親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる

『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』を読みました

日本では平均すると1週間に1人以上の子どもが虐待死しているそうです。

『子どもの脳を傷つける親たち』では、不適切な養育(マルトリートメント)が子どもの脳に及ぼす悪影響について書かれていました。今回の『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる (NHK出版新書)友田 明美 著』では、子どもと日々接する親も同時に癒す必要があるということが書かれています。

「虐待なのか否か」よりも、子どもが「傷ついているか否か」

日本では「児童虐待の防止等に関する法律」第2条において行為の内容や範囲が定義されていますが、厚生労働省ではさらにわかりやすく4つに分けて説明しています。  
①身体的虐待 殴る、蹴る、 叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、 溺れさせるなど  
②性的虐待  子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなど  
③ネグレクト 家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する。重い病気になっても病院に連れて行かないなど  
④心理的虐待 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(DV=ドメスティック・バイオレンス)など

どこからが虐待なのかの線引きは非常に難しく、大切なのは、子どもへの行為が「虐待なのか否か」を追及することではなく、その行為自体によって子どもが「傷ついているか否か」を見極めること、だそうです。

マルトリートメントが一切存在しない家庭や教育の場のほうがまれでしょう。わたし自身もふたりの娘に対し、傷つける行為をした経験があります。問題は、ささいなマルトリートメントだからといってその行為を改めず、「継続」させてしまうことです。これを止めないと、深刻な事態へとエスカレートしていく恐れがあります。

マルトリートメントが0を目指すのではなく、気づいたら改める。継続させないということが大事なようです。

成長期にマルトリートメント(不適切な養育)を受け続けると脳はどうなるのか

「前頭前野」──体罰によって萎縮
前頭前野は、感情や思考、行動にかかわる領域です。記憶をつかさどる「 海馬」や情動の処理を行う「 扁桃体」をコントロールしており、危険を察知する扁桃体が過剰に反応しないよう、制御しているのがこの部位です。この部位が萎縮すると、本能的な欲求や衝動が抑制されにくくなります。
「視覚野」──性的マルトリートメントやDV目撃によって萎縮
見たくない光景を細部まで見ないですむよう、「無意識下の適応」が行われたと考えられます。直接子どもを傷つける行為でなくても、暴力が存在する家庭で育った人たちは視覚野が萎縮していました。
「聴覚野」──暴言によって肥大
聴覚野が肥大すると、人の話を聞き取ったり会話をしたりする際、脳に余計な負荷がかかり、心因性難聴となって情緒不安定になったり、人とかかわること自体を恐れるようになったりする場合もあります。
脳におよぶダメージの強弱は次のような結果になりました。  
・両親からの暴言 > 片方の親からの暴言  
・母親からの暴言 > 父親からの暴言  
「海馬」──幼少期のマルトリートメント経験で萎縮
子どもがマルトリートメントなどの強いストレスにさらされると、コルチゾールの濃度が高まり、海馬の神経細胞が損傷を受けることになります。特に3歳から5歳の幼児期に激しい精神的ストレスを受けると海馬が萎縮し、その結果、学習能力や記憶力の低下を引き起こす可能性があります。
海馬はゆっくり発達するため、萎縮などの「変形」が現れる時期が比較的遅いという特徴があります。先行研究によると、子どものころにマルトリートメントを受けると、成人後に左脳の海馬が縮小し、マルトリートメントを受けた期間が長ければ長いほど、小さくなるという結果が出ています。
男児はネグレクト、女児は性的マルトリートメントで「脳梁」が萎縮
マルトリ児の左脳は右脳よりも小さい
マルトリ児の左脳の発達が大幅に遅れている。

また、複数のマルトリートメントの場合では、もっとも 重篤 だったのは、「両親間のDV目撃」+「暴言のマルトリートメント」の組み合わせだったそうです。

つまり、身体的なマルトリートメントを受けた子どもよりも、親同士のDVを目撃し、かつ言葉によるマルトリートメントを受けた子どもの傷つきのほうが、より深刻だったということです。

「両親間のDV目撃」+「暴言のマルトリートメント」って、けっこうありがちだけど、一番子どもの脳が傷つくんですね。

マルトリートメントの成人後の影響

1990年代、アメリカの疾病予防管理センターの医師らが、 19 歳以上の約1万7000人を対象に追跡調査を行いました。この調査によると子ども時代にマルトリートメントなどの逆境体験によってトラウマが生じると、健全なこころや神経の発達が損なわれ、次のような障害を抱える可能性が指摘されています。  
・社会的障害──対人関係に苦しむようになる  
・情緒的障害──意欲の消失、集中力の低下、うつ症状の発現  
・認知的障害──認知機能がなかなか上がらない
こころの疾患に悩まされることから薬物等へ依存する確率も高く、また、心臓疾患や肺がんなどにかかるリスクも通常の人に比べて3倍高くなり、寿命が 20 年短くなるという結果が出ています。

