一日100歩くらい動く
・休日はゲームかパチンコしてる
・無気力
・登山経験は高尾山と大山のみ
こんな感じ。しかも直近に40度近い高熱を出してて1週間ずっと下痢してた。PCR検査したけど陰性だったので謎の奇病ということで片付けた。

友人が富士頂上のご来光を見たいということで、1ヶ月ほど前に生返事で参加の旨を返事したら、登山最終日に登ろうという話になった。
1週間ほど前になり、流石に装備を何も揃えないのは山と周辺の方々に失礼だろうと思い装備を適当に揃えることにした。
ちょうど思いっきり熱を出していたので、そもそも行く気もあまりなかったが、行くとなった際に迷惑をかけるのもよろしくないので、本当に適当な装備調達をしてしまった。
ここで健常な判断ができていれば、この後待ち受ける地獄も少しは上の層になっていたのかもしれないが、全ては終わった話。多くは語るまい。

ここで当日の装備を軽く紹介する
・ヒートテックのロンT数枚
・タオル1枚
・短パンにレギンス
・換えの下着
・Tシャツ
・ステテコ
・トレッキングシューズ
・防寒フリース
・ブーニーハット
・ワークグローブ
・レインウェア
・ヘッドライト(当日忘れた)
・薬
・貴重品
ざっとこんなもんである。行く前も今も共通して舐め腐った装備だと思っている。高尾山と勘違いしてんのか?

登山プランとしては
・金曜日夜から静岡に前入りして仮眠
・土曜昼から5合目に入り7合目の日の出館にて仮眠
・夜の間に頂上まで上り、明け方前にご来光を待つ
・なんやかんやして下山
大雑把に書くとこんな感じ。ルートは吉田ルートで、聞くところ一番簡単とのことだったので、きっと傾斜も緩い道が続くはず。

前入り仮眠ではサウナの聖地であるしきじにお邪魔して、気持ちよく仮眠を取る予定だったが、到着が遅かったため当日はサウナを使えずそのまま仮眠することに。翌朝早起きしてサウナに入り、最高に気持ちよくなった話は気が向いたら別の記事で書こうと思う。キーホルダー買っちゃった。

そして車にて5合目の富士スバルラインに入り、登山開始である。
厳密にはスバルラインの手前の駐車場に車を入れたのだが、売店エリアまで結構距離があってすでに汗ダラダラの状態で登山道入り口に到着した格好になる。
ちなみにパーティメンバーはおんなじようなスペックの陰キャ4人で、合わせて5人衆となる。とは言っても運動量でいえば自分が一番下になる。
どうせ俺だけ7合目で死んで引き返してくるだろう。2合くらいは登ってやるさ。
持ち込み飲料水は500ml x 3, 行動食にマカダミアナッツチョコとゼリー飲料1つを道中に調達して準備完了。対戦よろしくお願いします。

―ここから月曜日までの記憶が断片的なので、記す内容は断片的となってしまうことをお許し願いたい。

まず6合目を目指してひたすら歩く。下りと上りが混在していて、登山とは?という疑問が頭から離れない。日はさんさんと照り、雲に手の届くような不思議な道だった。まだ植物も存在して山の中にいる感覚が強い。
上を見ると大して高さも残っていないような気がして少し気が楽になった。
スバルラインの地点で標高2305m 引き算すると1471m登れば良いのだ。
なるほど贅沢なハイキングなのかと楽しげに登っていく。
地獄の1合目であった。

6合目に到着。もうヘトヘトである。標高2390m あと1385mくらい。
???
100mも消化していないのだ。6合って6割って意味じゃないの?
よくわからんけどあと1合登れば今日のところは休めるので、何も考えないことにした。考えるというのはとてもエネルギーを消費するので、訳の分からない状態になった場合は熟考して出した解に向かってみるというスタンスだ。それでも明るくならなければその時に考え直せばいい。
まずは7合目。これは鉄のルールだ。痛い足を前に出し先へ進むことにした。

ここで文章だけでは伝わりにくいと思われるため、今回登って帰ってきた吉田ルートの概要図を紹介する。
https://trickytour.jp/fuji/special/yoshida.html

吉田ルートの概要図である。仮眠をとるためにまずは7合目日の出館を目指す

実は上りの際、こういった概要図を見ることで絶望しないようにしていたのだが、改めて見ると恐ろしく意味の分からない図である。
なんで下って登ってんだよ意味分かんねぇだろ。
急に縦に登り始めるし、納得の行く説明が欲しい。
行ったところで登山道はくねくねしてくれないので、まずは次の山小屋である花小屋を目指した。睡眠を取ることを考えればここで全力を出してもいい。とりあえず7合目に入りさえすればいい。
すでに足は上がらず汗でビシャビシャという状態。早急に着替えねば日が沈んだことによる気温低下で即死まであると判断していた。
低気温で水分を取るのはまずいので、ある程度先を見越して500mlほどこの時点で水分を摂ることにしていた。

