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農業技術を覚える基本は「対象の不均一性」を認識すること

アダム・スミスの「国富論」に「農業者」がいかに判断力に優れているかについて書かれているところがあります。

「美術や自由職業と言うものついで、この職業(農耕)ほど種々様々な知識と経験を必要とするものはおそらくないだろう」

「農耕の多様で複雑な作業について、通常の農業者が持っている知識でさえ、それを我々がこうした書物から学ぼうとしても、とうていできない相談である」

「これに反して、普通の機械職人の職業となると、すべての作業が図解された文章で表せる」

「真鍮と鉄を加工する人の場合は、使う道具も加工する材料も、その声質はつねに同一またはほぼ同一である」

「ところが一組の馬か牡牛を使役して、土地を犂で耕す人にとっては、その作業で用いる用具は、その時々に応じて、丈夫さ、強さ、性質が非常に異なるものである。その上、彼が加工する材料の状態も彼が用いる用具と同じく変化しがちなものであって、いずれも十分な判断と分別をもって管理される必要がある」

まあ、現在は、クワとか鎌みたいな農機具については、自分が使っているものについては、常に同一だと考えてもいいかもしれません。

ただ、スミスが「材料」と述べているもの、これはスミスが言う通り、常に同一ではなく、変化しがちなものです。

つまり、工業において、「鉄」を加工しようとする場合、その作業の対象となっている「鉄」は、常に均一なものが供給されています。

ところが、農業の場合、鎌で草取りをすると言っても、その草は毎回違う、同じ日に「同じ場所」で草取りをするのでも、目の前の草とその隣の草は違う、目の前にあるのは、ほふく性のツメクサで、その隣にあるのは、叢生のスズメノカタビラだったりする、ツメクサの方は、茎や葉がその後方にあるハコベと絡み合っていたりするし、根の方も他の雑草と絡んでいる・・・

これらの雑草がニンジンの畝に生えている場合、ニンジンを傷つけないで草を取るのは、相当、慎重にやらないといけないわけです。

もうちょっと「楽」な作業、例えば、種まきにしても、地面は均一になっていない、自分では平らに均したつもりでも、場所によって土くれがあったり、凸凹があったりする・・・

「同じ」場所はないわけです。

僕は菜園教室や講座でどういう風に伝えているかというと、先に書いたニンジンの畝の草取りだったら、畝の外側、つまり、ニンジンが生えていない場所の草をまず取りなさいと伝えます。

すると、外側からツルや茎が畝の内側に伸びていたものが除去されます。そこで、多少、畝の端に生えていたニンジンが見えることがあるわけです。そうしたら、そのニンジンの隣の草を取りなさいと言うわけです。

そうすると、その「隣の草」の広がっていたツルや茎、葉がなくなるので、別のニンジンが生えているのが見えてくることがある、

こういう風に徐々に雑草の茎やツルを除去しながら、ニンジンが生えている位置を明らかにして、次の草を取る・・・

こういう指導をしないで、「ニンジンを傷つけないように注意して草を取りなさい」と言っても、初心者の人は、「何を」「どう」注意していいか分からない、結果的に「あ、間違えてニンジンも取っちゃった、ゴメンナサイ」的な事が繰り返されるだけになります。

種まきについても、特に地面にマルチと言うポリシートを敷いてある時に起きるのですが、種をかなり深く埋めてしまう事があります。

マルチが地面から「ちょっと」浮いている場合、その浮き加減は、地面から2センチぐらいになっていることがあります。その時、マルチの穴底に指を縦にして、「種まき穴」をつけるとすると、その種まき穴の深さ自体が2-3センチになってしまう、

その状態で上から土を被せて、マルチが地面から「浮かない」ようにしたら、実際には、種は5センチの深さに埋められたことになる・・・

こうなると深すぎて、種は芽を出す前に力尽きてしまう・・・

だから、基本的に、指を縦にしてまき穴をつけない、まき穴を指でつけるなら、指を横にして、指の腹で「ちょっと」窪みをつけるだけにする、え?、こんなんでいいの?と思うぐらいの「ほんのちょっとの窪み」に見えて、実は1センチぐらいの深さになっている、

つまり、一つ一つのまき穴をつけるに際して、「実際に」種がどの程度の深さに埋められるかを認識することを伝えていくわけです。

僕は農作業について、長年の修業をしなければ覚えられないとは思っていません。

菜園起業大学の場合でも3-4年やれば、自立して農園運営ができるようになるだろうと思って、カリキュラムを組んでいます。

ただ、短期間で覚えるために重要な事は、農業の場合、「対象が不均一」であることを認識することだと思います。

草取りをする場合、ただ、鎌を振るえばよいのではない、一本の草を取ったら、どういう風に地面に広がっていたツルや茎がなくなるのか?、その結果、ニンジンならニンジンの株が生えている場所が見えてくるのか来ないのか?、

種まきなら、一粒一粒の種は実際にはどの深さに埋めていることになっているのか?

そういうことを観察する「眼」を養う事が重要だと思います。そして、菜園教室や講座では、そうした「眼」を養う、つまり、「観察の方法」と言うか、「どこに」「何に」注意すべきかを伝えているつもりです。

2週間予報は、今週末から雨がちになることを伝えています。いわゆる「春の長雨」の時季に入ってきます。

今年は、その時季とソメイヨシノの花見の時季が重なっています。いわゆる春の嵐の時季がその後に来ると思います。

それから少し良いお天気の時になり、穀雨(4/20頃)の後、雹が降ることもある不安定な時季となって、その後に爽やかなゴールデンウイークの頃を迎える・・・

それがだいたい例年のパターンなのですが、春の長雨とお花見が同時期に重なる今年、微妙に野菜の生育と天候の変化の関わりが例年と違うパターンになりそうな気がします。

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