子ども時代に受けたマルトリートメントが原因となり、成人後に引き起こされるこころの疾患としては、
●気分障害  「うつ病」「持続性抑うつ障害(気分変調症)」
●不安症 マルトリートメントと深いかかわりのあるものとして、「パニック症」「広場恐怖症」「社交不安症」「全般不安症」など
●心的外傷後ストレス障害(PTSD)
●解離症 「解離性健忘」、「解離性遁走」、解離性同一症」(多重人格)など
●境界性パーソナリティ障害
などがあるそうです。

そして、幼いころにこころに受けたトラウマは、そのまま放置しておくと、時間の経過とともに重症化していくそうです。
成長期にある子どもの脳は適切な治療をを行えば、傷の回復が見込める場合もおおいにあるそうです。

トラウマの連鎖 愛着障害の連鎖

マルトリートメントをしてしまう親の多くが、自らも過酷なマルトリートメントの被害者だといってもいいでしょう。そして祖父母世代に話を聞いてみると、彼ら自身も親から同様のマルトリートメントや厳しいしつけを受けて育ってきているケースが多く見受けられます。
最大7割の確率で次世代へと連鎖する虐待
人間における虐待の世代間連鎖については、イギリスの精神科医ジャック・オリバー氏による研究が知られています。それによると、子ども時代に虐待の被害にあった人が親になったときの連鎖に関する割合は以下のとおりです。  
・自分の子どもに対して虐待を行うようになるのは全体の3分の1  
・ふだんの生活に支障がないものの、精神的な重圧がかかったとき、かつて自分がされたような虐待を我が子にしてしまう可能性のある人たちが全体の3分の1  
・虐待せずに子育てができるのは全体の3分の1

3分の2ぐらいは次世代に連鎖するというのは、割と多いのではないでしょうか?特に日本は親にもストレスがかかりやすい状態だから、連鎖もしやすいかもしれません。

虐待だけでなく愛着障害も連鎖するそうです。

愛着とは、「子どもと特定の母性的人物(もちろん父親でも構いません) とのあいだに築かれる情緒的な結びつき(絆)」のことを指し、適切な愛着形成こそが、子どもの健やかな成長を支える 礎 になるものです。

マルトリートメントを長期間受け続けると、愛着そのものが歪んでしまうそうです。

自分はとるに足らない人間なのだという負の自己形成が進み、成人して社会に出てからも、良好な対人関係が結べない、うつ病などのこころの疾患にかかりやすいといった問題が生じてきます。このように歪んだ愛着関係を結んでしまったがゆえに出現する、さまざまな負の症状が「愛着障害」です。

そして、愛着障害を持った親は、子ども時代から成人したあとも、説明のつかない生きづらさを感じていて、我が子と良好な愛着関係を結ぶことに困難を抱える人が多いそうです。

発達性トラウマ障害とは

マルトリートメントを受けたことで幼児期に愛着障害を起こす

学童期、ADHDに似た症状に進展する

思春期あたりから解離やPTSD、非行などの症状が見られるようになる

成人期あたりから複雑性PTSDの症状が顕著になり、解離、抑うつ、気分変動、自傷行為、薬物依存、衝動的行動などを引き起こす。

この一連の症状をアメリカの精神科医、ベッセル・ヴァン・デア・コーク氏は「発達性トラウマ障害」と総称しました。

マルトリートメントを受けてきた親たちのなかで、いまもこころの疾患に悩まされているケースの多くは、この発達性トラウマ障害を起こしていたにもかかわらず、十分な治療を受けてこなかった結果だといえるそうです。

複雑性PTSDとは

複雑性PTSDは、不眠や集中困難、過度の警戒心や怒りの爆発といったPTSDの症状に加え、気分変動(感情コントロールの障害) が見られ、他者との関係に問題を抱えやすいこと、自己肯定感や自尊心が低下しやすいことなどが特徴として挙げられます。
複雑性PTSDはトラウマが慢性化することで発症するケースが多く、重篤なマルトリートメントを受け続けている子どもはもちろん、子ども時代にマルトリートメントやいじめを受けて育ち、こころのケアがなされないまま成人した人たちにも多く見られる症状です。
複雑性PTSDがあると、トラウマによるフラッシュバックが起こります。フラッシュバックが起きているあいだ、口調や人格が完全に変わってしまうこともありますし、はたからすれば幻覚を見ているのではないかと思うほど別世界に入り込んでしまう場合もあります。