そして7合目途中、ただただ崖を登っていた。岩に手をかけ3点確保。
後に知ったがマナー違反らしい紐や鎖を補助に使ってなりふり構わず上へ上へ。素人向けの登山って先へ進むものであって上に進むものじゃないと思うんだよね。誰でも登れるとか書いてあったけど上に進むのは違くないです?

そして山小屋が見えてきた。もう完全に日も落ちてこれからどんどん気温が下がっていく。なんとしてもその前に睡眠と着替えをしなくてはいけない。
時間にして多分16時頃だったと思う。
初めて山小屋を見たが、おもったより狭い場所に建てられている。
そして人が多い、間違って手すりに変な力が掛かったらそのまま転がっていくのではないかという微妙な恐怖が常に漂っていた。
一応高所恐怖症なので何度も落ちる絵を思い浮かべたが、落ちるときはどこにいても落ちるのでもう割り切ることにした。無駄な思考はただ疲れるだけ。死ぬなら勝手に死ねというスタンスである。

もはや余裕などとうになく、ただただ仮眠と体勢を整えることだけを目標に日の出館に向かう。岩。岩。岩。休憩。岩。休憩。寒い。寒い。岩。
どうやら着いたらしい。よくわからんが生きてはいる。寒い。
入り口に腰掛けると、奥に囲炉裏がある。畳があり飲料も食料もある。
人の営みは温かいという言葉の意味が体感を伴ったのは初めての体験である。中へ入ると囲炉裏の暖かさが染み渡る。早く着替えさせてくれ。

なんと日の出を見るにはここを22時頃に発たねばいけないとのこと。
せめて1時位までは睡眠が取れると考えていたので絶望した。
よく冗談で絶望と言いがちだが、絶望した。4文字あれば十分伝わる。
体調もめちゃくちゃだったので、固形物を摂ることにかなり抵抗があったが、消費カロリーを考えると室内にいる内に多少食べておいたほうが良いと判断しおにぎりを食べることに。本当はカレーが良かったが腹を途中で壊すリスクだけは取れなかった。

着替えも済ませ飯も食べ、足りないカロリーをコーラで補いつつ仮眠。
どうか起きた時に発熱してませんように、カロナール飲んで続行できる気が全くしなかった。みんなここで引き返す気など無いのだろうか?
此処から先は本当の地獄が待っているのに。早く寝よう。

寝汗で起きた。こういう時は2パターンあって、めちゃくちゃ調子が良くなったか終わったかのどちらかであるが、今回は幸いな方であった。
いそいそと防寒装備に換装し、覚悟を決める。さようなら。
何に別れを思ったのかは知らんが、何が起きてもいいつもりだった。もう知らん。なるようになる。
着いた時は前線基地だ~とか言ってたけど、今になって述懐するならここはシーカーキャンプでしかなかった。安全度も全体の進捗もまだその程度であった。
ここを超えるとまともな休息はもう取れない、引き返すのも困難である。
ヘッドライトを付け、いざラストダイブ。

いきなりの岩。流石にウケるw バカすぎて笑っちゃうね
登山道って岩に書いてあるのは気を紛らわすための気遣いなんだろうか。
腹が立つと余計な体力を使うので後で考えることにした。岩を登るのは外道だろうが。みんなも普通に登ってんじゃねぇよイライラする。
と言ってもこの流れで登らないのも意味わからないので、ひたすら無心に登る。だいたいこの辺で2600mくらいだろうか。
昼から登って休んでたとは言え400mってどういうことだよ、高尾山ならもう温泉入って帰ってるところだが???
とりあえず八合目まで・・・考えるのはそれからだ。

あまり覚えていないが八合目らしい。標高3040m。
ここらへんから上昇不可がすごいので、高山病に気をつけなければいけない。実際は七合目から危ないので、山小屋で仮眠を取っていたのだが、ペースを乱せばすぐにでも呪いが発症するのは体で感じていた。
布団の上で死ねるとは思っていないが、こんな意味わからん山の途中で死んでたまるかクソボケという感じであった。

