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ビール傘【毎週ショートショートnote】

雨の降る夜、大学生の陽子はビニル傘を差して歩いていた。暗い表情の彼女は、ポケットから携帯を取り出し、電話をし始めた。

「もしもし。お母さん?私、東京の大学でやっていける自信ないかも。もう入学して1ヶ月も経つのに、自分の居場所を見つけられなくて…。最近ちょっと辛いんだ」

「陽子なら絶対大丈夫よ。これから楽しい大学生活が待ってるわ。『辛』という字に一本足したら『幸』になるって言うでしょ」

帰宅した陽子は、玄関に傘を広げて置いた。憂鬱なその日は、シャワーを浴びるとすぐにベッドに入った。

翌朝、陽子は気持ちが軽やかになっていた。携帯を見ると、入学してすぐに連絡先を交換した子から「今度一緒にサークル見学に行こう」とのメッセージが入っていた。彼女は不思議と、人生が好転すると確信した。

陽子は玄関に置かれた傘を見て驚いた。昨日まで普通の『ビニル傘』だったはずが、ビールの柄が描かれた『ビール傘』に変身していた。


陽子ちゃん、僕の『一』を君にあげるよ

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』