トラウマ処理でフラッシュバックを減らしていくことで、心の回復は早まると言われています。

フラッシュバックの症状としては、まずは「 言語的フラッシュバック」があります。親から言われた暴言を、まるで親が乗り移ったかのような口調で再現する。目つきも変わったりします。
それから、「 認知的フラッシュバック」。親から「おまえは生きている価値もない」と言われ続けてきたせいで、「わたしは生きている価値のない人間だ」という考えが、折に触れて浮かんでしまう。
「 行動的フラッシュバック」は急にキレて暴れたり、人に殴りかかったりすることですが、これも過去の自分の体験を再現しています。
もうひとつ、「 生理的フラッシュバック」というのもあります。たとえば、ある患者さんが過去に親から首を絞められた体験を話していると、実際に本人の首に手の跡のようなものが浮かんできたりします
このようにフラッシュバックはこれまで考えられていたよりも広範囲に起きてきます。その点は臨床の場でも十分に周知されていないので、理解がもっと進むことが望まれます。

マルトリートメントを継続してしまう親はトラウマによるフラッシュバックを起こしているのかもしれません。

「レジリエンス」の差異

レジリエンスというのは、精神医学の分野では、深刻なトラウマを経験したり、慢性的なストレス下で生活を続けたりといった過酷な環境にあってもうまく順応できる能力、またはその過程や結果のことをいい、「精神的回復力」「精神的弾力性」とも呼ばれます。

マルトリートメントを経験していても、発達の段階で精神的な疾患などを発症することなく成長していく子どももいるそうです。

先行研究によると、マルトリートメントを受けた子どものレジリエンスを左右する要因にはいくつかあり、まず、「個人的な特性」が挙げられます。たとえば、知能が高い、自己肯定感が強い、自己が柔軟で自制心がある、必要に応じて他人とコミュニケーションできる、状況判断ができる、前向きな考え方をする、といった性質です。
次に「家庭的な特性」として、温かで安心できる家庭環境、親子の健全な愛着形成などがあり、さらに「社会的な特性」として、家族以外の大人や友人などとの安定した関係、学びの場の充実、地域の人たちとの関係や公的機関の支援なども含めた社会的ネットワークの充実などがあります。

マルトリートメントを受けている子どもたちの場合は、家庭的な問題を抱えているケースがほとんどのため、個人的な特性と社会的な特性がとくにレジリエンスにとって重要ということになります。

マルトリートメントが重篤であればあるほど、子どものレジリエンスはよりいっそう「社会的な特性」に依存するそうです。
親以外のおとなのサポートがとても大事ということです。

レジリエンスはこころのケアをしながら、親にかわる大人が寄り添い訓練や治療を行うことで、少しずつ高めていくこともできるそうです。

体罰について

日本では、まだ6割の人が体罰を容認しているそうです。

しかし、子どもにとって体罰は身体の痛みだけではなく、こころの傷つきにも直結します。軽い体罰だから傷つかないということでは決してありません。 また、体罰はエスカレートしていく危険性をはらんでいます。
どんな理由であれ、どんな程度であれ、体罰は子どもの成長を著しく損ないます。体罰は間違いなく「暴力」である。社会全体が意識を変えるべきだと考えます。

アメリカ・テキサス大学の研究では、軽度の体罰でも子どもの問題行動リスクが高まるという報告があるそうです。

暴言や体罰は、恐怖によって子どもを一時的にコントロールしているに過ぎません。
「暴言や体罰は子育てに不要なものである」という考えを社会全体でもっとひろく共有していく必要があります。

本当にそう思います。
体罰や暴言に関してのスウェーデンでの事例はとても興味深かったです。

スウェーデンは、1979年に親子法を改正し、世界で初めて子どもに対するあらゆる体罰、心理的虐待を明確に禁止した国です。そして、この法制化を機に子どもへの虐待を激減させることに成功しました。

注目すべきは、政府が法整備と併行して大々的な啓発キャンペーンを展開したことです。まず、子どもをたたかずに育てるためのアドバイスや支援法をまとめた冊子を複数言語で作成し、子どものいる全世帯に配布したのです。さらには小児科や妊産婦クリニックとも協力しながら、暴力によらない育児を行うための積極的な支援を継続して行いました。

1960年代には体罰を容認する人が5割を超え、実際に体罰を行っていた人は9割以上という状況でしたが、法律が社会に浸透し、キャンペーンなどの啓発活動が功を奏したおかげで、体罰を容認する人も、実際に体罰を行う人も年々減少していったのです。2000年代には、なんとそれぞれ1割ほどまでに減っています。