ここでパーティの1名がアビスの呪いにかかってしまう。高山病だ。
通りがかりの探窟家に酸素ボンベを譲っていただいたことで事なきを得たが、まずいことになった。もう一人も今のペースのまま行くとヤバそうだ。
この辺りから頂上でご来光を見るために登れるチームと、どこでもいいからご来光を見つつ、ゆっくり頂上を目指すチームに分離することにした。
個々の目的を潰し合っては登山のモチベに狂いが生じるだろうし、全体を活かすために2人殺してしまっては元も子もない。

ここで俺の作戦目的が決まった。全員で頂上から下山し切ることだ。
2名は現在のコンディションを考慮してもご来光までに山頂を目指せるペースを維持できると判断して、俺はヤバそうな2人と頂上を目指すことにした。足のダメージについてはペースを落とせばまだ折り合いが付くが、呪いについてはマジで命の危険があるため、本人の意志を最大限尊重することにした。ここは八合目の山小屋(多分太子館)、最悪日の出までここで匿ってもらえれば・・・
しかしそんなケアを受けられるような気配はあまり感じられず、まだ日の出まで時間も残っている。こんな状況で一人残していくわけにも行かず、体温低下のリスクも考えると、ゆっくりでも体温を維持できる程度で登り続けたほうが安全なのではないか。非常に難しい判断である。
以上の旨を説明し、正直に待つか進むか選択してもらうことにした。
まだ余力は残っていると言うことだったので、その言葉に従って体温を維持しながら行けるところまで進むことにした。
おそらく九合目あたりで日の出を待ち、気温が上がってから山頂で休憩するのが安全だろう。思えばこの判断は英断だったとも言える。
自分も防寒対策が甘かったので、急激な体温低下を懸念していた。

この辺りから汗をあまりかかないことに気がついた。
気温も低く湿度も低いからなのだろうか、混雑からペースが遅く汗をかくほどの移動ができないからなのだろうか。わからない。
とりあえず次のチェックポイントを目指そう。残り700mだ。
3000mを突破した事を誇りつつも、二度と登りたくないので禍根を遺さないように今回の登山で仕留めきるのだ。もはや明確な殺意しか残っていない。

長い。ひたすらに長い。道を覚えていないが一生歩いていた。
本八合目ってなんだよ意味わかんねーな。ちゃんと10等分しろや。
しかして進む他無い。ゆっくりでいい、歩けば進む。進めばいずれ着く。
あまり水分は摂れない。体温が下がってしまうからだ。
更に過酷になる前に行動食を摂っておくことにした。
下半身の痛みは感じなくなってきていた。もう知らんどうとでもなれ。

蓬莱館をみて、ここが富士山ということに気がついた。
帰り道のことを考えたくなかったので、火口に捨ててくれと思った。
標高3150mの事だった。

白雲荘。標高3200m。
生家の近所に築80年くらいのクソボロアパートがあったのだが、白雲荘という名前だったな。引っ越したし祖母も亡くなってしまい、もうあの辺に立ち寄ることもないだろうな。少し寂しいけどそんなもんよな。
アビスの呪いは自分には降り掛からないようだ。気を抜かずに呼吸を意識しつつ手足の動きをコンパクトに。残り500mだぞ

標高3370m
本八合目には売店もあり、他のエリアと違ってかなり開けている場所のようだ。まるで慣れ果て村のようだった。異界とはいえ人の営みが確かにそこにはあった。ありがたい。ありがたい。
そろそろ腹の中側から温めておかないとまずいと判断し、スープを飲みつつここでコンディションを整えることにした。
ここまでくれば最後の詰めだ、あと400m
アビスの呪いはもう降りるまでつきまとってくるだろう。肺に違和感を覚え始めた。自分はまだ大丈夫。
酸素ボンベの補給もできて、PTメンバーもなんとか持ちこたえているようだった。ここでしっかり休んで決着を付けに行こう。
ちなみに横にいた外国人のおねーさんは上昇負荷で盛大にゲロってました。
仕方ないし可哀想だったが、今の自分達に何ができるわけでもなく、一人ではない様子だったのでそっと見守るだけだった。無理はしないでくれ、と。

御来光館。八合五尺。標高3,450m。
八合だとか本八合だとか八合五尺とか小賢しいんだよ。均等に10等分しろや。
おそらく六合目からここまでが富士山の割合を多く占めている気がした。
それくらいに過酷ではあったし、長かった。無限に出てくる山小屋がそれを助長していたようにも感じた。
そろそろ日の出も近い、登ろう。山頂で日の出を見る必要はないが、行けるところまで行こう。

