てんぷら

天ぷらをフライと呼んでいた土色の家で
てんぷらと呼ばれていたのはじゃこ天だった
くずしとも呼ばれていたその練り物から流出した
美味という普遍性は
ナポリタンの緋色に憧れていた
土色の壁にかこまれた網膜には映らなかった
じゃこ天を美味しいとおもえたのは
本物の天ぷらをてんぷらと呼んだときからだった
しかし祖母も叔母も天ぷらを知らなかったはずはない
彼らは子どもにたいして
じゃこの天ぷらと長く発音するのが面倒だったのだろうし
調理にさく時間をすり潰すその時間が無かったのだろう
だから
あの土色の小判形のくずしをおいしいとおもえたのはきっと
調理というものをおぼえたそのあとだったんだろう


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