スウェーデンでは虐待が激減した結果、若者の犯罪も減少傾向にあるといいます。スウェーデン犯罪防止委員会の報告によれば、1990年代以降、若者による窃盗や器物損壊などの犯罪が減少しているそうです。同委員会では、犯罪減少に貢献した要因として、家庭環境の改善──すなわち、親からの暴力の減少、親子間の愛着関係の安定などを挙げています。

こういうのは一部の人だけ一生懸命になってもだめで、社会全体に大々的キャンペーンするのが大事だなと思いました。
それなりに時間がかかることかもしれないけど、やろうと思えばできることなのでは?と思ったりもしました。

ペアレント・トレーニング

「子どもに暴言や暴力を浴びせる」→「子どもの脳機能が変化する」→「子どもの健全な成長が阻まれる」→「学習障害や非行を引き起こし、こころの疾患、アルコールや薬物依存症を発症する可能性が高くなる」。結果、社会に適応するのが難しくなります。このような結末は、親が我が子に期待するものとは違うはずです。一方、暴言や体罰に頼らず、適切な愛着形成ができれば、ちょっとやそっとのことでは親子関係は崩れません。

ペアレント・トレーニング(PT)は、「親のはたらきかけ次第で、子どもの成長は劇的に変わっていく」という認識にもとづいたトレーニング法です。以下のようなことをしていくようです。

●親への心理的支援   支援者は、まず参加者のこころの緊張を解き、リラックスする方法を伝えます。認知行動のひとつとして、認知の歪みを修正し、子どもに対して適切な行動を取るようにうながします。また、冷静さを保ち、怒りをコントロールするための「アンガーマネージメント」を体験してもらいます。さらには、ストレスを軽減していく方法を「自ら」探し出すトレーニングも行っていきます。そして、子どもの安全を守るために必須な周囲との連携について、親が知っておくべき情報をお話しします。
●子どもの行動への対処法   子どもの行動を観察することの重要性を伝えます。子どもの褒め方、指示の出し方、子どもが生活を送るうえで効率的なスケジュールの立て方、トークン(ごほうび) などを用いて「好ましい子どもの行動」を増やしていく方法なども紹介します。途中、親子で触れあう時間をつくり、遊びのなかでも子どもを観察し、褒めることを意識しながら楽しむ時間をもちます。また、タイムアウト(子どもの年齢に合わせた時間〈数分間〉、別の部屋の椅子に座らせてひとりにして平静を取り戻させる方法)、ペナルティー(テレビやゲームの時間を減らすなど、許しがたい行動の度合いに比例して課される罰) などを用いて「好ましくない行動」を減らしていく方法などもお話しします。
ペアレント・トレーニング(PT)の受講により親の脳にポジティブな神経回路がつくられると、
①親の育児ストレスが改善  
②子どもの注意機能が向上  
③子どもの問題行動が改善  
PTの効果は、このように親のストレス改善や子どもの行動に変化をもたらしただけではなく、親子の脳機能によい影響をおよぼしていました。

親が変われば子どもも変わるというのは本当なんですね。

また、マルトリートメントを予防するために、親がマルトリートメントを起こすリスクが高いかどうかを事前に察知する方法なども開発されてきているそうです。

マルトリートメントのリスク因子のバイオマーカーなども研究されているそうです。
マルトリ児ほど、唾液のオキシトシン濃度が低いそうです。
マルトリ児は非マルトリ児に比べて、1.4倍もDNAのメチル化により愛着形成にかかわるオキシトシンがはたらきにくくなっていたそうです。
オキシトシンの点鼻などの研究もされているそう。

まとめ

いろいろ長々と書いてしまいましたが。

まとめると、、

・成長期にマルトリートメント(不適切な養育)を受け続けると子どもの脳が変形する。
・完璧な育児をめざすというより、マルトリートメント(不適切な養育)をし続けてしまわないようにすることが大事。
・親からマルトリートメントをうけていても、社会的なサポートでがあれば、レジリエンスがつく
・マルトリートメントをし続けてしまう親は、親自身も自分の親からマルトリートメントを受けていたことが多い。
・マルトリートメントをし続けてしまう場合、複雑性トラウマ障害、複雑性PTSDなどが関係していて、トラウマの治療も必要
親への心理支援や教育により、親の脳が改善するだけでなく、子どもの問題行動も改善する
・マルトリートメントのリスクなどを、手軽に客観的に測定できるような方法も研究されている。

こころというなんだか不確実なものが、こうやって脳科学などで、客観視できるようなデータで測定できるようになると、すごくいいなあと思いました。

マルトリートメントによる社会的損失を考えると、もっと国をあげて取り組んでもいいのではと思うのですが、、、


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