鳥居が見える。あれが九合目らしい。だからなんだという話である。
標高3600m。射程に捉えた手応えを確かに感じた。
奥に見えるあれが頂上なのか?しかしもうPTは限界である。
ここで休憩がてら日の出を見届け、気温が上がったところを山頂まで上り休憩してから下山しよう。

まもなく夜が明ける。
夜が明けるとどうなる?
知らんのか?
日が昇る。

別に景色にどうこうと感じることもなければ、そんな余裕もないのだが、アレは確かに凄まじいものだった。
ネットでいくらでも見れるが、自分でこれを見に行ったんだなと後になって思い返すこともあるだろう。そんなものだった。
これが毎日発生しているのか、すごいな。
さっさと山頂でタバコ吸いたいので、終わらせよう。

標高3710m。吉田口山頂に到着。
登山期間の最終日だったので、売店などの施設はすべて閉まっていた。
日は昇りつつあるので暖かさはあるが、まだ寒い。
山頂でカレーを食べることをこっそりモチベーションにしてたので激萎えである。もうひと思いに殺せよクソ。
PTメンバーも死にかけの身でよくぞここまで・・・3人でお互いを称え合いしっかりと休憩し、写真を取ったりなどした。確かに登りきったんだ。
なんか奥の方にもう少し登れる丘みたいのがあったけど、クソどうでもよかったので無視して下山することにした。時間の無駄だろバカくせぇ。
※お鉢めぐりを否定しているわけではなく、コンディションを鑑みての判断になります

本八合目の売店で飯が食えるのではないかという期待とともに下山。
急に勾配のきつい坂道が無限に続いていて、この道作ったやつは明らかにバカなんだなって確信した。
上りの時点からバカな道が続いていたので、今更バカの相手をしている余裕などなく、無の状態で下り続けた。自然と喧嘩しても無駄。
本八合目で先行のPTメンバーに合流。坂に寝転がって日向ぼっこしていたのが本当に腹立たしい。

1時間30分ほど差があったようなので、先に下山しているとのこと。
会話を交わす余裕など到底無かったので、では五合目でと言い残してすぐに山小屋へ駆け込んだ。
なんとカレーライスが存在した。残念ながらコーラでしゅわしゅわすることはできなかったが、やりきりカレーのコンボはつながった。
筆舌尽くしがたいレトルトカレーを食べ、勝手にエンドロールが流れていた。もうそのままエレベーターで下ろしてくれ。
ここまで来るのにもかなり足に負荷をかけているのでしっかり休むことに。

ここから先は山小屋もなく延々急勾配の砂利道を下っていくのだが、本当に下山する人間に対して優しい道とは到底思えなかった。
そもそも基礎体力がない人間の登山を想定していないと正直に言えばいいのに、誰でも登れる~みたいなフレーズが節々に出てくるのが殊更に不快であった。
今は文章で軽く書くにとどめているが、この下山の最低加減が富士登山を二度としたくないと思わせる確定的な要素だった。
登頂の心地よい体験がこの下山によって完全に上書きされるほどにそれは強烈だった。登山期間の最終日というのもあるのだろうが、そもそも下山ルートに山小屋がないのである。
ここは登山好きな方に配慮してこれ以上言及しないように務めるが
下半身の終わり
日焼けというか熱傷
水分不足の熱射病
終始つきまとってくる蜂
無限に続く砂利坂
下りなのに上り道
こういうクソバカな下山ルートの果てにスバルラインへと戻ってきたのであった。

もうここでしゅわしゅわできなかったら自殺するかもしれないレベルで体がコーラを欲していた。そして自販機に存在したので最初で最後の富士下山コーラを飲んでタイマーストップです。対戦ありがとうございました。

PT全員が合流し、なんでか知らんが箱根の旅館で一泊し、月曜朝に帰ってきてそのまま仕事してました。
人生三本の指に入る激闘でしたが、全員無事で何よりです。

この記事を見てどう思うかは知りませんが、必ず体調を整え体を作った上で、装備を妥協することなく登山するように心がけましょう。
いずれかを怠るとこの記事のようになります。
あと、別に登れる高さまで登るでいい気がします。下山が大変なので。

記憶が薄れない内にと筆を取ったものの、もはや覚えていることの方が少なく、いろいろな記事を見ながら補強して書き連ねる形となってしまった。
それだけ余裕がなかったという事実なのだが、こうも記憶が曖昧だと果たして本当に登山したのだろうか?
今となっては定かではないが、数枚の写真だけが事実であることを物語っていた。
                             了


ひとつだけお願いがあります ここにあるクソみたいな駄文たちのこと、時々でいいから…… 思い出してください